INTERVIEW


#15 【株式会社ビーケー・ジャパン 野村一裕】 「らしさ」で顧客を動かす方法|価値創造のマーケティング

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。今回も、株式会社ビーケー・ジャパン 代表取締役社長の野村一裕さんを迎え、バーガーキングのコミュニケーションについて伺います。前回は、直火焼きや大きなワッパーに込めた、バーガーキングらしい価値を掘り下げました。今回は、そのおいしさをどう伝え、お店に足を運んでもらうのか。限られた予算の中での施策、お客さんとともにつくる取り組み、そして失敗から学んだ表現の境界線をたどります。

プロフィール:野村一裕(のむら・かずひろ)
株式会社ビーケー・ジャパン 代表取締役社長。2002年にキリンビールへ入社し、約15年間、営業を中心に経験を積む。その後2社を経て、ビーケー・ジャパンにマーケティングディレクター・CMOとして入社。現在は同社の経営を担う。

限られた予算で、52週間をどう回すか

おいしい商品も、その価値が伝わらなければ、お客さんに届きません。コミュニケーションを考える出発点には、予算の制約がありました。

為末さん 今回は、「美味しい」けれど「伝えないと伝わらないよね」というところから、どんなふうにコミュニケーションを取られたかを伺っていきたいんですけども。

野村さん とにかく予算のない会社だったんですね。赤字ということで、ズバッと言うと、100店舗あるうちの25店舗ぐらいを閉店させて、大体77店舗から船出が始まると。2019年7月の段階なんですけど、そのときは「大体4億ぐらい使っていいよ」って言われてたんですね。でも、新しい商品を出すたびに、店舗のバナーも変えないといけない。あのバナーって安くないんですよ。大きいバナーって5万とかするんですよ。3万から5万ですよね。その費用が100店舗分かかるわけです。

為末さん バナーっていうのは、どこにあるものですか?

野村さん 入り口にガーンとある、大きいやつです。

為末さん 1店舗ごとにそんなにかかるんですか。

野村さん 送料とかも考えると、結構お金がかかるんです。ですので、何個商品を出せるかも、それで逆算しないといけない。私の給料、私と一緒にやってるマーケ部の3人の給料も、実はそこから支出されるんです。デジタル化を急がないといけない小さい会社なので、その費用もITの予算じゃなくて、マーケティングの予算に入ってくるんですよ。そうしますと、実は手元に残ったのが2億弱なんです。2億弱で52週間回さないといけない。ディスカウントの分もこの予算に含まれますので、相当つらいところだったんです。

限られた予算を、商品展開や店舗での告知まで含めて配分する。その中で、一つひとつの施策がどう受け止められるかを考えていきました。

ただ尖るのではなく、「我々らしさ」を探す

目を引くことだけではなく、その尖り方がブランドらしいものであるかも大切にしていました。

野村さん 1個の施策でどこまで尖れば、お客様がキャッチしてくれるか。ただ、何でもいいから尖ればいいのではなく、我々らしいものって何だということです。まだその輪郭がなかったので、施策がお客さんにどう刺さるかを、ずっとXで見ていました。テレビも我々のことを報道してくれないですし、我々は何をやっても結局Xの中だけで終わっちゃう。良くて800「いいね」ぐらいですね。そういう状況で始めたんですよね。

反応を確かめながら、自分たちらしい伝え方を探していく。施策の尖り方と、お客さんの受け止め方の両方を見ていたことが分かります。

直火焼きを軸に、新しい商品の伝え方を考える

すでに知られた商品の強みを、あらためて話題にしてもらうには、伝え方にも工夫が必要でした。

鈴木先生 昔も今もワッパーが強かったと思うんですけど、それだけじゃダメだったんですね。

野村さん ワッパーの話をするというのは、結局、我々も直火焼きの話をするということだったんです。でも、皆さんにとってワッパーは昔からあるので、何の話のネタにもならない。今のファンの方々には喜んでいただけますけど。我々が当時行ったのは、その直火焼きを軸に、新しい商品をどうやって尖らせていくかということです。ネーミングだったり、商品を出すタイミングだったり、色々なことを考えて行っていったのが、コミュニケーションだったんですよね。

直火焼きという軸を持ちながら、名前やタイミングに工夫を重ねることで、新しい商品を伝えていきました。

「好きだけど店がない」を、お客さんとの共創へ

店舗が少ないという課題も、コミュニケーションの題材になりました。「好きだけど店がない」という声から生まれたのが、「BK TOWN ROOM」です。

為末さん ある程度絞らなければいけないけど、輪郭はまだ見えてない。その中で、どういうふうに施策を打っていったんですか?

野村さん 我々が持っている課題は、店舗数が少なすぎることです。アンケートを取るとですね、当時のバーガーキングが一番言われていたのは「好きだけど店がない」。なので、その文脈を使って、我々は何もできない、お金がない、お客様が引っ越してきてくださいっていうようなことをやったりするんです。「BK TOWN ROOM」っていうホームページを作りまして、そこには結構お金がかかるんですよ。あとはエイブルさんに話をして、エイブルさんのサイトには、ワンベッドルームとか、風呂とトイレが別とか、物件の条件があるじゃないですか。そこに「最寄り2kmにバーガーキングあり」っていうのを書いていただいて。それで成約したら、引っ越しワッパー100枚券を贈呈する。我々だけじゃできないけど、このアイディアをどうやってお客さんとコ・クリエーション(共創)するか。お客さんに面白がってもらって、やってもらうかということを結構やって、それをバズらせていくというところだったんですよね。

企業だけで完結させず、お客さんにも参加してもらう。身近な声を起点に、面白がってもらえる形を考えていました。

物件情報を募り、出店の可能性を広げる

店舗を増やすには、出店できる物件の情報も必要です。そこでも、お客さんから情報を寄せてもらう仕組みをつくりました。

野村さん もう1個は、出店するための物件を僕らが見つけないといけない、という課題です。物件を精査して、絶対ここはいけるというところで出店しますよね。ただ、物件を探す営業マンがいないので、そもそも人を雇わなきゃ情報も入ってこない。ようやく黒字になって、どうするかと考えたときに、一般の人たちから物件の情報を募ることにしたんです。最寄りの駅などで条件に合う物件の写真を撮って、サイトに投稿してもらう。そこに我々の店が入ったら10万円をお渡しする、というのを3年前からやっています。参加してくださった8万人ぐらいのお客さんからの情報を、全部Googleマップにプロットしたんです。そうすると「この辺ってすごくデマンド(需要)が高いよね」と分かる。今はデリバリーを利用する人も多いので、その地域を3kmの商圏に収められれば、少し離れた場所でもやっていけるんです。昔は外れていると言われた場所でも、家賃を下げて出店できる。そういう仕組みを作れたということですね。

集まった物件情報を、需要やデリバリーの商圏と合わせて考える。お客さんの参加が、出店場所を検討するための情報にもなっています。

「自分で歩いていかない」商品を、一貫した表現で届ける

商品の強みを絞り込んでも、それだけで伝わるわけではありません。そこで必要になるのが、ブランドの一貫性を保ったコミュニケーションです。

鈴木先生 良い商品を置いてるだけじゃダメだったんですよね。何が足りなかったと思います?

野村さん ワッパーをいいと思う理由には、いろんな要素があったので、まずそれを1つにするというのが、さっきお話しした直火焼きです。この直火焼きというものを持ってるワッパーは、もう我々のシグネチャー(ブランドを代表する商品)ですね。このシグネチャープロダクトは自分で歩いていかないので、ここでコミュニケーションが必要になるんですけど、ここでブレることが多いんです。僕が言うのがですね、このワッパーの包み紙を「バレンタインだからピンクにしましょう」とか言う人っているんですね。これって一番やっちゃいけないことで、要はお客様はバレンタインだからいいと思うかもしれないですけど、次の日にはもうバレンタインじゃない。でも、包み紙にはピンクが残ってしまう。そういうことにも動じない(一般的な企画で一貫性を崩さない)というのがブランドだと思うんですね。

その時々の企画の中でも、ブランドとして何を守るのか。商品を届ける表現にも、一貫性が問われています。

ユニークさをつなぎ、「食べてみたい」を生む

品質を守ることと、らしさを伝えること。その両方を一貫させる中で、コミュニケーションの細部をつくっていきます。

野村さん 一貫性を持って、常に同じ品質をデリバリーしていく。その上で伝えるのが、『でかい』『アメリカン』『直火焼き』『他にはないユニーク』という特徴です。こうしたユニークさを繋いで、コミュニケーションの細部を作っていくんですよ。なので、我々のコミュニケーションって絶対真似できないんですよ。僕らのユニークさや打ち出し方に、お客さんが呼応してくれるか。そこがマッチすると、ワッパーの位置(ポジショニング)がお店の外にも伝わっていく。「あ、これ食ってみたいな」と思って、お店に来てくれると思うんです。

お客さんが「食べてみたい」と感じられるかどうか。ブランドの個性を伝える先に、来店する人の気持ちを見ています。

話題になった広告から学んだ、他のファンへの配慮

話題を集めた施策にも、反省点がありました。広告として評価されたことと、人を傷つけなかったかは、別の問題として捉えています。

鈴木先生 成功もいろいろあったと思いますけど、中には失敗もあったんじゃないかなと思うんです。何か共有できる失敗事例とかあったら教えてもらってもいいですか?

野村さん 一番の失敗は、皆さんが知ってくださったきっかけになった、秋葉原の縦読みってよく言われるあれ。広告賞をかなり取ったんですよ。

鈴木先生 失敗じゃないんじゃないですか?

野村さん そう思われるかもしれませんけど、自分らの興味を先に出しちゃって、マクドナルドのファンの方々を傷つけてしまった。そこは完全に失敗だと思いますね。やっぱり共存していく中で、この競技を見てくださってるはずなんですよ。その中にはマクドナルド推しの人もいるわけで、もちろん、いつかバーガーキング推しになる可能性もある人たちですね。わざわざスタジアムに来て見てくださってますから。ただ、そこで砲丸投げの選手に、僕がボンと何か言ってしまったようなものなんです。結局それってバックラッシュっていうんですか。我々の方に返ってきたのは、「もう二度とバーガーキング行かない。今まで美味しいと思ったから行ってたのにね。でもマクドナルドをそういうふうに言うなんてとんでもない」っていうところです。私が思ったのは、どんなに尖らせていっても、他社さんとか他の人のテリトリーに入っていくのは非常に失礼なことですし、そこにはファンがいる。ちゃんと考えてファンになっている方々に対して失礼だということでした。我々にはマーケティングブックみたいなものがあるんですけど、最終的にチェックポイントに「これは誰に嫌われるか」「それでオッケーか、オッケーじゃないか」っていう判断材料を入れました。

施策を受け取る人の中には、自社以外のブランドを大切にしている人もいる。その視点を、表現を確認する基準に加えています。

「らしさ」を届けるために、伝え方と境界線を考える

今回は、限られた予算の中で、バーガーキングらしい価値をどう届けるかを伺いました。お客さんの声を施策に生かし、一貫したコミュニケーションを続けること。そして、尖った表現でも他のブランドのファンを傷つけないこと。野村さんの実践から、伝え方と受け止められ方の両方を考える大切さが見えてきました。

次回は鈴木智子先生とともに、バーガーキングの成長から見えるマーケティングの本質を整理します。