INTERVIEW


第11回
広告のその先へ
──「生活知」が拓く創造性と可能性

Interviewee

帆刈 吾郎 
MARKETING HORIZON 編集委員 
博報堂生活総合研究所 所長

Interviewer

山本 裕介 
MARKETING HORIZON 編集委員 
エンワールド・ジャパン株式会社 代表取締役社長

 聞き手の山本氏も広告会社の出身であることから、本回は、博報堂生活総合研究所所長の帆刈吾郎さんに、広告産業の魅力やクリエイティビティの特性、これから求められるであろう新たな役割や方向性などについてうかがいました。

生活知から生まれる創造性

山本 この時代における広告会社の役割に、強い関心を持っています。近年は、コンサルティング領域への進出や、AIを多様な業務に活用する動きが加速しています。そのような変化の中で、広告代理店が最も価値を発揮できる領域はどこにあるのか、考える機会が増えています。
 そこでまずお聞きしたいのは、広告代理店の将来像といった大きな話ではなく、より一般的な意味での広告や広報が、今後どのように変化していくのかという点です。

帆刈 難しい問いですが、産業の再定義が必要だろうと思います。これまでは広告産業と考えられてきましたが、今後はクリエイティブ産業と捉え直す必要があるのではないでしょうか。ここで言うクリエイティビティとは、アイデア出しや広告制作といった狭義の話ではなく、「創造性」という意味合いです。従来の広告業が有してきたケイパビリティや提供価値の源泉は、突き詰めると「創造性」にあると考えているからです。
 創造性が求められる領域は、もはや広告に限らず、かなり広いフィールドに及ぶと考えます。例えば、顧客獲得を目的としたマーケティングコミュニケーションだけでなく、社内の組織開発に関わるインナーコミュニケーションの領域もあります。
 社員の意欲を高め、また「この会社で働きたい」と思ってもらうためには、社員や求職者の心がわくわくするなど何らかの形で動く必要があります。形式的で通り一遍の表現では、その思いは伝わりません。そこには、広義の創造性が要求されるのではないでしょうか。

山本 クライアントに高度な専門サービスを提供することや、実際の考え方や施策を社会に発信し、新たなケイパビリティを啓発していくことも創造性の1つと捉えられますね。

帆刈 そのような創造性はどこから生まれるのかというと、もちろん個人のひらめきによる部分もありますが、それ以上に重要なのは、世の中の変化や生活者の感覚など、業界の常識や企業人としての枠組みにとらわれない視点を、どれだけ自分の中に持っているか。そうした感覚こそが、創造性の源泉になると考えます。
 この観点で言えば、ビジネスにおける創造性とは、企業人としてではなく、1人の生活者としての感覚や視点、すなわち生活者発想を重視する姿勢からも生まれます。

山本 創造性は、例えば岡本太郎といった一風変わったアーティストのような方が持つものであり、日常生活からかけ離れていることが創造性の源泉だというような空気感もかつてあったように思います。

帆刈 いま私は、「生活知」という言葉をつくり、その重要性を提唱したいと考えています。もちろん、業界の知識やテクノロジーの知見などの重要性はいうまでもありません。一方で企業のこれからの意思決定においては、世の中の変化に対する知見も必要です。生活者の洞察から世の中の変化を読み解く知見を「生活知」という言葉で定義し、「生活知」がこれからのビジネスにおいて重要だということを提唱していきます。宣伝やマーケティングコミュニケーションに携わる人に限らず、あらゆる企業人にとって新たな価値を生み出す源泉として「生活知」の重要性と具体的な研究成果を広めていきたいと考えます。

山本 地に足がついた視点で、さまざまな人の暮らしをきちんと想像できること、そしてそれを理解していることが、創造性につながるということですね。

帆刈 そうですね。この業界の常識はこうだとか、新しいテクノロジーが出たら取り入れ、企業は同じ方向に向かいがちですよね。しかし、皆が同じように進んでいく中で、どうやって差異を生み出すのか。同質化・均質化が進む一方、企業の独自性や競争優位性をどこに見出すのかが問われています。もちろん手掛かりとして、テクノロジーの優位性を追求するというやり方もありますが、それだけでなく、企業視点から脱して生活者視点を持つこと自体が、大きな競争戦略であり差別化につながるのではないでしょうか。

世のため人のためのマーケティング

山本 帆刈さんがおっしゃる、他者の視点を取り入れることやそのための生活知が創造性を高めるという点は、非常に興味深いと感じました。突き詰めれば、マーケティングとはそういう営みなのかもしれませんね。

帆刈 それは私なりのマーケティングの定義とも関わってきます。マーケティングを、単にビジネスの一機能や「何かを売る行為」と結びつけて考える必要はないと思っています。実際、物を売らない公共サービスの分野でも、マーケティングの考え方は必要とされています。マーケティングとは何か。それは、何かを売るビジネスと紐付いたものではなく、「自己中心に陥らず、普遍的に他者の意見や視点を取り入れることで、やろうとしていることの成功確率を高める行為」であると思っています。
 マーケティングを社会全体にとって意味のある行為として定義し直せば、より良い社会や、より良いコミュニケーションを生み、相互理解を深めることにつながるのではないかと思います。

山本 そのためには多様なものの見方や考え方を取り入れ、創造性を高めていく必要があるということでしょうか。

帆刈 多様性が高まるほど創造性も高まるという相関関係は確かにあると思います。外部の視点を取り入れることで物事をより俯瞰して捉えられるようになり、その結果として、人の心を動かすマーケティングや、より創造的な取り組みにつながっていくのではないでしょうか。

時代を捉えるセンシティビティが重要に

山本 以前の広告会社には、こういう価値を世の中に届けたい、こういう世の中にしたい、こうなっていくべきだと強い世界観を持つ人が多かった印象があります。そうした姿勢はいまも残っているのでしょうか。

帆刈 確かに以前は、時代をつくる、トレンドをつくるといった意識を強く持つ人が多かったように思います。自分が先頭に立って時代を創造し、切り拓いていく、というタイプの人たちですね。
 一方で現在は、「センス」に加えて「センシティブ」であることも重視されている印象があります。広告業の人は、新しい生活者の意識や社会課題に敏感だ、あるいはそうありたいと考える人が増えているのではないでしょうか。
 広告業界に限らず、スタートアップなども含めて「社会課題を解決したい」と考える人が増えています。特定の課題を1つの事業で解決したいのであれば、社会課題解決型のスタートアップを選ぶかもしれません。一方で、より幅広い社会課題に向き合い、複数のプレーヤーと組みながら取り組みたいと考える人が広告会社を志向するケースもあるように思います。そうした人たちは、社会や生活者の変化に対する感度を大切にしている印象があります。

山本 そのような感度を持ち、社会課題の解決に貢献したいと考える人が集まってくるということでしょうか。

帆刈 それも1つの側面だと思います。もう1つ、広告会社ならではの特徴として、「ビジネスとカルチャーを横断する仕事がしたい」と考える人がいる点が挙げられます。カルチャーとは、例えばスポーツやアート、エンターテインメント、コンテンツといった領域です。これらの分野にはそれぞれ多くの担い手がいますが、それらとビジネスを結びつけ、価値として成立させる役割、いわば橋渡しを担えるのは広告会社ならではだと思います。

山本 帆刈さんご自身は、なぜ広告業界を選ばれたのでしょうか。

帆刈 先ほどのビジネスとカルチャーの架け橋という点は、実は自分自身の動機とも重なります。
 私はカルチャーだけでなくビジネスにも関わりたいという思いがありました。その点で、広告会社は両者のバランスが取れていると感じたのだと思います。
 また、ものづくりに関わる人は「良いものをつくれば自然と広がる」と考えがちですが、私は、良いものであればあるほど、きちんと広く伝えるべきだと感じていました。振り返ってみると、つくる側というよりも、「良いものを世の中に届ける側」に強く惹かれていたのだと思います。

創造性は「Whyの問い」から始まる

山本 伝えるという点で言うと、日本の教育には、人に伝える方法を体系的に学ぶ場がほとんどないことが課題だと感じています。そもそも、みんなそんなに相手に関心がありません。特に自分がいた外資系企業の仕事を思い返しても、海外のカンファレンスなどでは、話し手がどれだけ熱心でも聞き手は席を立ったり、コーヒーを取りに行ったりします。そのような場を何度も経験してきた立場からすると、「どうすれば人に聞いてもらえるのか」を誰も教えない教育は危ういと思います。
 振り返れば、中学や高校でも、校長先生の話が退屈で注意された経験がありますが、「話がつまらないこと自体が問題だ」という視点は存在していませんでした。校長先生自身も含め、誰も「伝え方」を系統立てて学んできていないのです。だからこそ、「伝える技術」という観点で、マーケティングを一度は必修として学ぶ価値があると思います。

帆刈 まさにその通りで、教育の中で「何をどう伝えるべきか」をもっと考える必要があります。話し方の工夫といった表面的な技術もありますが、それ以前に大切なのは、何のためにプレゼンをするのかという点をしっかり考えることです。例えば、「自分の好きなものを伝えたい」という場合、それは何のためなのか。それを実現するにはどうすればよいのか。説明するだけでなく、実際に触ってもらう、見せるといった作戦も考えられます。目的から考えれば、伝える手段は自然と変わってくるはずです。
 そう考えると創造性とは、そもそもの前提に立ち返って考えることなのかもしれません。私たちは「どうやるか」というHowの問いを与えられすぎている気がします。本来は、「なぜそれをやるのか」「何を実現したいのか」というWhyの問いに一度戻り、そこから改めてHowを考える必要があるのではないでしょうか。それが創造性とも関係していくのではないでしょうか。

山本 確かに、創造性とは本来の理由を問い直すことなのかもしれませんね。Whyを深く掘り下げれば掘り下げるほど、Howの選択肢はいくらでも広がっていきます。
 この話を聞いて思い浮かぶのが、Googleにおける10X(10倍)です。10%の成長であれば、従来の延長線上のやり方で誰でも対応できます。しかしこれが10倍の成長となった瞬間、同じ方法では通用せず、違うことを考えなければなりません。市場や事業を実際に10倍にしようとするには、そもそもなぜこれをやるのかという「Whyの問い」が必要になってくるのではないでしょうか。

帆刈 10Xの話は象徴的ですね。来年の予算は7%増ですと言えば、今の延長線上で頑張ろうという発想になりますが、10倍ですと言われたら、前提をすべて疑わざるを得ず、ゼロベース思考ですよね。やり方もゼロから変えないと無理だ、となりますよね。従来のやり方を改善するだけでは到底届かないゴールですから、根本的な発想転換を迫られるわけです。

山本 まさにそうですね。もちろん、言うは易く行うは難しだと自分でも感じていますが、本質的には非常に大事なことですよね。
 本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。

〈インタビュー後記〉

 帆刈さんがおっしゃった「センスがある人ではなくセンシティブな人」というお言葉が印象的でした。センスといういわば独善的で個に閉じた力ではなく、時代やそこで生きる人々のリアリティや生活にセンシティブさを持てる人こそが、社会を的確にとらえて変えていくことができる、メッセージをより届けることができる、という観点は今後ずっと大切にしていきたいと思いました。

帆刈 吾郎ほかり ごろう
MARKETING HORIZON 編集委員 
博報堂生活総合研究所 所長

1995年に博報堂入社、以来マーケティング職に従事。2013年タイ・バンコクに駐在、博報堂生活総合研究所アセアンを設立。2020年日本に帰任し現職。

山本 裕介やまもと ゆうすけ
MARKETING HORIZON 編集委員 
エンワールド・ジャパン株式会社 代表取締役社長

大手広告代理店で経験を積んだ後、Twitter日本上陸時のマーケティング・広報を担当。その後、Googleにて日本市場でのコーポレートブランディングや、テクノロジーを活用した社会課題解決プロジェクトに従事。現在はエンワールド・ジャパン株式会社 代表取締役社長を務める。