INTERVIEW


#4【マーケティング解説】神田明神から読み解く、価値創造の本質 |価値創造のマーケティング

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く『マーケティングホライズン』。今回は、これまで3回にわたって伺ってきた神田明神の歴史や祈り、祭り、現代的な取り組みを振り返りながら、鈴木先生とともにマーケティングの視点から整理します。神田明神の取り組みを読み解く中で見えてきたのは、マーケティングを「価値の創造」として捉える考え方です。すでにある価値を大切にしながら、今の時代の文脈に合わせて翻訳し、新しい形で届けていく。神田明神の事例から、その考え方を見ていきます。

神田明神が届けている本質的な価値とは

清水宮司のお話からは、お守りや商売繁盛、仕事の祈願といった神田明神の取り組みの奥に、人々が神社に求めている気持ちや深いニーズがあることが見えてきます。

鈴木さん お守りだったり、商売繁盛や仕事を祈願するという行動があると思うんですけど、その奥に人は何を求めているのかを考えることが大事です。安心感を得たいとか、仕事や人生の節目には神社に行って神様とお会いして、フレッシュな気持ちで迎えたいとか。そういう気持ちに応える深いニーズがあって、神田明神はそうした気持ちに応える場なんだと思います。

為末さん なるほど。お守りなどの形がある一方で、届けている価値としては、その奥にある気持ちやニーズの部分が大きいということですね。

お守りや祈願という形の先に、安心感を得たい、節目を新しい気持ちで迎えたいといった心や深いニーズがある。そこまで含めて捉えることで、神田明神が届けている本質的な価値が見えてきます。

参拝という「プロセス」そのものにも価値がある

お守りは、受け取るものそのものだけでなく、神社へ足を運び、参拝し、その場でいただくまでの一連のプロセスにも価値があります。

為末さん なるほど。そうしたプロセスを経ることで、清らかさというか、聖なるものが増すような感覚がありますね。

鈴木さん そうですね。すごく象徴的だったのが、ネットでお守りを注文するだけではなく、境内にいらして、実際に巫女さんからいただくという、その一連のプロセスに価値を見出しているところだと思います。また、いろいろな取り組みの裏に届けたい本質的な心がきちんとあるからこそ、単に収入を上げるためだけの取り組みにはなっていないのだと思います。

何を受け取るかだけでなく、どのような流れの中で受け取るか。その体験や、そこにある本質的な心まで含めて価値として捉える視点が見えてきます。

「神田明神らしさ」が生むポジショニング

IT情報安全守護やDX祈願祭、アニメとの取り組みなど、一見すると新しく見える活動にも、秋葉原や日本橋、企業とのつながり、その背後にあるストーリーがあり、「神田明神らしさ」につながっています。

為末さん 神田明神だからこそ取り組んでいると考えると、奇抜な取り組みというよりも、きちんと関連性が見えてきますね。

鈴木さん そうですね。神田明神らしさとは何だろうと考えながら伺っていたんですけど、秋葉原にあって、日本橋にあって、企業とのつながりがあって、その背後にあるストーリーを聞くと、やっぱり神田明神さんならではだと分かります。神社にもさまざまなタイプがある中で、他の神社さんとどう違うのかが際立って見えてくる。マーケティングでいうポジショニングとしても面白いところです。

歴史や場所、人とのつながりを背景にした独自性があるからこそ、新しい取り組みにも一貫した「らしさ」が生まれています。

伝統を「今の時代の文脈」に翻訳する

神田明神では、神社の本質である祈りや心の安寧を大切にしながら、現代文化やテクノロジー、商売といった要素を掛け合わせ、伝統の意味を今の時代に届く形へ翻訳しています。

為末さん 
神田明神の価値を、今の時代の中で位置づけるとしたら、どのように捉えられますか。

鈴木さん 
現代都市に生きる人々のための、祈りとつながりのよりどころを提案しているというのが、価値提案だと思います。神社の本質である祈りや心の安寧を大切にしながら、そこに現代文化やテクノロジー、商売といったものを掛け合わせています。伝統そのものを変えているわけではないんだけれども、伝統が持つ意味を今の時代に生きる人々のコンテキスト、文脈にきちんと翻訳して、それで届け直しているんです。

本質を大切にしながら、表現や届け方を今の時代に合わせる。この考え方は、長く続く組織やブランドにも通じます。

変化の中でも残る「本質」

時代に合わせて形を変えていく一方で、「自分たちらしさ」をどう保つかも重要になります。変化を重ねてもなお残るものに、その組織の本質が表れます。

為末さん 時代に合わせて変えていくことは大切ですが、変え続けるうちに「そもそも自分たちは何者なのか」と分からなくなることもありそうです。変えていく一方で、神田明神らしさのような確固としたものもある。このバランスは難しそうですね。

鈴木さん 伝統工芸のお話を伺った時にも、伝統は壊そうとしてもなかなか壊れないところがあると皆さんおっしゃっていました。神田明神の宮司のお話を聞いていても、あれだけいろいろなことをされているのに、最後は本質的なところ、神社として大事にされているところに話が戻ってくる。変えてはいけないものというのは、意識せずとも自分のものとして内在化されているのではないかと感じました。

新しいことに取り組みながらも、大切にしている考え方が自然と軸になる。変化を重ねても、本質はその中に残り続けます。

価値創造は「ゼロから生み出す」ことだけではない

価値創造は、全く新しいものをゼロから生み出すことだけではありません。すでにある価値を今の時代に合わせて捉え直し、新しい人たちへ届く形にしていくことも、重要な価値創造です。

為末さん 最初にマーケティングを「価値創造」と定義されていましたが、改めて価値創造とはどのようなものなのでしょうか。

鈴木さん ぜひ聞いてくださっている方にも考えていただきたいんですけど、価値創造とは、必ずしも全く新しいものをゼロから作り上げることだけではありません。もちろんそれも価値創造なんですけど、そうじゃない場合もあって、すでにある価値を今の時代の文脈に合わせて翻訳し直していく、作り直していく。そうすることによって、新しい人たちに新たな形で届く形にしていく。これも非常に重要な価値創造です。

新しいものをつくることだけでなく、すでにある価値を見つめ直し、今の時代に合う形で届け直すことも価値創造です。神田明神の事例は、その考え方を具体的に示しています。

変えるときこそ「何のために存在するのか」に立ち返る

今の時代に合わせて価値を届け直すときには、何を変えるかだけでなく、「何のために存在しているのか」という本質に立ち返ることが軸になります。

為末さん 価値創造として今の時代に合わせて変えていくとき、どのようなことを意識するとよいのでしょうか。

鈴木さん やっぱり、我々は何のために存在しているのかという、パーパス、本質の部分ですね。事前にインタビューさせていただいた時にも、宮司の言葉からパーパスという言葉が出てきました。何のために神田明神は今存在し、これからも存在しなければいけないのか。そこを捉えていることが大事で、それがあれば、いろいろな新しい取り組みも奇抜なもので終わらないのだと思います。

新しい取り組みを考えるときこそ、自分たちは何のために存在しているのかに立ち返る。その軸があることで、変化にも一貫性が生まれます。