INTERVIEW


#14 【株式会社ビーケー・ジャパン 野村一裕】なぜ「大きいワッパー」で勝負する?|価値創造のマーケティング

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。今回も、株式会社ビーケー・ジャパン 代表取締役社長の野村一裕さんを迎え、バーガーキングを代表する「ワッパー」に焦点を当てます。前回は、営業経験が育てたマーケティング観と、日本市場での成長に向けた考え方を伺いました。今回は、直火焼きという製法、大きさへのこだわり、そしてブランドの個性を伝えるコミュニケーションを通して、バーガーキングならではの価値の届け方を掘り下げます。

プロフィール:野村一裕(のむら・かずひろ)
株式会社ビーケー・ジャパン 代表取締役社長。2002年にキリンビールへ入社し、約15年間、営業を中心に経験を積む。その後2社を経て、ビーケー・ジャパンにマーケティングディレクター・CMOとして入社。現在は同社の経営を担う。

ワッパーの価値を支える「直火焼き」

ワッパーの特徴を支えるのは、パティを上下から焼き上げる直火焼きの製法です。提供までの時間にも、その作り方が関わっています。

為末さん ワッパーは有名ですよね。アメリカなどでも、ワッパーやワッパージュニアを見かけます。

野村さん 何よりも製法で、直火焼きという特徴があります。上からも下からもパティを焼き、余分な脂が落ちたものをハンバーガーにしていく形です。日本では、グリルという鉄板の上で焼いていく方法が一般的で、大手のハンバーガーチェーンでも採用されています。私たちは、グルメバーガーのように火を使ってきちんと焼くことが、プロダクトとしての大きな差別化になっています。

為末さん システマティックに作っているマクドナルドに対して、作り方に工程があるという感じでしょうか。

野村さん そうですね。提供時間も変わりますし、パティが何分で焼き上がるかも違います。そのため、お待たせする時間は、バーガーキングでは世界的に長くなっています。ただ、ワッパーには野菜が入っていて、脂も落としています。丁寧に作っているからこそ、夜召し上がっていただいても全然いけるようなイメージが、きちんとできているということです。

作り方の違いを、商品の味や食べる場面まで含めて捉える。直火焼きは、ワッパーの価値を考える上での出発点です。

大きな一品で伝える、パティのおいしさ

日本独自のメニューとして登場したのが、「ダーティ ザ・ワンパウンダー」です。実際に手に取ると、その重さやボリュームが伝わってきます。

為末さん こちらは、何という商品ですか。

野村さん 「ダーティ ザ・ワンパウンダー」です。日本独自の商品で、ザ・ワンパウンダーシリーズは、我々のシグネチャーになってきました。

為末さん めっちゃ重いですね。持ってみてください。

鈴木先生 重いですね。これは何kcalあるのでしょうか。

野村さん 1,500kcalを超えています。

為末さん 1,500kcalですか。お肉は何枚入っているのでしょうか。

野村さん パティは4枚です。チーズもたんまり、4〜6枚くらい入っています。

為末さん おいしい。すごいですね!やっぱり香ばしい、焼いている味がします。

大きさや見た目に加え、食べた時に感じる香ばしさ。その体験から、話題はパティの価値へと進んでいきます。

効率だけでなく、食べたいと思う味を大切にする

目を引く見た目の先にあるのは、パティそのもののおいしさを伝えるという狙いです。

野村さん その香ばしさを表現したかったということもあります。見た目の面では、「誰がこんなの食べるの」とSNSで話題になりますが、それ以上に、実際に召し上がると、我々が一番伝えたい「このパティって本当にうまいんだぜ」ということが伝わります。

野村さん ハンバーガーでは特に効率が重視されます。1秒でも早く、1円でも安くお客さんに届けるために動くわけですが、私たちは味やパフォーマンスを重視しています。その点では逆を走っているんです。効率はめちゃくちゃ悪いですし、人を待たせてしまうということですね。

為末さん そうなのですね。

野村さん ただ、これを本当に召し上がりたいという方々のために用意しています。ワッパーは我々のシグネチャーです。日本ではスモールバーガーで展開するのが通常ですが、我々はそれに従わずに、このでかいワッパーで勝負しに行くんです。ハンバーガーにめちゃくちゃフォーカスしたものを出していくことが、ユニークさかなというところで押しています。

提供までの効率を理解した上で、食べたいと思ってもらえる味に力を注ぐ。その選択に、バーガーキングが大切にする商品の特徴が表れています。

クラスで「一言面白いことを言う人」を目指す

広く知られた競合がいる市場で、どのような存在を目指すのか。ブランドの立ち位置を、野村さんは学校のクラスに例えて語ります。

為末さん 日本でハンバーガーと聞くと、マクドナルドと答える方が多いと思います。その市場に入っていく中で、自分たちは何者なのかをどう考え、今の商品に行き着いたのでしょうか。

野村さん (学校の)1つのクラスがあるとすると、マクドナルドさんは王者で、私から見れば生徒会長のような存在です。同じクラスの学級委員長が、モスバーガーさんです。

為末さん モスバーガーが学級委員長なのですね。

野村さん では我々は何かというと、普段は勉強もそんなにできないんですよ。言葉も少ないんですけど、何か振られた時に、ポロッと面白いことを言える人です。そういう人はいませんでしたか。

為末さん いましたね。

野村さん 僕らは、あの子になりたいんです。「あいつって一言面白いよな」と思ってもらうには、ある程度の尖りが必要です。違うユニークさがあって、みんながそこに惚れていく。そういう自分をつくっていくということです。

目指すのは、独自の個性によって人を惹きつける存在です。その立ち位置は、商品だけでなく、ブランドの伝え方にもつながっています。

ブランド自身を好きになってもらう一貫性

ブランドの個性は、何を伝えるか、どのような取り組みを選ぶかにも表れます。

鈴木先生 その個性とは、具体的にはハンバーガーの味などを指すのでしょうか。

野村さん どちらかというと、それを打ち出していく時の一貫性です。我々は、あまりコラボレーションをしません。任天堂やポケモン、ディズニーなどの強いコンテンツはいろいろありますが、一切やりません。我々がやると、めちゃくちゃ他人の褌でやっているみたいな感じで、来るお客さんはポケモン目当て、任天堂目当て、マリオ目当てになってしまうんですね。

野村さん 私はXでバーガーキングについて見ていますが、「またまたバーガーキングやってるよ。バカじゃん(好き)」と言われる。その反応を、いつも目指しているんです。

為末さん 今のは、理想的な褒め言葉なのでしょうか。

野村さん 理想です。「バカだな、お前は本当に。でも、かわいいよね」と思ってもらえるような、かわいがってもらえるキャラクター。まさに、クラスにいる30人のうちの1人なんです。

商品とともに、ブランドそのものに親しみを感じてもらう。そのために一貫した個性を打ち出すことを大切にしています。

日本でも、大きいワッパーで勝負する理由

日本市場に合う大きさの商品がある中で、なぜ大きいワッパーを中心にするのでしょうか。その判断には、味とブランドの独自性への考え方がありました。

鈴木先生 日本でもワッパーの大きさを変えなかったというお話を、もう少し詳しく教えていただけますか。

野村さん ワッパージュニアという商品もあり、それが今の日本市場に合う大きさです。単価も低いですし、パティのサイズが変わると、味も変わってきます。

鈴木先生 大きい方がおいしいのでしょうか。

野村さん 大きい方がおいしいんです。これを売らずして、なぜその下のプロダクトを売りたがるのか、僕にはメイクセンス(納得)しなかった。妥協して、ちっちゃいのがたくさん売れましたといっても、どうやったって10年〜15年ですよ。それはなぜかというと、同質化されてしまうので。マクドナルドがレタスを入れて、マヨネーズを使ってトマトを入れ始めたら、同じものですよね。

野村さん (お客様が)1分多く待たないといけない。それでも「また食べたい」と思ってもらうために、ブランドの輪郭をコミュニケーションで出し、「あいつら面白いよね」「あいつらかわいいよね」「あいつら何か応援したいよね」というところを、ずっとデリバリーしてきました。それが、この6、7年間です。

商品の味と、応援したくなるブランドの輪郭。その両方を届けることが、大きいワッパーで勝負する考え方につながっています。

独自性を信じて、日本市場に向き合う

大きいワッパーを中心にする判断は、すべての人が同じように受け止めたわけではありません。グローバルとの対話でも、その大きさが論点になりました。

鈴木先生 グローバルから「小さい方がいいのではないか」と言われた時に、日本では大きい方がいいと、どのように説得したのでしょうか。

為末さん 日本人は体が小さいと考えると、私たちもすぐには納得しにくい気がします。

野村さん そこは思い切りの部分です。リスクを取るか、取らないかということもあると思います。

鈴木先生 直感ですか。

野村さん もう直感です。このワッパーのビッグサイズで勝負できないんだったら、多分10年後、この会社もない、このブランドもない。要は、ウォールナット(日本市場)の殻は破れない。ユニークさがないので。

為末さん その直感を信じるのは、大変ではありませんか。

野村さん 大変です。ただ、(当時は赤字企業で)先ほどお話しした背水の陣ですかね。小さい方でやってもうまくいかないと思うし、うまくいかなかったら、僕もまた転職しないといけない。だったら「大勝負やらせてよ」と。このワンパウンダーはまさにそうですね。「やるな」と言われていたんです。「気持ち悪い、量が多すぎる」という話でした。

為末さん グローバルからも、量が多すぎると言われたのですね。

野村さん 言われます。「量が多すぎる。日本人はもう、データでこうこうこうだ。胃袋はちっちゃい、どうのこうの」。関係ない。買う人は買うから、というところです。実際、売れていますから。

グローバルから大きさへの懸念が示される中でも、「買う人は買う」と考えた野村さん。その判断には、ユニークさがなければ日本市場の殻は破れないという思いがありました。

「直火焼きだから」に、伝える価値を揃える

ワッパーは、野村さんの入社前からあった商品です。その価値をどう伝えるかによって、お客さまの捉え方も変わったといいます。

為末さん ワッパーは、野村さんが入社する前からあった商品ですよね。(野村さんが入社した)前と後では、一体何が変わったのでしょうか。

野村さん 強い商品があっても、その価値が伝わらなければ、お客さんは動いてくれないということです。以前は、「大きい」「値引きをしている」「野菜がたくさん入っている」「100%ビーフ」と、さまざまな特徴を伝えていました。ただ、(そういうコミュニケーションをすると)お客さんがバーガーキングを選ぶ理由も、「安いから」「トマトが入っているから」と、人によってばらばらになってしまいます。何が魅力なのか、共通の言葉で語れない状態だったんですね。

野村さん 我々が打ち出したのは「直火焼き」です。みんなが好きなのは、直火焼き製法による肉々しさを感じることだと考えました。だから、大きさの話もしませんし、野菜の話もしませんし、我々が思うパーフェクトなバランスの話もしません。何か新しく出すたびに「だから直火焼き」「直火焼きだから」という言葉をコピーに入れるようにしたんです。

野村さん まずは、お客さんがバーガーキングを選ぶ理由を「直火焼きのおいしさ」に揃える必要があると思ったんです。そこが定まらなければ、ファウンデーション(選ばれる理由の土台)ができません。ワッパー自体は以前からありましたが、2019年から伝え方を変えたことで、お客さんのワッパーに対する捉え方も変わってきたということです。

さまざまな特徴の中から、選ばれる理由となる価値を定め、繰り返し伝える。直火焼きを中心に据えることで、ブランドの伝え方に一貫性を持たせています。

直感の土台にある、ハンバーガーへのこだわり

大きさへの判断を支えていたのは、直火焼きのおいしさを最も伝えられる商品を前に出すという考えでした。

鈴木先生 日本でも大きいワッパーでうまくいくだろうという判断は直感だったとのことですが、その直感を紐解くと、どのような理由があったと思いますか。

野村さん 他社がやっていないことを絶対にやらなければいけないという考えがあり、それが直火焼きでした。どの場面でも、我々はハンバーガーのことを話しています。デザートやフレンチフライのおいしさを前面に出すことは、あまりありません。「直火焼きだからうまい」ということを伝えていくと、最終的には、大きいワッパーを召し上がっていただきたい。その価値を一番演出できるプロダクトが、ワッパーだったんです。

鈴木先生 小さくなくて、大きい方が絶対に刺さる。

野村さん もう間違いないです。ビーケー・アジアパシフィック(アジア太平洋地域本部)が、ずっと「スモールバーガー」と言うんです。そこで、大きいパティを使いながら、バンズだけを小さいものにして、パティがはみ出した商品を「これでスモールバーガーだ」と言って出したんですね。そしたら、もう失笑していましたね。その肉をやっぱり出したいという気持ちなんです。「これなんだよ」と。

鈴木先生 バーガーキング愛なのでしょうか。

野村さん そうですね。

直火焼きのパティを、どうすれば最も伝わる形で届けられるか。その問いを突き詰めることが、大きいワッパーへのこだわりにつながっています。

商品の強みと伝え方を、一つの価値につなげる

今回の対談から見えてきたのは、直火焼きという商品の強みと、ブランドらしい伝え方を揃えることの大切さでした。大きいワッパーでパティのおいしさを伝え、コミュニケーションでも「直火焼きだから」という価値を繰り返し届ける。そして、面白さや親しみを感じ、応援したくなる存在を目指す。商品とブランドの個性を一貫させることが、バーガーキングのマーケティングを形づくっています。

次回は、過去の失敗から得た学びについて、さらに詳しく伺います。