INTERVIEW


#16 【マーケティング解説】急成長から学ぶマーケティングの本質|価値創造のマーケティング

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。全3回にわたり、株式会社ビーケー・ジャパンの野村一裕さんから、バーガーキングの成長について伺ってきました。今回は鈴木智子先生とともに、その成長ストーリーから見えてくるマーケティングの本質を整理します。良い商品をつくることと、その価値を伝えることの関係。ブランドの「らしさ」、話題を集めることの意味、そして成長の中で変えるものと変えないもの。バーガーキングの事例を振り返りながら、価値づくりを考えます。

選ばれる理由の中心にある「らしさ」

お客さまがその店を選ぶ理由を考えるとき、ブランドならではの「らしさ」が一つの起点になります。

為末さん 今回、いろいろなお話がありましたけども、振り返っていかがでしたか。

鈴木先生 やはり「らしさ」の話が一番印象に残っています。マーケティングの目的は価値創造だとお話しされていましたけど、なぜバーガーキングを選びたいのか、バーガーキングのお店に行きたいのか。その店に「らしさ」があるのか、独自性があるのかというところに尽きるなと思います。

良い商品を、選びたくなる価値として伝える

昔からある商品の良さも、置いているだけで伝わるとは限りません。ワッパーの事例からは、商品の魅力を伝え、お客さまが食べたいと思う理由をつくることの大切さが見えてきます。

為末さん ワッパー自体は昔からあったものですけど、さらにコミュニケーションを変えていったこともすごく印象的でした。あれも、「らしさ」の話なんですか。

鈴木先生 私はマーケティングを「価値づくり」と呼んでいて、ものづくりとサービスづくりだけでは、物は売れないんです。ワッパーは昔からおいしいし、昔からあるんだけど、それをぽんと置いているだけでは、お客さまは気づかなかったり、お店に行かなかったりするわけですよね。

それがどう魅力的なのか、お客さまがなぜ食べたいのかという理由をちゃんと作って、伝えていかないと、お店に来て買っていただくことにつながらない。今回の事例でも、それがすごくよく分かると思います。

お客さまの気持ちを想像する

価値を伝えるには、お客さまが商品やブランドをどう捉えているかを知ることも欠かせません。

為末さん 結構Xを見ていらっしゃって、いろいろなお客さまの声も拾っているとおっしゃっていました。お客さまがどんなふうに思っているか、心の中を想像しながらやっていくのが大事なんでしょうか。

鈴木先生 営業もすごく経験されているから、エンドユーザー、最終的な消費者の方がどんなふうにバーガーキングのことを思っているんだろう、食べるときにどんな気持ちなんだろうということを、徹底して感じていらっしゃる。それが野村さんの強みなんだなと思います。

違う個性を持つブランドが、ともに選ばれる

ブランドの「らしさ」は、何をするか、何をしないかを決めるときの基準にもなります。

為末さん やることとやらないことというお話もありましたけど、それもらしさにつながるんですか。

鈴木先生 特にバーガーキングは外資系企業で、グローバルに展開していますよね。グローバル化するときは、やることとやらないことを決めるのが大事だと言われます。変えるところ、変えないところを決めるときに大事になってくるのが、やはりらしさなんです。経営ってすごく面白いなと思うのは、同じ市場でもいろんなプレイヤーが勝者になれることです。1社しか勝者になれないわけではなく、それぞれが違う個性を持っていれば、両方とも勝者になれる。生徒会長みたいな優等生のマクドナルドさんと、ちょっと破天荒な面白いやつを狙っているバーガーキングさんが、同じクラスの中で(二人とも)スターになれる。そこが経営の面白いところかなと思います。

バズが、ブランドの価値につながっているか

話題を集めることと、ブランドの価値を高めることは、必ずしも同じではありません。秋葉原の縦読み広告をめぐる野村さんの振り返りから、コミュニケーションの目的を考えます。

為末さん 秋葉原の縦読み広告は、バズった一方で炎上もして、野村さんご自身は「あれは失敗だった」と、すごく反省しているとおっしゃっていました。一方で、マーケティングを担当している方の中には、炎上ぎりぎりを狙って拡散させ、悪名でも何でもいいから知られたらいい、という考え方もありそうな気がするんです。この辺りはどう考えていくといいんでしょうか。皆さん迷っているような気がするんですけど。

鈴木先生 マーケティングでは予算もすごく使うので、どんな担当者の方もKPIを持っていらっしゃると思います。SNSで一つ気をつけなければいけないのは、マーケターとしてはバズらせたいかもしれないけれど、バズらせることがKPIになってしまうと、ブランド価値の毀損につながることもあるということです。

何のために広告コミュニケーションをしているのか。炎上の方に寄ってしまうと、バズるというKPIは達成しているかもしれないけれど、本当にブランドの価値を高めることにつながっているのかは、気をつけて見ないといけません。短期的には良くても、長期的にはブランドにとって良くないかもしれない。そこは、すごく気をつけた方がいいところだと思います。

成長の中で、何を変え、何を守るのか

店舗数が増え、お客さまが広がると、求められる価値も変わる可能性があります。そのとき、ブランドの核をどう捉えるかが問われます。

為末さん 野村さんは、77店舗から始まって今は300店舗、将来はもっと、3000店舗とかあるべきなんだとおっしゃっていました。今のお客さまに向けたマーケティングの考え方と、将来のお客さまに向けたものは、だんだん変わってきそうな気もしたんですけど。

鈴木先生 スターバックスの成長物語は、その連続だったりするんですね。アメリカで始まったときは、割と富裕層の方に楽しんでいただけるような、どちらかというと知性の高い方をターゲットにしていました。空間だとか、コーヒーを飲むだけではないところに価値の本質があったわけです。成長して違うターゲットに来てもらうようになると、それぞれのターゲットが求めている価値が違う。ブランドとしてどうしていくのかは、常に見直さなければならなくなってくるんですよね。

店舗数が増えていくと、ブランドの核として何を変えるのか、変えないのかは、より大きな問題になると思います。それが成功する成長の軸もあるでしょうし、大きくなりすぎると、ブランドの本質が壊れてしまうこともあり得る。ここはすごく難しくて、だから成長しないと決めるブランドもあれば、成長するというブランドもあって、どちらが正しいというわけではないんです。

一貫した価値づくりは、経営そのものにつながる

ブランドのらしさは、広告だけで伝わるものではありません。店舗、商品、組織など、さまざまな活動とのつながりから、マーケティングと経営の関係を考えます。

為末さん 「直火焼き」というコンセプトや、クラスの中で「聞くと面白いことを言うやつ」という自分たちの立ち位置など、いくつか定められていたと思います。それに従って店舗でやることも決まり、商品づくりも決まっていく。おそらく組織づくりまで従うことになると思うんですけど、そう考えたら、自分たちは何者かというのは、かなり重要な定義だと思うんですよ。

鈴木先生 野村さんの話でも、一貫性という話がありました。広告コミュニケーションだけではなく、バーガーキングジャパンがやっているいろいろな活動が一貫していないと、市場に「バーガーキングらしさ」は伝わらないということなんじゃないかと思います。そういった意味では、我々がずっと言っている、マーケティングは経営そのものなんだというところにつながります。自分が広告コミュニケーションの担当者だったとしても、この商品がどんな思いで作られ、それがターゲットとするお客さまのどういうニーズに刺さっているのか。だから、この価値を伝えるためにどういう広告コミュニケーションをするのがいいのか。全体を俯瞰した視点で取り組まないと、価値は作られていかないんじゃないかなと思います。

商品から伝え方まで、一貫して価値を届ける

今回の対談では、バーガーキングの成長を振り返りながら、商品の良さを、お客さまが魅力を感じる形でどう伝えるかを考えました。ブランドの「らしさ」を基準にし、話題性だけでなく長期的な価値にも目を向ける。そして、商品や店舗、コミュニケーションを一貫させる。鈴木先生の解説から、マーケティングを事業全体の価値づくりとして捉える視点が見えてきました。