*本記事は、『マーケティングホライズン』2022年第3号(4月1日発行)に掲載された内容を、Web版として再掲したものです。
巻頭言
 「先が見えない大変な時代がやってきた」という言葉は、21世紀に入ってからでも何回聞いたことでしょうか。2020年に始まった新型コロナウイルスの流行は、もはや流行を超えて常駐の気配すら感じさせますし、昨今の世界情勢。本当に来年2023年、どころか来月2022年4月の今頃がどうなっているのか分かりませんね。
 本誌の名前『マーケティングホライズン』のホライズンは、地平線。地平線まで見渡して、その地平線の先のまだ見えないもののヒントを提供するのが本誌の役割ですが、一寸先も見えないということになると、お安い「未来展望」的な議論は意味をなしません。「見えないものが見える」知の巨人の議論が求められます。
 今回の特集は、大変な危機に鑑み、「わたしとわたしたちのこれから」をテーマとしました。どのような号にするか。編集委員会で議論を重ね、委員が一個人として話をお聞きしたい人を挙げて、その人に語ってもらおうということになりました。人間の本質に立ち返って「見えないものが見える」お話を聞かせてくださる素敵なお方が4人揃いました。うれしいかぎりです。
 JOIさんこと伊藤穰一さんは、2011年から2019年までMITメディアラボの所長を務めたデジタルの世界の巨人ですが、京都西陣の細尾真孝さんを「ディレクターズ・フェロー」に採用するなど論理を超えた美と夢を追う深い洞察力の持ち主です。
 上野千鶴子さんは、最近は東大入学式での祝辞が有名ですが、そこでの以下のお言葉はまさに至言です:「大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています」。わたしたちの明日は「こうなる」、ではなく「こうする、こうしたい」だということを教えられます。
 玉塚元一さんもやはり、こうなる、ではなく「自分たちが未来をつくる」派の最右翼で、世界の一流が日本の一流と溶け合って世界一を目指すという、おそらくはわが国のどの組織にもなかった初の試み、ラグビーのリーグワンに挑戦されています。
 安田登さんも能楽、東洋古典、デジタルなどなど、実に懐の深い巨人、いや超巨人でいつも多くのことを学ばせていただいています。字の起源に造詣が深く、字の発明は三次元の現実を二次元の紙片に写す微分で、字を読むことは二次元の紙から三次元の現場を呼び戻す積分だ、というお言葉は忘れられません。
 どれも驚きに満ちたメッセージです。順不同でお楽しみください。
本誌編集委員長 片平 秀貴