Interviewee
福島 常浩
MARKETING HORIZON 編集委員
株式会社AEOS 取締役
Interviewer
本荘 修二
MARKETING HORIZON 編集委員
本荘事務所 代表
多摩大学 客員教授
“市場創造”をライフワークとされ、熱いマーケティングへの想いを語る福島常浩さん。今の日本に欠けているのはアントレプレナーシップだと訴える氏に、マーケティングとは何か、何を目標とすべきかなどについてうかがいました。
マーケティングとは新しい価値をつくること
本荘 福島さんにとって、マーケティングとはどのようなものですか。
福島 マーケティングとは、僕は昔からよく言っているのですが、「三方よし」の概念だと思っています。これは近江商人の考え方をまとめて表現した言葉で、買い手、売り手、世間、この3つを同時に満足させるという意味です。これがマーケティングだと思いますね。
現在では少し解釈も変わってきていますけれども、芯の部分は変わらないでしょう。2024年に、新しいマーケティングの定義ができるまでは、マーケティングとは価値を創造してお客さまと交換すること、経済学で言えば、モノやサービスと財(お金)を交換するという考え方でした。今度は価値の交換を通じて顧客との関係を醸成することとなり、見る視点が時系列的にも長くなった、拡張された概念になったわけです。すなわち、その核にあるのは、買った人が喜んで、売った人にも適正な利潤があって、そして世の中のためになるということが続くことです。これが新しいマーケティングだと思います。
本荘 福島さんとマーケティングとの出会いについて教えてください。また、業務の中でどのようにマーケティングに携わってきたのでしょう。
福島 『マーケティング ホライズン』の編集委員業務も含め一貫して伝えたかったことは、マーケティングをもっと誇れる仕事にしたいということです。
私は最初、味の素に入社したのですが、メーカーに入ったからには何か自分の手でモノを世の中に送り出したいと思っていました。ですから、私にとってマーケティングは、やりたくて仕方なかった憧れの職場でしたね。しかし、入社当時は技術系採用でしたから、最初の配属が研究所でシステム開発などをするのが仕事となり、一生マーケティング部署にいけない運命だと思っていました。しかしいろいろな人のご尽力によりご縁をいただき本社に異動し、マーケティングという仕事にたどり着いたわけです。自分としては、マーケティングの仕事に就いて、自分で何か形を残す、お客さまのためになることをすることが非常に誇らしかったと思ったことを覚えています。マーケティングは今でも本当に素晴らしい仕事と感じており、お客さまを直接喜ばせることもできるし、ひいては世の中に貢献していくこともできます。
価値を新しく創りだすということは、マーケティングだけでできるわけではないですが、マーケティングがなければ効率的にはできません。もちろん新しい技術が新しい価値を生み出すわけですが、それをどのような形でお客さまに届けていくのかは、これはマーケティングの仕事になりますからとても大事なことです。
ただ最近、必ずしもマーケティングを志望する人が多くないとも聞いていて、少し悲しいなと感じています。もっとマーケティングの仕事に対する認識を高めていきたい、価値ある仕事だと思っていただきたいと思っています。
成長のカギは“市場創造”
本荘 福島さんは『マーケティング ホライズン』でも、“市場創造”をテーマにした特集をやられていますね。
福島 “市場創造”というテーマは私のライフワークだと思っています。いくら既存市場での競争だけをやって勝ち抜いたところで、実は全く世の中のためになっていないわけです。それでは世の中全体の価値を向上させたことにはならない。今までできなかったことをできるようにするから初めて世の中の価値が大きくなる。ひいてはそれが結果としてGDPにもつながってくるのだと思っています。こういうことはマーケティングでなければできない業務なのです。
本荘 ただ、最近の日本では市場創造という点ではあまりぱっとしませんね。
福島 故・梅澤伸嘉博士(現・市場創造学会設立発起人)の研究によりますと、市場創造型商品の比率と日本のGDPの成長率が非常に相関していることが明らかになりました。データ数が少なく言い切ることはできないようですが、両者は同じようなトレンドを描く。おそらくこれは事実だと思います。

梅澤伸嘉(うめさわ のぶよし 1940-2021)
企業の成功率向上のために市場創造について生涯をかけて実践と研究を続けた。
基本概念から実務ツールまでを総合的に論じ開発した人物は世界でも唯一。
今後の再評価が必要。
1970~80年代の日本が絶好調の時期、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と騒がれた1980年代前半には、日本の1人当たりGDPは米国に次ぐ世界第2位でした。その頃の日本では、市場創造型の新商品の比率が非常に高かったのです。私が社会人になった頃は、誰もやってなかったことをやろう、難しいことをやろうという機運が、社会全般に高かったように感じます。
それが、1990年代頃から次第に日本の景気が悪くなっていき元気をなくしていくと、国内市場はもう伸びないので海外市場に目を向けようとなりました。国内市場においては、手堅く既存領域でシェアを上げていくという方向に日本全体が変わります。全部の企業が既存市場で戦うことを選んだら、全体の市場は拡大しません。その結果、日本の経済全体が大きくならないわけです。
そういう機運もあって、次第に市場創造が日本では不活発になってきたと思います。ですから、“失われた30年”は政治のせいだとも言われますが、私は主にマーケティングの問題ではないかと思っています。つまり日本マーケティング協会にも、一定の責任があると、半分本音で思っています。これからは、市場創造を通じてのお客さまとの関係がゴールにあるマーケティングの重要性、価値を広く認識して実行に移していく必要があると思います。
本荘 市場創造へ向かうマーケティングのパワーが弱体化している原因は何でしょう。
福島 マーケティングという言葉の意味が人によってばらばらに解釈されているという点でしょうか。これは日本の固有の事情だと思います。日本ではマーケティングの概念が、ときには広告会社さん、ときには調査会社さん的な解釈になってしまう。アメリカやアジア、ヨーロッパでの自分の経験では、マーケティングは日本のように狭い意味では使われていませんね。きちんと概念を捉えていることが多いように思います。
本荘 マーケティングとしての統合された主体がない状況はもったいないですよね。あまり先を見ることなく、単年度の計画や直近のキャンペーンばかりに気を取られています。
福島 おっしゃる通りです。日本でマーケティングのナレッジをフラグメンテーション(断片化)してしまったのは、それほど昔からではないと思います。1960年代あたりからマーケティングという言葉が使われ始めるわけですが、その頃はすごく熱心に、包括的に取り組んでいたような気がします。
BtoBマーケティングを活性化すべき
本荘 日本におけるマーケティングをどうすればよいとお考えですか。
福島 今の日本のマーケティングが変わらないといけないと思うのは、例えばBtoBのマーケティングです。日本のマーケティングはどうしてもBtoCを中心に語られることが多いですし、BtoBに関わる人たちは逆に、マーケティングは自分たちには関係ないと思っている節もある。これはとんでもない話です。マーケティングという意識が希薄だと、そこにノウハウの蓄積が起きないので、とてももったいないと思った記憶があります。
実は、BtoBやBtoCという言葉が使われるようになったのは1990年代後半に入ってからのことです。これらは元々eコマース用語です。eコマースの中で、買い手が一般のコンシューマー(C)なのか、そうではなくて会社(B)なのかというところで使い分けています。
本荘 少しややこしい話で、誤解されやすいですね。
福島 そうですね。なので世の中ではすごく勘違いが起きるわけです。例えば味の素や花王は、厳密にいえば完全にBtoBの会社です。消費者の方とは直接の取引がないからです。ほぼ売っている先は問屋さんです。トヨタ自動車もコカ・コーラも実はBtoBのビジネスをやっているわけです。
ちなみに、日本のBtoB市場は、eコマースの大きさで言うと514兆円、これに対してBtoC市場はわずか26兆円しかないのです。その意味でも、日本はもっとBtoBマーケティングに焦点を当てて研究していくべきだと思いますね。
本荘 最近ではBtoBtoCという言い方もしますね。
福島 BtoBtoCとは、ある商材が別の商材の原料となって最終顧客に届くような流れです。例えば味の素ですと、甘味料をコカ・コーラさんに売って、コカ・コーラさんが一般の生活者の方向けにダイエットコークをつくる、といった市場です。
このようなビジネスについては、フィリップ・コトラー教授が2010年に論文を出しています。「イングリディエンツ・マーケティング(製品の原材料や部品自体に焦点を当てたマーケティング手法)」と言っています。私もこれからBtoB(生産財)マーケティングやイングリディエンツ(原材料や部品)・マーケティングを積極的に勉強していこうと思っています。
アントレプレニアルと市場創造
本荘 コトラー氏といえば『アントレプレニアル・マーケティング』という書籍も出されていますが、私の専門もアントレプレナーシップや新事業なので、福島さんが同様のテーマに興味をお持ちになったきっかけをうかがいたいです。
福島 コトラー教授が同書を著した動機は、実はコロナ禍だったそうです。コロナ禍で世の中全体がダウンしてしまった中で、そこからのリカバリーをどうするというときに、アントレプレニアル=起業家精神をもう一度取り戻さなくてはいけないと考えたということです。もう一度世の中を元気にさせるぞという勢いだったのでしょう。
日本では早稲田大学の柳孝一先生は、イントレプレナー(企業内起業家)とアントレプレナーを使い分けておられたのですが、私はそれがすごく大事だなと感じました。自分も味の素という大企業の中のイントレプレナーを経験しているわけですが、本当の起業家に近い意識をもって新事業に関わっていました。もちろん、サラリーマンでは一つ失敗したらすべてを失うといったような、大きなリスクはなかったわけですが、気概としては同じだったと思います。
最近の日本企業は、アントレプレナーシップを失くしすぎているような気がします。今の就職希望者に何がやりたいかと聞くと、なんとか受かりたい一心で、枠の多そうな営業と答えたりするそうです。この会社に入って自分の足跡を残したい、世の中のためになることをやりたいという想いは、若い人にもあってしかるべきではないかとは思うのですが。
本荘 アントレプレナーシップが市場創造を後押しするのでしょうね。
福島 そうです。アントレプレナーのその先には市場創造があるわけです。私の頭の中では、市場創造の対立概念は「戦略的マーケティング」です。戦略的マーケティングとは、戦略ですから戦いを前提とするマーケティングです。競争のマーケティングですね。基本的にはすでに目の前にいる相手とどうやって戦うのか、というマーケティングでしかない。競合動向を注視しながら差別化を図る。これは全部戦略的マーケティングの発想となり、市場創造には必ずしもつながりません。市場創造は競合商品との差別化を図るのではなく、顧客の未充足のニーズに注目することが必要で、見る対象が違います。
1970~80年代にかけて、アメリカでPIMS(Profit Impact of Market Strategy:市場戦略の利益効果)研究が盛んに行われました。ちょうどアメリカが日本に負けそうになっている時分で、国を挙げてどうやればアメリカ企業が儲かるのかという研究でした。対日本戦略研究でもあったのでしょう。ここで出た結論は非常にシンプルなことで高いシェアを維持することで、これを最も効率的に実現するのが市場創造なのです。
本荘 既存市場での競争ではなく、新市場をつくることが最大の成果を生み出すということですね。
福島 そういう意味でも市場創造することは大事です。もちろん今ある既存市場での戦いも必要ですが、新しく出すブランドや新規事業については、既存市場への参入は絶対にしないと誓えます。必ず市場創造型の商品を開発し、世の中に出していくと戒めているつもりです。
マーケターの“想い”で駆動するマーケティングへ
本荘 これからの日本経済の成長を考えると、マーケティングの役割はますます重要になってきますね。
福島 私はマーケティングだけではないと思いますが、やはり謙虚さをなくすと成長は止まるんだと思います。日本は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代に、少し奢りがあったのではないか。例えば1980年代頃までは、アメリカなどの海外に学ぼうという姿勢が強かったですが、近年は視察旅行すらもあまり見かけなくなりましたね。日本の経済成長が止まっている理由も、そのような学ぶ姿勢の変化にあるのではないかと感じています。
その意味でも、成長の源泉としてマーケティングの重要性がおのずと明らかになってきます。マーケティング部門がいかに大切かも自明となる。マーケターは、ある意味で経営者にも通じる道としてエリートの矜持を持つべきです。そうすると当然のことながら、そこにノウハウや概念などが集中してくるわけです。
例えばインドネシアには、観光クリエイティブエコノミー省の中にマーケティング担当副大臣が設置されていました。インドネシアの観光をどうやって促進するか総合的な政策を立案・実行しているそうです。正直驚きましたが、そういう部署があってもいいと思いましたね。インドネシアはマーケティングを非常に重要視する国で、ASEANの中のマーケティングの中核ですから。
また味の素は、私が入社した頃から変わりないと思いますが、マーケティングが会社のど真ん中で活躍している会社です。ど真ん中にいるという価値を認めてもらえればうれしいと思います。
本荘 フラグメンテーションを乗り越える意味でも、人材育成や教育の面も重要になる気がします。
福島 最近、若い人たちがスキル、スキルと盛んに言いますが、私はマーケティングにおいてスキルは後からの話だと思っています。テクニックの前にマーケターとしての心意気や倫理観が非常に重要です。私はマーケティングの講義をやる場合は、いつも最後に二宮尊徳の報徳精神について話をします。「経済なき道徳は戯言(たわごと)であり 道徳なき経済は犯罪である」という言葉でいつも締めくくるようにしています。それはまさに冒頭に申し上げた「三方よし」ともつながってくるわけです。
本荘 そういう意味では、AI時代のマーケターはどうなるのかと心配ですね。事務職がやっていたマーケティングはAIに代替されやすいですから。
福島 おっしゃる通りですね。有名なマーケターが手掛けたマーケティングプランを200~300もAIに学ばせると、同じようなことは誰でもできる、皆同じものが書けるでしょうね。ただやはり、何をしたいのかというところが重要だという思いはありますよね。
たとえばぐるなびという会社の創業者の志はとても高いものでした。当時効率的なオペレーションで拡大を図っていたファミレスやファストフードが大変な勢いで拡大し、日本が昔から営んできた外食産業が侵食されていくことを何とかできないかと考えていたそうです。つまり、立地や資本の大小にかかわらず、善良な店舗が長く存続できることを願い、インターネットのビジネスモデルを開発しました。つまり「我が国の食文化を守る」という想いで立ち上げたのがぐるなびなのです。
また、味の素でも「Cook Do」の発売初期には青椒肉絲(チンジャオロウスー)や干焼蝦仁(カンシャオシャーレン)など漢字のメニュー名がお客様に読みにくく、営業方面から、誰も知らないし読めないからメニュー名の表記をカタカナに変えろと強く言われたことがあったと聞きますが、開発担当者は頑として変えなかった。彼は、中国の長い歴史で、こんなにおいしい家庭料理がある、これを何とか日本に広めたいという一心でやったわけです。これもやはり“想い”ですよね。
このように私はマーケターというのはこの“想い”が最重要だと思います。それを達成するために何が必要かとなって、いろいろなスキルが出てくるのです。これはおそらくAIに負けない部分です。
本荘 AIは既にあるものを組み合わせて再現するだけなので、新しいものをつくることは苦手ですよね。
福島 もっとも大事なのは、そういう想いを抱いて、世の中をもう一段豊かにするにはどうすればいいだろう、今かわいそうとか不便な目に遭っている人をハッピーにさせてあげるには何をしてあげられるだろう、と考えるところがマーケティングです。あとは大体AIがやってくれますよね。優秀なマーケターだと思う人に話を聞きに行くと、いつもその想いが激しく伝わってくるものです。
本荘 やはり次は人のマーケティングでしょうか。
福島 そうかもしれないですね。国も企業も人の集まりですからね、国や企業の力は人の力なのです。近年の日本では、教育というものをずいぶん疎かにしてきて、勉強することが悪いことだなどとさえ言われている風潮もあるくらいです。たとえばおかしなことに、合コンでは東大生であることを言いづらいそうですね。高い教育を受けた人は尊敬されるべきだと思いますし、昔イギリス人から「本を読まない友達とは縁を切れ」という言葉を聞いたことがあります。それがやはり民主主義の先輩の国の伝統なんだろうと思います。現在成功している国を見れば全部そうですね。シンガポールも非常に教育熱心ですし、明治維新を先導した薩長もそうでした。江戸時代の末期であれだけ教育に力を入れた藩は他になかったほど教育熱心だと感じます。
そういう意味で、マーケティングも含めて教育が本当に重要だと思います。

基本の多くは古典の学習が役に立ちます。
1~2年で色あせていく知識ではなく、何十年も不変の概念を学ぶことが早道です。
本荘 そのような本質的なマーケティングのことを理解・実践している人が一定数広がると、日本の中でもマーケティングが次のフェーズに行けるという気がしますね。
福島 そうですね。もう一度マーケティングの再構築をやりたいと思いますし、そういう動きの力になれたら一番幸せかなと感じます。
本荘 本日は貴重なお話をありがとうございました。
〈インタビュー後記〉
レジス・マッケンナが「マーケティング・イズ・エブリシング」とハーバードビジネスレビューで唱えたことを思い出します。マーケティングの本質を捉え、アントレプレナーシップを持てば、日本の経営は進化すること請け合いと、再認識しました。

福島 常浩(ふくしま つねひろ)
MARKETING HORIZON 編集委員
株式会社AEOS 取締役
味の素で20年近くマーケティング関連業務とIT関連業務を担当、その後GEにて生保のネット販売事業の立ち上げ、三菱商事にてID-POSビッグデータ事業の立ち上げ、ぐるなびにて事業拡大と東証1部上場、メディカル・データ・ビジョン株式会社にて医療情報の活用事業の立 ち上げに参加し東証1部上場。その後トランス・コスモス株式会社を経て現職。
新規事業・新商品の立ち上げを多く経験。
日本マーケティング協会理事およびマーケティングマイスター
一般社団法人市場創造学会 代表理事・副会長
アルゴマーケティング研究所合同会社 代表社員

本荘 修二(ほんじょう しゅうじ)
MARKETING HORIZON 編集委員
本荘事務所 代表
多摩大学 客員教授
新事業を中心に、経営コンサルティングを手掛ける。日米アジアの大企業、スタートアップ、投資会社などのアドバイザーや社外役員を務める。Techstars、Endeavor、始動ネクストイノベーター、福岡県他のメンターを務め、起業家育成、エコシステムづくりに取り組む。厚生労働省・医療系ベンチャー振興推進会議座長、日本スタートアップ大賞審査委員。著書に『大企業のwebはなぜつまらないのか?』『エコシステム・マーケティング』他、訳書に『ザッポス伝説』他、連載にForbes「垣根を越える力」等がある。