INTERVIEW


#11【株式会社ミツカン 槇亮次】「王道のマーケティング」とは?派手な施策より基本をやりきる|価値創造のマーケティング

マーケティングの本質を多彩なゲストとの対話から紐解く対談企画『マーケティングホライズン』。今回も、株式会社Mizkan 代表取締役社長兼CEOの槇亮次さんを迎え、味ぽんの事例をもとにマーケティングの本質を掘り下げます。前回は、味ぽんが持つ強みを今の生活に合う価値へと捉え直し、再成長につなげていく過程を伺いました。今回は、独自価値の見つけ方、基本の4P、変えるものと変えないもの、そしてカテゴリー全体を広げる視点から、槇さんが考える「王道のマーケティング」に迫ります。

プロフィール:槇 亮次(まき・りょうじ)

株式会社Mizkan 代表取締役社長兼CEO。大学卒業後、ネスレに入社し約23年間勤務。チョコレート事業を中心に、国内の営業・マーケティング、海外でのマーケティングや戦略などを経験。その後ミツカンへ転職し、マーケティング本部長を経て現職。

王道のマーケティングは「本質的なことをやり切る」

前回は、味ぽんが持つ「何にでも合う」という強みを、今の生活に合う価値へと捉え直していく過程を伺いました。今回はそこから一歩進み、槇さんが考える「王道のマーケティング」について掘り下げます。

槇さん 本質的なことをきちんとやり切ることが、王道のマーケティングなのではないかと思います。

為末さん 本質的なことというと、どのようなところでしょうか。

槇さん そのブランドや商品の独自価値というところですね。他の商品やブランドでは代替できないものは、必ずあると思います。そうしたものをまず決めていく。

新しい手法を追う前に、まずブランドが持つ独自の価値を見極める。そして、その基本を時代に合わせて更新しながらやり切ることが、槇さんの考える王道のマーケティングです。

独自価値「UAV」はどう見つけるのか

では、ブランドならではの独自価値は、どのように見つけていくのでしょうか。ミツカンでは「UAV」という言葉を使って整理しています。

槇さん ミツカンではUAVという言葉を使っています。Unique Attractive Valueの頭文字です。UAVを見つける上で、1つは企業やそのブランドだけが持っている特徴や財産のようなもの。もう1つがお客さまのインサイトです。

味ぽんの場合、忙しい生活の中で食事がパターン化し、「同じ味に飽きてしまう」というインサイトがありました。そこに、味ぽんが持つ価値を組み合わせます。

槇さん 時間がないことで食事がパターン化し、「食の飽きが少し嫌だな」ともやもやしている方に対して、「味変に最強です」「味をぽんぽん変えられます」という価値を届けていくということです。

ブランドがもともと持つ強みと、お客さまの中にある困りごと。その2つを結びつけることで、独自価値を形にしていきます。

基本の4Pを「つくる時」だけでなく「振り返る時」にも使う

味ぽんの再成長でも、特別な方法だけではなく、マーケティングの基本を丁寧に積み重ねてきました。その一つが、商品・価格・流通・プロモーションという4Pです。

鈴木先生 味ぽんを再成長させる際にも、基本的なことをきちんと実践されたと伺ったことがあります。具体的には、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

槇さん 基本の4Pですね。商品設計や、その中で先ほど申し上げたUAV、つまり独自価値をつくること。あとはプライシング、プロモーション、チャネルを含めたプレイスなど、大きく捉えるとそうした要素です。

一方で、新しいプランを作るときには4Pを確認していても、結果を振り返る際には「商品が良かったから売れた」と、一つの要因だけで考えてしまうことがあるといいます。

槇さん うまくいったときも、うまくいかなかったときも、一連のサイクルの中できちんとポイントを押さえて進める。これは味ぽんに限らず、どのブランド、どのカテゴリーでも意識して取り組むようにしています。私自身は、そういう基本的なことが本質だと思っています。それをいかに時代に合わせて捉え直し、更新していくかが大切だと考えています。

基本的なフレームを一連のサイクルの中で丁寧に実践しながら、時代に合わせて更新していく。槇さんが考える「王道のマーケティング」の姿勢がここにも表れています。

変わってほしくない味を、時代に合わせてどう更新するか

日々の食卓で親しまれている調味料には、「変わってほしくない」という気持ちもあります。その一方で、生活者の嗜好や暮らし方は少しずつ変化していきます。

鈴木先生 調味料のマーケティングでは、毎日の食卓にあるものだからこそ、「変わってほしくない」という消費者の気持ちもあると思います。変えるものと変えないもののバランスは、どのように考えるべきでしょうか。

槇さん 使い方と中身は分けて考えた方が良いと思っています。使い方については、先ほど申し上げたように、ライフスタイルや暮らし方の変化が大きく関係していると思います。

さらに中身についても、時代に応じて嗜好が変わるのであれば、それに合わせていくことも必要だと考えています。

槇さん むしろ、変えていく方が誠実ということもあると思います。変えないことで、逆に今の嗜好に合わなくなってくることもあります。だからこそ、なぜ変えるのか、どのように変えるのかを考えながら、きちんと嗜好に合わせていくということです。

守ることと変えることを対立させるのではなく、「なぜ変えるのか」をお客さま起点で考えることが大切です。

「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」に見る新しい価値

お客さまのインサイトから生まれた商品として紹介されたのが、「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」です。揚げ物を食べるとき、味ぽんのさっぱりした味わいは楽しみたい一方で、サクサクした食感も残したい。そうした声に着目しました。

槇さん 特に揚げ物では、サクサクした食感をより楽しみたいという方がいらっしゃいます。お客さまのインサイトを見ていく中で、そうしたニーズが見えてきたことから生まれたのが、「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」です。

実際にフライドポテトと一緒に試食すると、為末さんからも「確かに、味ぽんの味ですね」という声が上がりました。既存ブランドが持つ味の価値を残しながら、食感や使い方に対する新しいニーズへ応える。ここにも、ブランドの強みを時代に合わせて広げる考え方が表れています。

カテゴリーを広げるために、新しい価値をつくる

味ぽんやお酢のように高いシェアを持つカテゴリーでは、自社の商品だけでなく、カテゴリー全体をどう広げるかという視点も重要になります。

為末さん 他社の動きを追いかけていくのか、それとも少し先をリードしていくのか。その距離感はどのように考えていらっしゃいますか。

槇さん 私たちの商品では、お酢やぽん酢はマーケットシェアが高いカテゴリーにあります。そうしたカテゴリーだからこそ、私たちが新しい価値をつくっていく必要があるのではないかと思っています。味ぽんがうまくいって、もし他社さんも「こちらのぽん酢も味変に」と言ってくださるようになれば、私はその方が良いと思っています。

その例として挙げたのがお茶です。急須で淹れて飲んでいたお茶が缶になり、さらにペットボトルへと変化する中で、利便性という新しい価値がカテゴリー全体に広がっていきました。

槇さん 先行したところには先行者利益がありますが、その後、お茶のマーケット全体が広がっています。ぽん酢やお酢でも、ミツカンが新しい価値をつくることで、ぽん酢も、お酢の市場全体もさらに広がっていけば良いと思っています。

1つのブランドの成長だけでなく、カテゴリーそのものの可能性を広げる視点です。

時代に合わせて価値をアップデートする

長く親しまれてきた商品も、社会や家族のあり方が変われば、求められる価値は変化します。槇さんは、長寿ブランドの歩みを振り返りながら、時代に合わせて価値を更新する必要性を語ります。

鈴木先生 キットカットと味ぽんでは同じ食品でもカテゴリーが違いますね。実際に取り組まれて違いや似ているところはありますか?

槇さん 味ぽんは1964年発売、キットカットは1973年発売、それぞれ10~20年弱経って1980年代を迎えました。80年代は、スーパーマーケットの時代で、4人家族などを想定した画一的な価値観の中で、家族向けの商品に成功例が多い時代だったと思います。90年代になって両方とも伸びが少し緩やかになった背景には、個人の時代に合わせるのが少し遅れたところもあると思います。キットカットはその後受験生応援などにブランディングを変えてもう一度再成長をしました。なので味ぽんが出来ない理由はないなと思いました。時代に合わせて変えよう、と。

そして、調味料には「そこにあって当然」という安心感があるからこそ、現在の生活者が感じている小さな困りごとに応える余地があります。

槇さん そうした安心感のある調味料が、日々のマンネリを打破するような役割を持ち、「飽きている」というもやもやを解消してくれると、生活の中で非常に頼りがいのあるものになっていきます。そういう形で価値をアップデートしていくことが大切だと思っています。

長く愛されてきた安心感を土台にしながら、今の暮らしに必要な価値へ更新していくことが、再成長につながっています。

「受け身」の調味料だからこそ、使い道と買いやすさを広げる

調味料のマーケティングには、お菓子などとは異なる特徴があります。味ぽんそのものを食べたいというより、まず食べたい料理があり、その中で調味料が選ばれるという点です。

槇さん 大きく違うのは、即食性が低いことと、そのまま調味料だけでは完結しないことです。味ぽんを食べたいというよりは、「この料理を食べたい」と皆さんが決められた中で、味ぽんを使っていただく。だから、よく「受け身だな」と言っています。

槇さん 受け身だからこそ使い道を増やしておく。受け身だからこそ、パッケージを含めて、より買いやすい状態にしておくということです。お菓子であれば、商品そのものを見て「試してみたい」と思うこともあります。その点は少し違うと思います。

商品の特性を理解した上で、お客さまが選びやすく、使いやすい環境を整えることも、4Pを通じた価値づくりの1つです。

データが使える今こそ、基本を押さえる

今回の対談を通じて繰り返し語られたのは、マーケティングの基本を丁寧に実行することの大切さでした。

鈴木先生 常にお客さまを見て、お客さまから始まり、お客さまで終わる。そのお客さまに価値を届けるために、4Pをきちんと確認しながら、一貫して取り組むということですね。

槇さん 以前は、最終的にはその人のセンスや経験に頼ることも多かったと思います。ただ、今はいろいろなデータが使えるようになり、仕組みも整ってきたので、以前より取り組みやすくなっています。その分、基本を押さえていないと違和感のある部分も目立ちやすくなっています。そういう意味では、今はマーケティングに取り組みやすい時代になっているのではないかと思います。

市場と生活者を丁寧に見ながら、商品がすでに持つ強みを見極め、基本の4Pを一貫して実行する。そして、その価値を時代に合わせて更新していく。味ぽんの事例から、王道のマーケティングの考え方が見えてきました。次回は鈴木先生とともに、味ぽんの事例から学べるマーケティングの本質を整理します。