前回は、SIXPADが単なるEMS機器ではなく、「健康寿命」という価値を提供するブランドへと進化してきた背景を伺いました。今回は、クリスティアーノ・ロナウド選手の起用による大ヒット後、SIXPADがさらにブランドとして成長していくために、どのような考え方で事業を組み立てていったのかを伺います。お客様を理解し、誰に対して売るのか、どのような提供価値をつけるのかを考えること。ターゲットの分け方、組織体制、アンバサダーの考え方、そして高齢者や女性へと広がる商品開発から、ブランドを成長させるための「Who」と「What」の考え方を紐解きます。
プロフィール:石谷 桂子(いしたに・けいこ)
P&Gで約25年間、マーケティングを中心にブランドビジネスに携わり、価格戦略や製品戦略を含めた事業づくりを経験。その後2社を経て、ウェルネス・ヘルスケア領域で事業責任者として仕事をしたいという思いから株式会社MTGへ入社。現在はSIXPADやStyleなどのウェルネス事業を担い、EMSのテクノロジーを通じた健康寿命やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上につながる価値創造に取り組んでいる

SIXPADをさらに成長させるための「仕組み」
ロナウド選手の起用によって大きく認知を広げたSIXPAD。その後、売上は横ばいとなっていましたが、耐久品で買い替えが頻繁に起こらない商品でありながら、一定数が継続して売れていること自体は強みでもありました。
為末さん ロナウド効果で大ヒットしたSIXPADですが、ブランドとしてさらに成長していくために、石谷さんが入社された頃はどのような状態だったのでしょうか。
石谷さん 耐久品で、あまり買い替えが頻繁には起こらない商品でありながら、売上が横ばいでも一定数が入ってきているということは素晴らしいことだと思いました。一方、自社には右肩上がりに伸びているReFaというブランドがあり、SIXPADもブランドとしてさらに成長していくために、どのような成長戦略を描くかを考える状況でした。そこで取り組んだのが「仕組み作り」でした。商品というのは、製品として出せば売れるというものではありません。お客様のことを理解して、誰に対してどういう提供価値をつけて売るのか、どういうマーケティングプランや販売戦略で売るのかを考える必要があります。
そこで石谷さんは、誰に、どの価値を、どう売っていくのかまで含めて設計できるよう、マーケティングプランや販売戦略を含めた仕組みを整えていきました。
同じSIXPADでも「誰に届けるか」は違う
SIXPADには、腹筋などを鍛えるフィットネス系の商品がある一方、高齢者を中心に支持されるFoot Fitのような商品もあります。同じEMS技術を使っていても、ターゲットのお客さんは全然違うと石谷さんは話します。
石谷さん ぽっこりお腹が気になっている50代ぐらいの男性をターゲットにするものと、健康寿命を延ばすために足腰を鍛えたい高齢者をターゲットにするのとでは、製品の成り立ちもストーリーも違ってきます。
そこで、同じ担当者が扱っていた商品をカテゴリーごとに分け、それぞれのターゲットに合わせてマーケティングを考えられる形へ整理しました。さらに「Who」から考えた時に、年齢や性別だけではなく、お客様の健康ニーズで分けていく考え方へつながっていきます。

年齢や性別ではなく「健康ニーズ」で分ける
ターゲットを考える際、石谷さんが重視したのは年齢や性別といった属性だけではなく、「どのような健康上のニーズを持っているか」という視点でした。
鈴木さん 年齢とか性別とか、そういう属性だけで区別すると、本当に狙うべきターゲットが見えてこないということですね。健康ニーズは、やっぱりセグメントによってそんなに違うものなのでしょうか?
石谷さん 色々調べてみると、腰の痛みがある人が3000万人近くいたり、ぽっこりお腹が気になるけれどなかなか運動できない人が2000万人ぐらいいたり、肩こりのニーズも何千万人単位であったりします。そういう意味で、「Who」から考えていった時にニーズで分けた方がいいなと思いました。
例えば腰痛では、接骨院で痛みを取ってもらった後に「体幹を鍛えなきゃいけない」「こういうエクササイズをしなきゃいけない」と言われても、2回ぐらいやったらやめてしまい、また痛みがぶり返して通うということが起こります。筋肉を鍛える必要はあっても、日々の運動を続けられない。だからこそ、「ながら」でできる製品が必要ではないかと考えたといいます。年齢や性別だけでなく、「何に困っているのか」という健康ニーズから見直すことで、ターゲットと提供価値がより具体的に見えてきます。
商品企画から営業までを一つの事業として見る
顧客起点の戦略を実行するには、組織のあり方も重要です。当時はブランドマーケティングの組織と営業の組織が分かれており、それぞれが別々に動いていました。
鈴木さん 会社の中でいろんな部署が別々にやっていると、何がうまくいかないですか?
石谷さん 営業はいろいろなブランドを持っていたので、ReFaのように新製品が多くて売れ出すブランドがあると、どうしても売りやすい方を優先してしまうんです。そうするとブランドごとの優先順位がついてしまいます。
だからこそ、カテゴリーの中でナンバーワンを目指すのであれば、事業責任者をきちんと置き、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのかを責任を持って深掘りする必要があると石谷さんは考えました。
石谷さん自身も、商品企画から営業に至るまで、SIXPADの事業全般に一貫して関われることに強く惹かれたといいます。マーケティングだけ、営業だけではなく、商品企画から販売までを一つの事業として捉えることが、ブランドを伸ばすための基盤となりました。

EMSの原点から「鍛えにくい人」を見つける
SIXPADが持つ大きな強みの一つがEMSの技術です。石谷さんは、事業を広げる際にその技術の原点へ立ち返りました。
鈴木さん ブランドでウェルネスを提供していくというところを、もう少しお伺いしたいです。
為末さん EMSは、そもそもリハビリから始まった技術で、筋肉を鍛えるためのものです。だからこそ、改めてEMSの原点に立ち返り、「筋肉を鍛えにくい人は誰なのか」「その人たちにはどんな健康ニーズがあるのか」というところから考えていきました。
高齢者の足腰や腰の悩みなど、日々の運動を続けにくい人にとって、EMSをどう役立てられるかを考えることが、SIXPADの提供価値を広げる一つのきっかけになりました。
ロナウドの強烈なイメージをどう乗り越えたか
SIXPADといえば、クリスティアーノ・ロナウド選手を思い浮かべる人も少なくありません。10年経った今でもイメージが残るほど、大きなマーケティング効果がありました。
鈴木さん ロナウド選手の印象が強い中で、Foot Fitのように異なる健康ニーズを持つ方へ届けていく時には、どのような考え方が必要だったのでしょうか。
石谷さん ロナウド選手のイメージが強いと、どうしても「ロナウド選手に何をしてもらうか」という発想になりやすくなります。一方で、アスリートはあくまでもアンバサダーです。人に立ち返って、健康ニーズがどこにあるのかを見ることが大切だと考えました。
そこで、まず生活者の健康ニーズを見て、その後に誰に伝えてもらうのかを考える形へ整理していきました。商品を必要とする人が自分ごととして受け止めやすい伝え方を考えることで、SIXPADが届けられる層も広がっていきます。
高齢者から女性まで広がるSIXPADの商品開発
健康ニーズを起点に考えることで、SIXPADの商品は腹筋を鍛えるフィットネス系の商品だけでなく、高齢者の足腰を鍛えるFoot Fit、腰の筋肉を鍛えるEMS機器、骨盤底筋を鍛える商品などへ広がっています。
鈴木さん SIXPADには、いろいろな商品があるということですか?

石谷さん Foot Fitは、比較的高齢者の方をターゲットにした、膝下の筋肉を鍛える商品です。ほかにも、腰に巻いて使う腰用のEMSや、骨盤底筋を鍛える商品があります。
また、SIXPADには男性のイメージが強い部分もありますが、女性にも筋肉や体幹に関するさまざまな悩みがあります。そうしたニーズに合わせて、女性向けの製品開発も行っています。「Who」から考え、どのような健康ニーズがあるのかを見ることで、SIXPADが届ける商品や価値の幅も広がっています。

SIXPADから学ぶ「Who」起点のブランド戦略
今回の対談では、SIXPADが「Who」から考え、お客様の健康ニーズに基づいてターゲットを分けていく考え方が紹介されました。フィットネス系の商品と高齢者向けの商品では、ターゲットのお客さんも、製品の成り立ちやストーリーも異なります。そこでカテゴリーを分け、商品企画から営業までを一貫して事業として捉えながら、誰に対して、どのような提供価値をつけ、どう売っていくのかを考えていく。さらに、EMSという技術についても「鍛えにくい人は誰なのか」「どのような健康ニーズがあるのか」と人に立ち返って考えることで、足腰や腰、骨盤底筋など、さまざまなニーズに応える商品へと広がっています。SIXPADの取り組みから、「Who」と「What」を行き来しながら、お客様のニーズに合わせてブランドを育てていく考え方が見えてきます。