INTERVIEW


【神田神社・清水宮司】精神性と営利性は両立できるのか|価値創造のマーケティング #3


マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。ゲストは、1300年の歴史を持つ神田神社(神田明神)宮司・清水祥彦さん。今回は、神社運営の実情に焦点を当てます。神聖な祈りの場を未来へ受け継ぐために、神社はどのような運営を行っているのでしょうか。歴史ある神社を維持するための経済基盤や、精神性と営利性の両立について、お話を伺いました。

プロフィール清水祥彦(しみず・よしひこ)

神田神社(神田明神)宮司。1960年東京都生まれ。1983年に國學院大學文学部神道学科を卒業後、鶴岡八幡宮に奉職。1987年より神田神社(神田明神)に奉職し、2019年に宮司に就任。東京都神社庁副庁長も務める。

神社を未来へ残すために必要な「経済基盤」

神社が新しい取り組みを進める中で、「神社がお金儲けをしている」と受け取られることも少なくありません。鈴木さんは、日本社会における「儲けること」への考え方に触れながら、神社の運営について次のように問いかけます。

鈴木さん 普段、経営学やマーケティングを教えていると、日本社会の中では、儲けるということをあまり表に出さない方がいいといった美徳のようなものがあると感じるのですが、お金を稼がなきゃいけないということを匂わせることに対して、皆様の抵抗感はなかったものでしょうか。

清水さん 非常に厳しいご批判を頂戴することがあります。「神社がお金儲けをしている」という捉え方をいただくことも少なくありません。ただ、私たちは決してそうではありません。今、本殿の改修工事だけでも何十億円という見積もりが出されており、その費用も年々倍増するような状態です。そうした中で、氏子や崇敬者の皆様のご負担やご奉納だけに頼るのではなく、神社自身でも賄えるような経済体制をつくっていかなければならない。そのバランスを考えながら、今、神社を運営しています。

神社の本来の目的は利益を追求することではありません。しかし、神社を未来へ受け継いでいくためには、その運営を支えるための収入も欠かせません。

全国の神社が直面する厳しい現実

神田明神ではさまざまな取り組みを進めています。一方で、その背景には、日本全国の神社が抱える深刻な課題があります。為末さんから、神社を取り巻く現状について問われると、清水さんは次のように語ります。

清水さん 
ほとんどの神社が、年間の収入100万円以下というような状況です。ですから当然、建物の維持もほとんどできませんし、神主さんへのお手当てもその中でしかできません。神主さんがそれぞれの現場で汗をかいて、お宮を守り、神様を守っているところが圧倒的多数な状況です。※神社の規模や地域によって運営規模は異なります

全国の多くの神社では、限られた収入の中で、建物や文化を守りながら神社を維持し続けている現状があります。

神社を支える、新たな運営の形

全国の多くの神社が厳しい状況に置かれる中、神田明神では祈りの場としての本質を守りながら、文化交流施設「EDOCCO」をはじめとする新たな取り組みを進めてきました。

鈴木さん そういった時代背景がある中で、神田明神さんの取り組みで「EDOCCO」という施設を自らがお持ちになるというのは、これは難しさはなかったんですか?

清水さん 大変難しい問題がたくさんございました。神田明神は狭い境内・限られた敷地ですので、外部ににぎわいの場をつくることは、残念ながらできませんでした。そのため、境内の限られたスペースの中に、文化交流を中心とする施設「EDOCCO」を設け、カフェやお土産店なども整備しました。お祈りの聖なる場だけでなく、プラスアルファの時間を過ごしていただける空間をつくることで、神社の多様な魅力を感じていただけるような環境づくりを進めてまいりました。

神社を支える二つの収入

神社の運営は、どのような収入によって支えられているのでしょうか。清水さんは、神社の収入の仕組みについて次のように語ります。

清水さん 
神社には、宗教行為に伴う収入と、収益事業という二つの大きな区分けがあります。お宮参りのお初穂料や結婚式のご奉仕、お賽銭などが宗教行為に伴う収入で、収益事業としては駐車場の運営や不動産の賃貸などがあります。

一方で、こうした仕組みが成り立つ神社ばかりではありません。

清水さん 東京23区の神社は、そうした形で経済が回る仕組みができつつあります。一方で、過疎地へ行くと土地は二束三文の評価しかなく、お参りにいらっしゃる方もほとんどいません。そうした中で、神社の建物を含めた歴史や文化を維持していくことは、非常に困難な時代になっています。

全国の神社が抱える課題

少子高齢化や人口減少の影響を受け、多くの神社では運営そのものが難しくなっています。清水さんは全国の神社が直面している現実について語ります。

為末さん 年間100万円ほどの収入で運営されている神社も多いというお話でしたが、実際に維持が難しくなってしまう神社もあるのでしょうか。

清水さん 今、それが大きな問題になっています。「不活動宗教法人」の問題が年々大きくなってきています。神社界では一つのあり方として「合祀(ごうし)」という形を取ることがあります。二つの神社があって、一方の維持が難しくなった場合に、その二つの神社を一つに合併するという仕組みです。そうした対応を取らざるを得ない時代を迎えています。

全国の神社を取り巻く環境は年々厳しさを増しており、神社の歴史や文化をどのように守り続けていくかが、大きな課題となっています。

デジタル施策から見えた、本当に求められるもの

神田明神では、QRコード決済によるお賽銭やオンラインでのお守り・お札の授与など、時代に合わせた新しい仕組みも積極的に導入してきました。一方で、実際に運用してみることで、多くの人が神社に求めている価値は、利便性だけではないことも改めて見えてきたといいます。

為末さん 神田明神では、QRコード決済によるお賽銭も導入されていると伺いました。実際に導入されてみて、利用者の反応はいかがでしたか。

清水さん 導入した大きな理由は、コロナという緊急事態の中で、いかに接触を避けるかという観点からでした。
ただ、やはり多くの方にとっては抵抗感が強く、残念ながらシステム自体は現在も残っていますが、今はほとんど利用されていないという状況です。※QRコード賽銭は現在運用を終了しています

為末さん テクノロジーやITを活用した取り組みの中で、収益につながったものや、新たな収入源となったものはあったのでしょうか。

清水さん 神社にお参りしたくても、お参りができない方のために、ホームページからお守りやお札を授与できる仕組みを整えました。しかし、実際には多くの方が神社に直接お参りをして、巫女さんや神主さんから直接手渡しでお札やお守りを受け取りたいと思われていることが分かりました。それが圧倒的なニーズであることを、改めて実感したところです。

伝統ある組織に、新しい発想を取り入れる

新しい取り組みは、一人の発想だけで実現できるものではありません。特に長い歴史を持つ組織では、伝統を大切にする文化が根付いているからこそ、変化を受け入れるには組織全体の理解や協力が欠かせません。

鈴木さん 神田明神では、さまざまな新しい取り組みを進めてこられましたが、新しいことは一人では実現できないと思います。宮司も多くの方を巻き込みながら進めてこられたと思いますが、どのように周囲の協力を得ながら取り組んでこられたのでしょうか。

清水さん 私たち職員の多くは、伝統的な価値観を大切にする教育を受けてきました。そのため、私が宮司になった際には、外部からさまざまな方にお力添えをいただきました。そうした方々の力をお借りしながら、新しい発想を伝統的な組織の中に取り入れ、新しいアクションを築いていった、そんな過程でした。

神田明神から学ぶ価値創造とは

今回の対談では、神社を未来へ受け継いでいくためには、伝統や精神性を守るだけでなく、それを支える持続可能な運営基盤や、時代に合わせた取り組みも欠かせないことについてお話しいただきました。また、新しい技術を取り入れる中でも、人々が神社に求める本質的な価値を大切にすることの重要性についても伺いました。次回は、ここまでの対談を振り返りながら、神田明神の取り組みをマーケティングの視点から整理します。神田明神がどのような価値を生み出し、それを現代社会へ届けているのか、その本質について掘り下げます。