INTERVIEW


第5回
リアルな世相観察力と、ファッション感性から生まれる
自分らしさとコミュニティのかたち

Interviewee

吉田 けえな 
MARKETING HORIZON 編集委員 
コミュニケーター

Interviewer

見山 謙一郎 
MARKETING HORIZON 編集委員 
昭和女子大学 人間社会学部現代教養学科 教授

 世界を股にかけ、ファッションやアートの世界で活躍されている吉田けえなさん。世相やトレンドを見抜く視座や、ファッションの持つ可能性、さらには将来的なコミュニティづくりへの構想について伺いました。

リアルから学ぶ基本姿勢

見山 私が『マーケティング ホライズン』の編集委員になったときには、すでに吉田さんは編集委員を務められていました。どのような経緯だったのでしょうか。

吉田 片平秀貴先生(初代編集委員長)が、私が長年お仕事をしている会社の代表に相談されたのがきっかけです。それなら若い人を入れたほうが面白いのではと私を推薦してくださいました。海のものとも山のものともつかない人間をよく受け入れてくれたなと思います。

見山 ホライズンの編集会議はおおらかで居心地が良くて、専門性も多種多様な人たちが集まってとても面白かったですね。編集委員になった当時、吉田さんには、自分自身がマーケティングの専門家であるという意識はありましたか。

吉田 いえ、あまりありませんでした。当時から、月2~4回ほど定点観測として街を見て回っていました。個人的にも仕事としても7~8年続けていましたね。見て、歩いて、食べて、体感することがマーケティングの基本であり、世の中の流れを見極めるための基本だと代表から教えられていました。商業施設の開発やアドバイスに長く携わる中で、リアルから学ぶことが最も強いという信念を叩きこまれました。とはいえ、マーケティングを体系的に学んできたわけではありませんし、自分がマーケティングの専門家だと捉えたこともあまりなかったですね。ただ、私にできることは、自分の一次情報で勝負することしかないという意識はあったと思います。

見山 編集会議で長年ご一緒して、吉田さんの行動力と観察力にいつも刺激を受けていました。特に印象的だったのは、「アメリカに行こうと思う」と話されていて、本当に数年間渡米してしまったことです。

吉田 2014年から2016年にかけてニューヨークに滞在しました。私は生まれてから日本にしか住んだことがなかったのですが、気が合う友人に帰国子女が多く、日本だけで育ったという人は少なかったのです。そのことが何かしら影響していたのかもしれません。
 実は、ニューヨークには全く興味がありませんでした。日本とヨーロッパは建築などが全く違いますし、ヨーロッパは古い建物も多く、日本とは異なるカルチャーがあります。一方、アメリカ、特にニューヨークは大都市で、建築や人の多さなど、東京に似ていると感じる部分がありました。ところが、仕事でニューヨークに行くようになって、人々の発するエネルギーの強さに驚き、興味が湧いたのです。おそらく世界中からエネルギッシュな人たちが集まっているからだと思います。東京も同じように新しいものがある街なのに、なぜこれほど空気が違うのか。その違いを住んで体感してみたいと思ったのがきっかけでした。
 今でも覚えているのは、当時の東京では、地下鉄の長いエスカレーターを上から下りてくる人たちが死んだ魚のような目をしていて、手塚治虫の描く人造人間がベルトコンベアで流れてくるように見えたことです。ニューヨークも同じような街なのに、東京のような雰囲気が全くなく、人が人らしく生きている、個性を放って生きているという印象を受けました。

見山 なるほど、日本には閉塞感があり、吉田さんにとっては生きづらさのようなものを感じていたということでしょうか。 

吉田 すごく生きづらいと感じていたわけではありません。ただ、自分の行動が変だと思われているのではと感じることはありました。少し不思議そうな顔をされることもありましたね。私はあまり他人に興味がないので、どう思われようが気にはならないのですが。

世相を反映し、自分をつくるファッションの力

見山 ホライズンでの吉田さんは、ファッションの専門家としての役割もありましたよね。実際に私もファッションのイベントで一緒に登壇させていただいたこともありました。吉田さんはファッションの定義というか、ファッションをどのように捉えていますか。

吉田 私の捉え方は二つあります。
 一つは、ファッションは人の思想や、そのとき感じていることを色濃く映す鏡だということです。コロナ禍では特に顕著でした。人の目を気にしなくなったことで、皆が好きなものを着るようになりました。ジェンダーフリーのようなファッションも含めて、自分が着たいから着る、着ていて心地よいものを選ぶ、自分らしいものを着るというスタイルが注目されました。無意識に選ぶものほど世相を反映していると強く感じました。海外は日本より人目を気にしていないと思われがちですが、実はそうではない、と分かったのも印象的でした。
 もう一つは、「ファッション=装う」ということは、それが自分自身をかたちづくる行為だということです。例えばパンツなのかスカートなのか、暗い色なのか明るい色なのかで気持ちも変わりますよね。ファッションではTPOが大事だとよく言われますが、形式が大切というより、装いによって相手への敬意を表したり、自分自身の気持ちが整ったりする面があるのだと思います。無意識に選んでいる服がその人に作用し、その選択がその人をかたちづくる可能性すらある。その点がとても興味深いです。

見山 ファッションは、自分の内面に影響を及ぼす側面と、時代を映す鏡としての側面がある。世相や社会全体のトレンドともつながってくるわけですね。

吉田 そうです。例えば日本の高度経済成長期のサラリーマンは、スーツにネクタイというスタイルでしたが、今はずいぶんカジュアルになりました。ただ、あの時代にあの服装であったことが、日本経済の成長を後押しした面もあるのではないかと思います。多少の個性は許容されつつも、皆が同じユニフォームを着ていたからこそ、同じ方向を目指しやすかった、という側面もあったのではないでしょうか。

見山 今では堅い印象のある銀行もカジュアル化が進んでいて、同じ方向に向かっていくという感覚は確かに薄いですね。方向がばらばらだから経済も伸びにくいという見方もできるかもしれません。

吉田 当時のような一丸となる雰囲気は生まれにくいと思います。

見山 お話を伺っていると、日本社会では、自分が着たい服よりも、許容範囲に収めて個性を出しすぎない価値観が強いように感じます。そういう意味では、ファッションは内面に作用しにくい面もあるのかもしれませんね。

日本の価値を世界に届ける

見山 今、吉田さんの関心領域はどこにありますか。

吉田 相変わらず時代の先を読むことに最大の興味があります。時代の先を読みつつ、より良い未来になっていくために何をするか。もう一つは、いいものをいかにより良く見せるか、ということですね。
 日本には「いいものをきちんとつくっていれば価値が認められる」という文化が根づいていますが、いいものほど主張しないと埋もれてしまう場合もありますよね。例えば韓国の友人とよく話すのですが、韓国の強みはプロデュース力、プロモーション力にあると言います。実際、世界的なアートフェアは韓国で開催されていますし、2026年6月にはパリのポンピドゥー・センターの分館が韓国にできる予定です。それだけ韓国はアート市場で存在感が大きい。つまり、いいものを認めてもらうのを待っているだけでは駄目だということを学べますね。
 私はこれまで多くのものを見てきた分、何が良くて、何がそうでないのかの判断はつきますし、いいものをどうすればより良く見せられるかを考えるのは得意です。そのような専門家になりたいと最近よく考えています。

韓国では続々と美術館がオープンしている。左・リウム美術館 右・プテラソウル
韓国では続々と美術館がオープンしている。上・リウム美術館 下・プテラソウル

見山 韓国がアートだとしたら、日本は何でしょう。アナログ的な技術力ということになるのでしょうか。

吉田 そう思います。ただ日本は、良い技術を捨ててきた、あるいは他国にその技術を売り渡してきた歴史もあると感じています。もちろん、これまで日本が培ってきた技術は、世界の未来をつくる技術につながっていますし、日本人の細やかな技術は、この先も必要とされるはずです。
 優れた技術を捨てずにつくり続けている会社に、もう一度光が当たる。そのために、例えば製造業でも、ブランディングが大切だと考える人たちと一緒に、素晴らしい技術を世界に発信できる仕組みづくりに関わっていけたらと思っています。

見山 日本から海外を見つめると同時に、海外から日本を見つめる中で、吉田さんの軸はやはり日本にあるのでしょうか。

吉田 海外にも住んだことで、改めて日本の良さを強く感じました。日本人は努力を厭わない気質があり、独特の世界観を持っていると思います。世界のどこかにもう一つ活動拠点を持ちたい気持ちはありますが、軸足の一つは日本に置きたい、という想いがあります。

見山 今後の日本の可能性についてどうお考えでしょうか。

吉田 ファッションもそうですが、漫画、アニメ、ゲームの世界には可能性があると感じています。そこから派生してファッションが好きになる人もいます。私自身、雑誌だけでなく漫画からも、ファッションへの関心が広がった部分があります。
 特にゲームでは世界中の人々を同時につなげられる時代です。例えば自分の肌の色を紫にすることもピンクにすることもできます。男性でも女性でも猫でも、自由に自分の装いを決められます。これまでは現実の服で表現していたものが、バーチャルでの表現に変わることで、さらに自由になりますよね。体型も服装も何もかも好きに選べるし、ゲームの中で出会った人同士が価値観や考え方だけでつながれる。それが広がれば世の中は平和になると思っています。

見山 吉田さんの関心は、新たなプラットフォームをつくることと、古いものと新しいものを融合させる価値観の両方にあるのですね。

吉田 人々が欲しいと思っているものは爆発的にはヒットしない。iPhoneはマーケティングからは絶対に生まれなかった、とよく言われるように、想像を超えるものでしか人の感覚を揺さぶることはできないと思います。有名だから、トレンドだからという概念をぶち壊す何かが出てきたら面白いですよね。

見山 なるほど。今のトレンドを壊す視点も必要ですね。そこから、新たなクリエイティビティやオリジナリティが生まれてくるということですね。

コミュニティの可能性を拓く取り組みを続ける

見山 吉田さんはこれからどのような方向に進んでいくのでしょう。

吉田 2025年にマダガスカルに行ったのですが、日本はすでに多くのものを持っている国だと気づかされました。一方で、日本が置いてきた、捨ててきたものも多いと実感しました。マダガスカルには牛車もあればスマホもある。日本でいえば江戸時代と現代がミックスされていた世界観で、とても興味深かったです。多くの国が様々に進化していく中で、次第に二極化していくのではないかと思います。同じように、トレンドに乗る人と新しいトレンドをつくる人とが明確に分かれ、同じ世界に生きていても交わらず、関わることがなくなるのではとも感じています。

牛車とスマホが同居する国・マダガスカル

見山 例えば10年後に何をしていたいですか。

吉田 先ほども触れましたが、私は集団としての人に関心があります。皆が安心できるコミュニティをつくることに関わりたいと思います。日本は何でもある国なのに、貧困やシングルマザーの問題などを抱えています。小学生の自殺率も非常に高い。こんなに豊かな国でなぜ未来ある子どもたちが死を選ぶのかと考えると悲しいですよね。安心できる社会やコミュニティ、逃げ込める場所があれば、もう少し生きやすくなるのではと思います。

見山 一つにまとまるというよりは、一人一人が自分らしくあって、その積み重ねが社会やコミュニティをつくるようなイメージですよね。

吉田 そうですね。まさにそれが理想です。極論で言えば、世界平和を実現することです。人間として生まれ、この地球に、この時代に生きて、皆が幸せな社会であればいいと思います。
 実は夏に怪我をして右手が使えず、ペットボトルのフタを開けるのにも難儀する状態でした。そんなとき、周りにいる見ず知らずの人が「開けましょうか」と声をかけてくれるなど、都会の中にある優しさに触れる機会が何度もありました。普段は皆、そのありがたさや大切さに気づきにくいのだと思います。最近のSNSには、自分より何かを持っている人を妬むなど、劣等感を増長させるような動きが多いと感じます。私は欠点ばかりに目を向ける社会が好きではありません。そうではなく、むしろコンプレックスをどう良く見せるか、と考えるようにしています。それがチャームポイントになるかもしれないわけですから。自分の特性を伸ばして専門性を発揮し、他人とは異なる分野を深める。そうしたポジティブな結果を生む可能性は十分にあるのです。

見山 リスクや課題を目の当たりにすると一瞬立ち止まってしまいがちですが、そこにチャンスや可能性があると思えば俄然面白くなる。日本人はリスクや課題から逃げ腰になりやすいけれど、事実に向き合い可能性を見いだせたら、良い方向に向かうのでしょうね。

吉田 そうですね。人は自分らしくあれば他人のことが気にならなくなるのではないかと思います。逆にそれができていないから、自分らしく生きている人が妬ましく見えるのかもしれないですね。ニューヨークの良さは、皆が自分らしく生きていて、人のことは気にしないところだと感じます。やりたくないことはやらないし、多少のトラブルがあっても許容する余裕があるように思いますね。
 そう考えると、自分らしく生きることでそれぞれの強みが際立ち、結果として国や社会が強くなるのではないでしょうか。その人らしくいられれば生きやすいと分かってさえいれば、他人をうらやましく思ったり、蹴落とそうとしたりもしないでしょう。そして、お互いの良さを伸ばし合える。皆が安心して自分らしくいられる社会のためのコミュニティづくり、社会づくりにはとても興味があります。ただ、壮大すぎて、どこから手をつけるべきか分からないとも思いますね。

見山 とても共感できます。本日はありがとうございました。

〈インタビュー後記〉

 吉田さんの鋭い観察眼の背景には、一歩引いた視点から社会を見つめる客観性と、とどまることのない好奇心と探求心があることを改めて感じました。吉田さんは他人に興味がないと話していましたが、客観性を担保するために、あえてそのような立場をとっている、そんな気がしました。

吉田 けえなよしだ けえな
MARKETING HORIZON 編集委員 
コミュニケーター

PR 会社や百貨店のコーディネーター、雑貨ブランドのディレクター兼バイヤーなどを経て渡米。NYを拠点に世界中で、見て、着て、食べた、リアルな視点を大事に、バイイングやリサーチを行う。現在は帰国し、情報収集能力を活かし、商業施設のプランニングアドバイスやポップアップショップの企画立案、ブランドプロデュース、内装プランニング、パーソナルスタイリングなど多岐にわたり、活動中。

見山 謙一郎みやま けんいちろう
MARKETING HORIZON 編集委員 
昭和女子大学 人間社会学部現代教養学科 教授

1990年住友銀行(現三井住友銀行)入行。銀行時代は、本店営業部等で企業の経営戦略支援に従事。2005年同行を退職し、アーティストが設立した非営利の金融組織ap bankに合流し、理事をつとめた後、株式会社フィールド・デザイン・ネットワークスを設立し、代表取締役に就任。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任准教授、専修大学経営学部特任教授等を経て、2024年より昭和女子大学現代教養学科教授。環境省、総務省、林野庁など中央省庁の委員をつとめるほか、(公財)三井住友銀行国際協力財団の評議員など非営利の活動にも従事し、Human-Centered Designのアプローチから様々な社会課題に取り組んでいる。