INTERVIEW


#12【マーケティング解説】味ぽんから読み解く、ロングセラーブランドの育て方|価値創造のマーケティング

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。前3回にわたり、株式会社Mizkan 代表取締役社長兼CEOの槇亮次さんから、味ぽんの再成長や顧客価値の捉え方について伺ってきました。今回は鈴木智子先生とともに、味ぽんの事例から見えてくるマーケティングの本質を整理します。顧客を起点に考えること、インサイトを捉えること、4Pを一貫させること。そして、商品の基本的な価値や特徴を大きく変えずとも、新たな意味づけによって長寿ブランドを時代に合わせて成長させる考え方を掘り下げます。

為末さん 全3回にわたり槇さんに味ぽんの再成長について伺いました。今回は鈴木智子先生と、味ぽんの事例から見えてくるマーケティングの本質を整理していきたいと思います。3回のお話を振り返って、いかがでしたか。

鈴木先生 何よりも印象に残ったのは、槇さんの中に顧客視点が非常に強く内在化されていることです。お話のすべてが「顧客に始まり、顧客に終わる」という考え方につながっていて、それが疑いの余地なく浸透していることに、改めてすごさを感じました。マーケティングでは「顧客価値の創造・提供・維持」と言いますが、その「顧客」の部分がここまできちんと考え抜かれていることが、とても印象的でした。

為末さん 顧客を見ていくというのは、とても大事なことなのでしょうか。

鈴木先生 マーケティングは常に顧客が中心にあり、顧客のことを忘れてはいけないという考え方です。マーケティングを考えるときに、顧客、英語でいうCustomerを考えることは必ずあると思います。

味ぽんの事例を振り返る上でも、まず起点となるのは「顧客を中心に考える」というマーケティングの基本です。

数字だけでは見えない「インサイト」を捉える

為末さん インサイトというものが大事なのですね。

鈴木先生 数字だけには表れてこないところです。お客さまがどのような生活をされ、どのように暮らしているのかをしっかり見ていくと、お客さまが立体的に見えてきます。その上で、自分たちがどのような価値を届けたいのかを考えるということです。マーケティングリサーチでは、お客さまにいろいろ聞いても、聞かれたことには答えてくださるかもしれませんが、ご自身でも理解していないことが多くあります。また、自分の行動を理路整然と語れるかというと、必ずしもそうではありません。だからこそ、観察やさまざまなリサーチ手法を組み合わせながら、お客さまを本当に深く知ることが必要だと思います。

表面的な回答や数字だけを見るのではなく、生活そのものを捉えることで、顧客の困りごとや求める価値がより立体的に見えてきます。

「自分たちが面白い」ではなく、顧客に問い直す

味ぽんの事例でもう1つ印象的だったのが、企業側が「面白い」と思うことを起点にするのではなく、常に顧客にとっての価値へ立ち返る姿勢です。

鈴木先生 「自分たちが面白い」ということをむしろ否定しているというか、「自分たちが面白いと思っているだけではいけない」というところがありましたよね。必ず顧客を中心に戻ってくるように意識されていて、いろいろな問いかけの中でも、「自分たちが勝手に思い描いていることではないか」「それはお客さまも面白いと思っているのか」と問い直す。その形が、ある意味では仕組みとしてミツカンさんの中にあるのだと感じました。

企業側の思い込みだけで価値を決めず、「それは顧客にとっても価値があるのか」と問い直す。その習慣が、顧客視点を保つための仕組みになっています。

4Pを一貫させて、届けたい価値を実現する

為末さん ディスカッションの中に出てきた「4P」は、どのように物事を見ていく考え方なのでしょうか。今回の事例では、どのように当てはまるのでしょうか。

鈴木先生 4Pの1つ目はProduct、商品です。味ぽんでいうと、味ぽんという商品そのものですね。2つ目がPromotionで、マーケティング・コミュニケーション、分かりやすく言えば広告や広報などです。3つ目がPrice、価格です。自分たちが届けたい価値には、いくらの価値があるのかということです。最後がPlaceで、日本語でいうとチャネル戦略です。どこでお客さまがその商品を手に入れられるのか。味ぽんの場合、以前はスーパーが中心でしたが、最近ではコンビニなども含めた販売チャネルがあります。この4Pをきちんと一貫させることで、企業やブランドが届けたい価値が実現されていきます。今回のお話はProductを中心にしていましたが、味ぽんはロングセラー商品なので、商品そのものはほとんど変わっていません。4PのProductの部分を大きく変えずに、どう時代に合わせて価値を提供していくのか。そこが非常に興味深いと思います。

商品・プロモーション・価格・流通を別々に考えるのではなく、一貫させることでブランドが届けたい価値を形にしていきます。

商品を変えず、「意味づけ」を変える

為末さん この場合、ProductやPromotionの部分は、少しでも変えられたのでしょうか。

鈴木先生 そうですね。味ぽんの実際の味は今回は変えていません。今のところ変えていませんが、意味づけを変えているわけです。家族で食卓を囲むときの調味料から、個人で食べるときの「味変」の調味料へと、使うシーンも変わってきていますし、どのような料理に使うのかという点も変わってきています。意味づけが変わったことで、コミュニケーションにも変化が生まれています。使い方のバリエーションを展開するためにSNSを活用したり、テレビ広告でも「味変」の部分を強調したりしています。さらに多くの人に使っていただくために、コンビニなどのチャネルも強化されていると考えられます。

為末さん では、Productの「意味づけ」を変えることも、Productが変わったことの1つに含まれるのでしょうか。

鈴木先生 そうですね。それも一部に入ってくると思います。

商品の中身そのものを変えなくても、生活の中での意味や使われ方を捉え直すことで、Productの価値は更新されていきます。

長寿ブランドは、新たな意味づけで再び成長できる

鈴木先生 ロングセラー商品をロングセラーとして維持するには、新商品を継続的に出していかなければブランドは衰退する、という一般的な見方もあります。ただ、味ぽんのように、商品の基本的な価値や特徴を変えなくても、新たな意味づけを見つけることで、時代に合わせて再び成長させることができる。これは非常に興味深い価値づくりの事例だと思いました。

為末さん ビジネスとしても合理的ですよね。新しい商品の開発に費用を投じ、それを繰り返していくというよりも、中心にある商品について、さまざまな使われ方を見つけていく。

鈴木先生 一方で、先ほどの槇さんのお話を聞いていると、いつもある「味」のようなものを守るために、味の研究や、おいしさを追求するための基本的なR&Dにも相当取り組まれているのだろうと感じました。私たち消費者からすると、当たり前のように存在する商品ですが、その「当たり前」を実現するための企業努力は非常に大きいのだと思います。

既存商品の強みを生かして新たな意味づけを見つける一方、その土台となる品質やおいしさを守り続ける。両方の積み重ねが、長寿ブランドの成長を支えています。

「マーケティングは経営」とはどういうことか

為末さん 「マーケティングは経営」という言葉が、この番組でも何度か出てきたと思います。これは、どのような意味なのでしょうか。

鈴木先生 企業がなぜ存在できているかというと、価値を世の中に創出できているからです。では、その価値とは何かと考えたときに、マーケティングでずっと言っている「顧客価値」に戻っていきます。どのような企業にも必ず顧客がいて、サービスであれ商品であれ、お金を払ってくださるお客さまがいます。そのお客さまに何らかの価値を創出できているから、企業は存在できています。顧客価値を創造し、提供し、維持し続けることは、経営の考え方そのものです。そういう意味で、マーケティングは価値創出であり、経営そのものだということです。

マーケティングを1つの部門の活動として捉えるのではなく、顧客への価値創出という企業活動の根幹として捉える考え方です。

シンプルな基本を、組織全体で意識し続ける

為末さん マーケティングは、難しい概念というよりも、シンプルな考え方を守り続けることがいかに難しいか、ということなのでしょうか。

鈴木先生 言っていること自体は、とてもシンプルなことかもしれません。だからこそ、マーケティングが十分に評価されていないのではないかと思うこともあります。ただ、それをいかに意識し続けて、日々の経営活動を行っていくのかが大切です。すべての部署が顧客との接点を持っているわけではありません。そうした中で、自分たちがどのような商品を通じて、どのようなお客さまに価値を提供できているのかを意識することは、意外と難しいものです。それでも、そこをすべての社員がきちんと理解できている企業は、ブランドも強く、それが社内のブランドに対する愛情にもつながっていきます。常にお客さまと自分たちのブランドとの関係を意識できているかどうかが、企業やブランドの強さにもつながると思います。

顧客を中心に置くというシンプルな原則を、組織全体で意識し続けること。その積み重ねが、強いブランドを支えています。

味ぽんから学ぶ、長く愛される商品を成長させるマーケティング

為末さん 鈴木先生、ありがとうございました。味ぽんの話から、長く愛される商品を成長させるマーケティングについて理解することができました。

味ぽんの事例から見えてきたのは、商品の基本的な価値や特徴を大きく変えなくても、顧客を深く理解し、今の生活に合う新たな意味づけを見つけることで、長寿ブランドを再び成長させられるということです。顧客を起点にインサイトを捉え、4Pを一貫させ、商品が持つ価値を時代に合わせて更新する。そして、その基本を組織全体で意識し続ける。味ぽんの事例から、長く愛される商品を次の成長へつなげるマーケティングの考え方が見えてきました。