INTERVIEW


【神田神社・清水宮司】神社アプリからアニメまで。なぜ神田神社は挑戦を続けるのか?|価値創造のマーケティング #2

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。ゲストは、1300年の歴史を持つ神田神社(神田明神)宮司・清水祥彦さん。今回は、「変わらないために変わり続ける」という考え方のもと、神田明神が祈りや祭りという本質を守りながら、企業参拝やアニメとのコラボレーションなど、新たな価値を生み出してきた背景について伺いました。

プロフィール清水祥彦(しみず・よしひこ)

神田神社(神田明神)宮司。1960年東京都生まれ。1983年に國學院大學文学部神道学科を卒業後、鶴岡八幡宮に奉職。1987年より神田神社(神田明神)に奉職し、2019年に宮司に就任。東京都神社庁副庁長も務める。

神社に求められるものを形にする、多彩な取り組み

神田明神では、「変わらないために変わり続ける」という考え方のもと、文化交流や情報発信など、時代のニーズに合わせたさまざまな取り組みを積極的に展開しています。

具体的な取り組みについて、清水さんは次のように語ります。

清水さん 神田明神はですね、常に新しい時代に求められているものを積極的に取り込んでまいりました。境内には文化交流館EDOCCOという交流施設があり、多目的ホールや飲食、お土産などを含めたにぎわいの場を整えています。また、お守りも100種類ほどご用意し、多くの方に求められる姿を常にご提供できるよう取り組んできました。

さらに、InstagramやFacebookなどのSNSで情報発信を行い、参拝時にアプリでチェックをすると、「参詣(マイリ)」がたまる仕組みも導入しています。こうした取り組みを通じて、これからの時代に神社が求められる姿を形にしてきました。伝統を大切にしながらも、時代に合わせた新しい取り組みを積極的に取り入れていることが印象的でした。

「マイリ」は神社へ足を運ぶきっかけづくり

神田明神の公式アプリには、「参詣(マイリ)」と呼ばれるポイントを貯められる仕組みがあります。貯まったマイリは神社オリジナルの記念品などと交換でき、参拝の楽しみの一つにもなっています。

為末さんからの「マイリが貯まると何ができるんですか?」という質問に対し、清水さんは次のように答えます。

清水さん 景品ではないんですけれども、ご参拝の記念品として「神社声援(ジンジャーエール)」などを差し上げたりしています。いろいろな方に魅力を感じていただけるようなものをご提案しています。

一見するとユニークな取り組みに思えますが、その目的は記念品そのものではありません。

清水さん 神社には崇敬会という会員組織がありますが、それだけでは限界が来ています。そこで、神社に関心を持っていただく新しい仕組みとして、マイリをためることで喜びを感じていただき、興味を持っていただく。そして神社に足を運んでいただき、神社で何かを感じていただく。そうしたきっかけづくりの仕組みにしています。

マイリはポイントを集めること自体が目的ではなく、神社に興味を持ち、実際に足を運ぶきっかけを生み出すための仕組みです。伝統を守るだけでなく、新しい接点をつくることで、神社との関わりを広げる取り組みの一つとなっています。

新しい挑戦には反対もあった

時代に合わせた新しい取り組みを進める一方で、変化に対する戸惑いの声も少なくなかったといいます。鈴木さんは、長年神田明神を支えてきた崇敬者の受け止め方について、次のように問いかけます。

鈴木さん 昔から神田明神さんをすごく大事にされてきた方々っていうのは、変わっていってしまうことに対して寂しさだったり「私の神田明神さんじゃない」って思われる方もいらっしゃるんじゃないかなと思うんですけど。

清水さん はい、先生のおっしゃる通りですね。お年を召した崇敬者の方からは厳しいお言葉を頂戴しながら、運営をしてまいりました。でも私は、そういう皆様に対しても、変わらないために変わり続けなければ、神社の将来が危ぶまれることになるということを根気強く説得をさせていただいて、今に至っているというのが実情です。

新たな取り組みを進める中では、変化に戸惑う声もありました。それでも清水さんは、神社の未来を見据え、「変わらないために変わり続ける」という考えを根気強く伝え続けてきました。その言葉には、伝統を守りながら未来へつないでいく、神田明神の姿勢が込められています。

アニメポスターが変えた人々の意識

変化の象徴となったのが、神田祭のポスターでした。従来のお祭りポスターとは異なり、アニメの巫女が描かれたデザインを採用したことで、大きな反響を呼びます。

清水さん 当然、お年を召した氏子さんや崇敬者の方からは「このポスターは何だ」と大変お叱りをいただきました。ところが町に貼ると、すぐに盗まれてしまう。「ポスターが欲しい」という方が非常に多く、その反応に町の方々も驚かれました。


こうした取り組みを重ねる中で、「今、多くの人が求めているものは何か」という視点が地域にも広がっていきました。そして、神田明神がアニメや新しいカルチャーとコラボレーションすることへの理解も、少しずつ深まっていったといいます。伝統を守るだけではなく、新しい文化との接点をつくることで、神社の価値をより多くの人へ届けることにつながりました。

神田明神の挑戦は、日本全国の神社の未来につながる

なぜ、ここまで挑戦を続けるのでしょうか。その理由について、清水さんは日本全国の神社が抱える課題に触れます。

清水さん 過疎化・高齢化を迎える中、日本には約8万の神社がありますが、地方へ行けば行くほど維持が難しい状況になっています。そうした中、少しでも時代に合った新しい価値を神社の中で見出すことによって、地方で疲弊していく神社にとっても活性化のヒントになればという思いが、私の行動の原点でもあります。

神田明神の取り組みは、一つの神社だけの挑戦ではなく、日本全国の神社の未来を見据えた実践でもあるのです。

「開かれた神社」でありながら、神聖さを守る

新しい取り組みを続ける一方で、神社として守るべき一線もあります。為末さんから「親しみやすさと神聖さのバランスは難しいのでは」と問われると、清水さんは次のように答えました。

清水さん 神田明神は常に開かれた神社でありたいと思っています。神社は24時間いつでもお参りいただける、開かれた祈りの場です。一方で、私たち神職も神様という存在も、親しみを感じていただきながら、自分たちの規範を守っていかなければ聖濁が混在してしまいます。その微妙な線引きは、毎日葛藤しながら歩んでいるというのが実際です。

多くの人に開かれた場所でありながら、本来の神聖さを守り続ける。その両立こそが、神田明神が大切にしている姿勢です。

若い世代にも受け継がれる「祈る心」

アニメやデジタル施策によって若い世代が神社を訪れる機会は増えています。その中で清水さんが驚いたのは、若い世代の神社への向き合い方でした。

清水さん 私が神主になった40年前は、お手水の作法も、お参りの作法も知らない方がほとんどでした。ところが今の若い方は、鳥居で一礼し、お手水も作法通りに行い、本殿でもきちんとした作法でお参りをされる方が多くなりました。40年前よりも、今の若い方の方が豊かな情報を持って、神仏に向き合う姿勢が明確になっていると感じています。

40年前と比べ、若い世代の神社や祈りへの向き合い方が深まっているという清水さんの言葉からは、神社との関わり方が時代とともに移り変わってきたことがうかがえました。

神田明神から学ぶ価値創造とは

今回の対談では、「変わらないために変わり続ける」という理念が、具体的な取り組みとしてどのように実践されているのかを伺いました。公式アプリやSNS、アニメ作品とのコラボレーションなど、さまざまな取り組みは、新たな人々が神社に関心を持ち、足を運ぶきっかけづくりとして行われています。次回は、神社という精神性を持つ場を守りながら、歴史ある建物や文化をどのように維持し、人が集う場として持続可能な運営を実現しているのか、その考え方についてさらに詳しく伺います。