INTERVIEW


#8【マーケティング解説】SIXPADから読み解く、 誰に届けるかのマーケティング|価値創造のマーケティング

SIXPADをめぐるこれまでの対談を振り返りながら、今回はマーケティングの視点から、その価値創造のポイントを整理します。

為末さん 前3回にわたってSIXPADのお話を伺いましたが、鈴木先生、振り返っていかがでしょうか。

鈴木さん 改めてSIXPADは素晴らしい商品だと感じました。エビデンスという言葉も使われていましたが、その結果もしっかりと裏付けられています。

為末さん 「とにかくいいものを作るだけでは売れない」とおっしゃっていましたよね。

鈴木さん マーケティングではよく顧客価値という話をしますが、誰にとっての価値なのかを明確にすることがとても大事です。人によって欲しいものや感じ方、好み、買い方も違いますし、顧客をひとくくりにすることはできません。特に今はものやサービスがあふれている時代ですから、ただ「良い商品です」というだけでは人に刺さらないということだと思います。

STPで「誰にとっての価値か」を考える

SIXPADの事例で大きなポイントとなったのが、「誰に価値を届けるのか」というWhoの見直しです。クリスティアーノ・ロナウドさんを起用したアスリートのイメージから、運動したくてもできない人にも価値を届ける方向へとWhoが大きく変わったことを受け、鈴木先生はSTPの考え方から整理します。

為末さん 今回のお話の中で、一番マーケティング的にポイントが大きかったと思われたところはどこですか。

鈴木さん 一番は、「いいものだけでは価値は創出できない」というところですね。SIXPADのEMSテクノロジーは、為末さんが試されたように効果を感じてもらえたと思いますし、エビデンスもあるとおっしゃっていました。それでも、それがそこにあるだけでは売れないという話ですよね。

為末さん そう考えると、「誰に価値を届けるのか」というWhoの部分は、最初のクリスティアーノ・ロナウドさんのアスリートのイメージから、大きな変換がありましたよね。

鈴木さん これはマーケティング理論ではSTPとよく言われます。セグメンテーション、ターゲティング、そしてポジショニング、それぞれの頭文字を取ってSTPと言われるんですけれども、戦略的マーケティングのエッセンスの一つになります。

マーケットを分けていくのがセグメンテーションです。健康に悩みを持っている方でも、肩こりがある、腰に痛みがあるなど、ニーズによって分けて考えていきます。その中から誰をターゲットにするのかを決め、さらにその人たちにどのような価値を届けたいのかを考える。この流れが、SIXPADのWhoを考える上でも重要になります。

同じ技術でも、ターゲットによって価値は変わる

同じEMSという技術でも、誰に向けるのかによって、その価値の意味合いは変わります。

為末さん ざっくり「健康」というだけでは十分ではない時があって、もう少し細かく考えるということですね。

鈴木さん その中から「我々は誰にターゲットしたいのか」を具体的に決めていくのがターゲティングです。ここはまさにWhoを決める話です。そのWhoを決めたら、その人たちに自分たちはどんな価値を届けたいのかを考える。それがポジショニングです。

EMSという同じ技術でも、誰に向けるのかによって、その価値の意味合いは異なります。アスリートにとってはパフォーマンスを上げることや、筋肉を鍛えるトレーニング機器として見える一方で、運動したくてもできない人にとっては全く違います。本当は運動した方がいいと分かっていてもできない。それをSIXPADがやりやすくしてあげることが価値になります。商品が持ち得る価値はターゲットによって変わるため、Whoを明確にすることが大事です。

為末さん 同じ商品でも、訴求の仕方によってだいぶ変わってくるものなんですね。

鈴木さん 運動したくてもできない方がクリスティアーノ・ロナウドさんを見ても、自分と同じように腰や肩の悩みを持っているとは感じにくいですよね。ロナウドさんのイメージが強いと、「SIXPADは私のための商品ではない」という印象にもつながります。そういった方にも使ってもらいたいとなれば、訴求の仕方を変える必要があります。

商品が先にあっても、Who・What・Howを考える

マーケティングの教科書では、まず誰をターゲットにし、どんな価値を届けたいのかを考えることが王道とされています。一方、SIXPADでは先にEMSというテクノロジーと商品があり、そこからWhoを見直していく流れでした。

為末さん SIXPADの場合は、最初から作ったというよりも、すでに商品があって、それからマーケティングを見直していったというお話でしたよね。最初はWhoなんですね。

鈴木さん 教科書的にはまずターゲットを決めますが、今回のSIXPADの場合は先に商品があり、そこから誰に価値を届けるのかというWhoが後から来た流れです。どちらが正解というわけではなく、いずれにしてもWhoとWhatとHowをきちんと考えることが大事だと思います。

現実のビジネスは、必ずしも教科書通りに進むとは限りません。鈴木先生はその例としてスターバックスを挙げます。

鈴木さん スターバックスを大きくしたことで有名なハワード・シュルツも、最初からアメリカの特定のセグメントにコーヒーを届けたいと思っていたわけではありません。イタリアに行った時にコーヒー文化に惹かれ、人々が集うような場所をアメリカでも提供したいという思いがありました。そこから、このコーヒー文化を誰が一番価値として感じてくれるのかというWhoを明確にし、そのWhoに対して自分たちの商品や価値を再定義していきました。そういったことをきちんと考えることが、マーケティングの大事なところだと思います。

素晴らしい技術や商品が先にある場合でも、Whoを明確にし、そのWhoに対して価値を再定義していくことが重要になります。

技術から始まるときこそ、顧客への関心を持つ

すでに商品や技術がある場合には、「この技術は誰が一番その価値を見出してくれるのか」を改めて考える視点が重要になります。

為末さん 企業の会社員の方は、どちらかというとそのパターンも多そうですよね。すでに商品があるという意味でも、非常に重要な事例ということですね。

鈴木さん 商品開発部やR&D(研究開発)から素晴らしいものが出てきた時に、この技術は誰が一番その価値を見出してくれるだろうか、と考え直すこともすごく大事だと思います。

大事なのは、その技術が世の中のどのような課題を解決してくれるのかを考えることです。世の中にどんなお客様がいて、どんな悩みを抱えているのか。市場や顧客に対する関心を持ち、常にアンテナを張っておくことが大切になります。

WhoとWhatが変われば、Howも変わる

誰に、どのような価値を届けるのかが変われば、その届け方も変わります。Who・What・Howを一つの流れとしてつなげて考えることが重要です。

鈴木さん 石谷さんが「Whoが変わればHowも変わる」とおっしゃっていましたが、伝え方や届け方も変わるということですか。

鈴木さん WhoとWhatが変わる、つまり誰に対してどんな価値を届けたいのかが変わると、その届け方も変わります。同じSIXPADでも、アスリートに向けるのか、運動したくてもできない人に向けるのかによって、見せ方も売る場所も変わります。病院のお医者様に勧められることの刺さり方も違いますよね。WhoとWhatが異なれば、伝え方や売り方も変わるので、Who・What・Howをつなげていく必要があります。

「何をやらないか」を決めることもマーケティング

市場や顧客の変化に合わせて柔軟に対応する一方で、届けたい価値を軸に、取り組むことを選ぶ視点も欠かせません。

為末さん 最初に決めたことにこだわりすぎず、お医者さんから評価をいただいたら別の可能性も考えるような柔軟性との加減は難しいですね。

鈴木さん 世の中の条件に合わせて柔軟性を持つことは大事です。一方で、何でもやり始めるようになると難しくなります。この商品で誰にどんな価値を届けたいのかをしっかり持って、その取り組みが本当にその価値を創出するために合っているのかを考える必要があります。

本当に届けたい人に価値を届けるためには、何をやらないのか、そして何をやるべきなのかを決めることが大事です。

SIXPADから学ぶ、マーケティング思考の応用性

SIXPADの事例を通じて見えてきたのは、商品や技術そのものだけではなく、「誰に」「どのような価値を」「どう届けるのか」をつなげて考えることの重要性でした。

鈴木さん 改めてマーケティング思考の重要性と応用性を感じることができました。マーケティングを専門とする方以外にも、参考にしていただきたいと思います。

すでに商品がある場合でも、Whoを見直し、Whatを再定義し、Howまで一貫して考える。その積み重ねが、顧客に価値を届けるマーケティングにつながっていきます。