INTERVIEW


【神田神社・清水宮司】1300年続く神社は、なぜ今も人を惹きつけるのか?|価値創造のマーケティング #1

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。記念すべき第1回のゲストは、1300年の歴史を持つ神田神社(神田明神)宮司・清水祥彦さん。神田明神は、江戸・東京を代表する神社として知られる一方で、企業参拝やアニメ・ポップカルチャーとのコラボレーションなど、新しい価値創造にも積極的に取り組んできました。1300年という長い歴史を持ちながら、なぜ今も多くの人を惹きつけ続けているのか。その背景には、「伝統」と「革新」を両立させる独自の考え方があります。今回は、神田明神が時代の変化に合わせて価値を届け続けてきた理由とその姿勢から見えてくるマーケティングの本質について伺いました。

プロフィール清水祥彦(しみず・よしひこ)

神田神社(神田明神)宮司。1960年東京都生まれ。1983年に國學院大學文学部神道学科を卒業後、鶴岡八幡宮に奉職。1987年より神田神社(神田明神)に奉職し、2019年に宮司に就任。東京都神社庁副庁長も務める。

神田明神が1300年続く理由とは

今回の対談では、「マーケティング=顧客価値の創造」という視点から、1300年以上にわたり人々とのつながりを築いてきた神田明神の価値創造の本質に迫ります。その価値を生み出し続けてきた背景について、清水さんは次のように語ります。

清水さん 神田明神は1300年の歴史を持つ、江戸・東京で『最も古い神社でありながら、最も新しい神社』とも言われている、そういう存在なんです。背景には『変わらないために変わり続ける』というカルチャーがあります。新しいことに挑戦しながら古い伝統を守り、時代や社会に順応した新しい文化を、神社を中心として地域社会に発信し続けてきました。それが神田明神の姿なんじゃないかと思っています。

1300年という長い歴史は、「変わらないこと」で築かれたものではなく、時代に合わせて変わり続けてきた結果であることが印象的でした。

神社が果たしてきた本来の役割

では、神社はそもそもどのような役割を担ってきたのでしょうか。清水さんは、日本全国に数多く存在する神社が果たしてきた役割について語ります。

清水さん 日本には約8万社の神社があると言われています。これはコンビニの数よりも多く、その一つひとつが祖先から大切に受け継がれてきました。やはり、日本人が日本人としてのアイデンティティを考える上で、神社という心の祈りの場がなければ、日本の文化そのものが成り立たなかったのではないかと私は思っています。

さらに神社は、誰もが訪れることのできる「祈りの場」であることも強調します。

清水さん 神社はですね、24時間誰でもお参りすることができる、そうした空間なんですね。そこでは、それぞれの人の苦しみや悲しみ、喜びなどあらゆる祈りを24時間受け止めています。そうした神社がコンビニよりも多く、人々の身近な場所に常にあるということが、とても大事だったのではないかと思っています。

神社は、人々の日常に寄り添い続ける存在として受け継がれてきたことがうかがえます。

神田明神を支える「祭り」という文化

神社にとって最も重要な存在である「祭り」。清水さんは、祭りは単なる年中行事ではなく、普段の日常とは異なるハレの時間を生み出し、人々が心を解放するとともに地域との絆を深める大切な場だと語ります。

清水さん 要するにハレとケという風に民俗学的には言いますけれども、普段の日常生活とは違うハレの部分、それがお祭り。いわば自分の心を解放する場所であり、そして多くの地域社会の人々と深い絆を結ぶ場所、それが祭りという1年に1回のハレの日なんです。

さらに、「祭りがなくては神社の維持ができない。そういう関係です。」という言葉からも、祭りは神社と地域社会をつなぐ根幹にある存在であることが分かります。

氏子の減少が生んだ新たな参拝文化

神田明神が大きく変化した転機の一つがバブル期でした。土地が高騰し、人口減少によって地域の氏子が減少する中、神田明神は新たな参拝者として地域の企業に着目します。現在では広く知られる「企業参拝」も、当時は時代の変化に合わせて生まれた新しい取り組みでした。

清水さん 神田と日本橋にはたくさんの会社があったんですね。1月4日からは会社単位で社長さんや部長さん、支店長さんを中心に、社員の皆様が集団でお参りする。そういう新しい参拝者の文化が生まれてきたんです。

さらに清水さんは、こうした取り組みを「顧客の創造」という視点で振り返ります。

清水さん 神社にとって参拝者というのは、ある意味では顧客だと思うんですけれども、その顧客を創造して、新しく求めていくというか、作っていくというか。そういったことを私たちは時代の変化の中で生んできたと思っています。

神田明神は、時代の変化に応じて新たな参拝文化を生み出しながら、人と神社とのつながりを広げてきました。その姿勢は、マーケティングにおける「顧客の創造」という考え方にも通じています。

アニメとのコラボレーションで広がった神田明神の価値

もう一つの大きな転換点が、隣接する秋葉原との関係です。神田明神は、秋葉原を訪れる若者にも日本の伝統文化に触れてもらうため、アニメやポップカルチャーとのコラボレーションを積極的に展開してきました。

清水さん 秋葉原に来る、いわゆるオタクと呼ばれる若者を含め、大勢の若者たちがアニメやさまざまなカルチャーを求めて秋葉原を歩いています。そういった方々にも、ぜひ日本の文化である神社を知っていただきたいということで、神田明神では積極的にアニメやさまざまなポップカルチャーとコラボレーションする企画を行ってきました。

伝統を守るだけでなく、地域で生まれた新しい文化を取り入れることで、これまで神社との接点が少なかった人々にも門戸を広げています。

「伝統と革新」が神田明神の合言葉

新しい挑戦を続ける一方で、どこまで変えてよいのかという判断は簡単ではありません。伝統を変えることへの抵抗もある中、清水さんは神田明神を、古くから続く日本の神社の伝統を未来へつなぐための「実験場」と捉えています。

清水さん 伝統を変えることには非常に抵抗があります。でも、神田明神は古い日本の神社の伝統を変えるための実験場だと、ある意味では思っているんですね。私どもは、常に『伝統と革新』という言葉を合言葉にして神社を運営しています。ですから、伝統を守りながら革新という部分を恐れずに挑戦して、そして次の時代に神社がしっかりと生き残れる、そうした可能性を求めていく。それが今の神田明神のスタンスなんです。

古くから続く神社の伝統を守ることは、日本のアイデンティティを維持していく上でも欠かせません。その伝統を大切にしながら、さらに一歩先へ進み、新しい価値を創造していくことが、神田明神の掲げる「伝統と革新」につながっています。

守るべきものと変えるべきもの

時代に合わせて変化を続ける一方で、決して変えてはならないものもあります。その中心にあるのが、神という聖なる存在です。

清水さん 神という聖なる存在を大切に守るということ。それはどんな時代でも変えていないつもりでございます。

また、国の登録有形文化財にも指定されている90年の歴史を持つ御社殿についても、建て替えではなく修復という道を選択しました。その背景には、多くの氏子や崇敬者に親しまれてきた歴史や美しいデザインも含め、次の世代へ受け継いでいきたいという思いがあります。

清水さん 美しい御社殿の姿を守りながら次の時代へ継承する。その道を選ばせていただきました。

効率だけではなく、人々の祈りの場や歴史を未来へ受け継ぐこともまた、大切な価値であることがうかがえます。

神田明神から学ぶ価値創造とは

今回の対談を通して見えてきたのは、「伝統」と「革新」は対立するものではないということでした。神田明神は1300年の歴史を守るために、新たな文化や参拝者、新しい価値を積極的に受け入れてきました。一方で「神という存在」や、人々の祈りを受け止める場としての本質は決して変えていません。次回は、その「伝統と革新」が具体的にどのような取り組みとして形になっているのか、IT情報安全守護やDX祈願祭、現代のポップカルチャーとのコラボレーション、そして文化交流館EDOCCOなど、神田明神ならではの挑戦についてさらに詳しく伺います。