Interviewee
見山 謙一郎
MARKETING HORIZON 編集委員
昭和女子大学 人間社会学部現代教養学科 教授
Interviewer
德田 治子
MARKETING HORIZON 編集委員
コーン・フェリー・ジャパン プリンシパル
ご自身のミッションは、「人と人をつなげ、社会課題の解決に近づくこと」と語る大学教授の見山謙一郎さん。社会課題解決のために実践されているアプローチ手法や“人”を起点としたマーケティングの必要性についてうかがいました。
社会のために働くという初心
德田 まず、見山さんのキャリアの原点についてお話しいただけますか。最初は銀行にいらっしゃって、そこからどのような経緯で今の大学教授という職業につながっているのでしょうか。
見山 僕は1990年度卒なので、いわゆるバブル期の人間です。就活は超売り手市場でしたが、企業に就職するというイメージは実はあまり持てませんでした。理由としては、僕の親が公務員だったからだと思います。
父とは仕事の話をする機会はあまりありませんでした。小学1年生頃の記憶ですが、一緒にアメリカ大統領訪日の報道をテレビで見ていて、「アメリカでは大統領が一番偉いの? じゃあ、日本で一番偉いのは誰なの?」と聞くと、父は「特定の誰かが偉いじゃないんだ、一人一人が皆偉いんだ。だから、おまえも偉いんだよ」と言ったのです。今思えば、それが公務員という仕事なのかな、と何となくイメージしたことを鮮明に覚えています。
僕が社会に出たときも、会社や私企業のために働くというよりは社会のために働きたいという思いが漠然とあって、公務員とは異なりますが民間でも公益性の高い仕事ということで、最終的に銀行を選んだのだと思います。
德田 その後、銀行を退職され現在のフィールド・デザイン・ネットワークスを立ち上げられたわけですが、どのような挑戦をされてきたのでしょう。
見山 銀行時代、大企業の担当になり、多くの経営者と話をする局面になって、やはり経営学を知らないと彼らと話ができないと思い、母校の立教大学のMBAコースに入りました。それが僕にとっての大きな転機になったのです。銀行の価値観が自分の中のすべてを占めるようになっていたときに、外の空気を吸ってみて、世の中には多様な職業や価値観があるし、スタートアップなどで頑張っている人たちもたくさんいる。銀行の価値観がすべてではないと強く感じました。
また2年間、仕事をしながら大学院に通っていましたから、自分の中のオンとオフの使い分け、そのバランスが非常に快適でした。大学院を修了したときに、このまま仕事だけの人生は送りたくないなと思い、NPOというスタイルで社会に貢献できる活動をやりたいと考えていました。
自分にしかできない“人と人をつなげる”こと
見山 銀行時代に大手製紙会社を担当していました。そこは日本で最大の森林を持っている会社でしたし、1997年には地球温暖化防止京都会議が開催されたこともあり、環境問題に強い関心があった時期でした。
しかし、僕が大学院を卒業した2005年当時は、世の中で今ほど環境問題が騒がれていない時代でしたから、企業やNPOと行政が考える環境問題のベクトルがどうも合っていないなと感じていました。そのベクトル合わせをする人材がこれから必要になると思い、そのようなNPOを立ち上げようと考えていました。
その際に、さまざまな環境活動に取り組んでいる方々にインタビューをしていたのですが、その中でMr.Childrenなどのプロデュースをしていた音楽家の小林武史さんに出会いました。小林さんも環境問題に取り組む団体を融資でサポートするap bankを立ち上げたタイミングで、僕は金融機関に勤務しているということで仕事の後に相談を受けていました。こうした活動を続ける中で、ある日銀行を辞めてap bankに来ないかという話になりました。
いろいろ悩みましたが結果的に銀行を退職した理由は、興味がある世界に足を踏み入れないで後悔するよりも、踏み入れてもし失敗しても、そちらのほうが後悔しないと思ったからです。しかしもっと大きな理由は、僕がこの話を断って、別の人がやることになったら、僕の思いは消えてしまうので、ならば「自分の思いは自分で実現するべきで、自分にしかできないことだな」と思ったからです。
小林さんたちとap bankで3年ほど一緒に活動し、ある程度の仕組みもできて軌道に乗ってきたところで僕は役割を終えるのですが、ap bankでの最後の仕事がNHKの方々と一緒にap bankの特集番組をつくることでした。そのときのご縁が独立後の最初の仕事となるNHKの大型環境番組と連動したイベントプロデュースにつながりました。NHKのルールで個人とは取引できないとのことで、やむなく(笑)つくったのが、フィールド・デザイン・ネットワークスという会社です。この社名に込めた思いは、環境問題だけに限らず、国内外を問わず社会全体をフィールドに、さまざまな社会課題解決に向けた取り組みをデザインし、いろいろなジャンルの人たちをつないでいきたいということです。

德田 素晴らしいコンセプトですね。そこから今の大学教授のお仕事につながっていくのでしょうか。
見山 そうですね。面白いもので、人が退路を断った後には新しい風が吹いてくるものです。ちょうど僕がap bankを辞めた頃、母校の立教大学がバングラデシュのグラミン銀行と共同研究を始めることになったのですが、グラミン銀行はバングラデシュで雇用創出型のソーシャルビジネスを日本企業と連携してやりたいというニーズを持っていました。しかし、大学側のリソースでは、ビジネスと金融とNPOをつなぐような人材が当時はいませんでしたので、卒業生の僕に白羽の矢が立ったのです。2006年にノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行のことはもちろん知っていましたから、「他にやる人がいないのなら、自分がやるしかないな」と思って引き受けました。そこから大学教員の道が拓けていったというわけです。
德田 先ほどから「他にやる人がいないのなら僕がやるしかない」という言葉が何度も出ていますが、それは前例がないことで非常に難しいことだと感じます。見山さんの中で、やって良かったことと苦労したことはそれぞれどのようなことですか。
見山 やって良かったという点では、導かれるままに自分の世界観が広がっていくという経験ですね。いろいろなお話が僕という人間に来るわけですが、それらは一見ばらばらです。それが僕を通じてつながっていくことを実体験できますし、そのことによって、いろいろな社会課題をつなぐヒントが得られるのはとても良いと思います。
逆に苦労するのは、おっしゃったように前例がないことなので、やってから気づくことが多いということです。こういうことが起こるだろうという想像とは全く違うことが起きるケースはたくさんあります。ただ、そういう想定外の事態に対応、適応していくしかないわけですから、そういう意味では「変事対応力」や「適応力」が付いたことが今の自分につながっているのかもしれないですね。
德田 変化の激しい世界の中で時代に即した適応力を身に付け、見山ワールドをつくりあげてこられたのですね。
見山さんのつなげられたネットワークで、印象に残るものをご紹介いただけますか。
見山 どれも僕が何かやったというよりは、僕が誰かと出会って、そこから何か化学反応のようなものが起きて、いろいろなものが生まれてくるというイメージです。
例えば、先ほどのバングラデシュの話ですが、グラミン銀行は雇用創出型のビジネスをやりたいと考えていたわけですが、たまたまユニクロに立教大学院の修了生の方がいて、その方からユニクロの柳井社長がグラミン銀行との提携に興味があると伺ったことが縁で、バングラデシュでグラミンユニクロの立ち上げをお手伝いしました。この関係で、私が初めてバングラデシュに行ったとき、現地で出会った日本に留学経験のあるバングラデシュ人の方が、日本企業のバングラデシュ進出の支援をやりたいということで、包括的に連携しましょうという話になりました。
このように、一つのことをきっかけに人とつながって、そこでまた新しいことが起こっていくという流れです。僕一人では絶対できないことでも、そこで出会った人たちと一緒に新しいことができるという経験ですね。
地方活性化の例では、鳥取県智頭町の事例が面白いです。町の取り組みが、その頃、内閣府で取り組み始めていた「SDGs未来都市」にふさわしいと思い、当時の町長さんにぜひ申請するべきだと進言しました。企画課の課長さんなどと一緒に提案内容を考え、その結果、採択されたのです。これも僕の力ではなくて、もともとあった土地の力と人とのつながりを結びつけて一つの形にしていく作業をご一緒させていただいただけなのです。そのような人との出会いが、結果として自分を大きく成長させてくれるのを毎回実感しますね。
德田 見山さんは、人との出会いを通じて、その人たちの思いをつなぐ、プロデュースしていく力を持っておられるのですね。
「ダブルダイヤモンド」というアプローチ
德田 現在、見山さんが取り組んでいらっしゃる「ヒューマンセンタードデザイン(Human-Centered Design:人間中心設計)」の活動についてお聞かせいただけますか。
見山 ヒューマンセンタードデザインもデザインシンキングの一つですが、僕がいつも授業の設計などで使っているのが「ダブルダイヤモンドモデル」というメソッドです。まず課題だと思うことを発散したのち、収束のプロセスで正しい課題を定義し、その後、解決方法を発散し、解決策へと収束させていくプロセスです。課題を生み出すのも、解決するのも人間ですので、このアプローチを使って、社会課題を考えていくというのが僕のスタイルです。世の中では気候変動への対策が議論されていますが、気候変動対策は手段に過ぎず、最終的な目的はやはり“人間の未来、幸せにつながる”ことだと考えています。
德田 「ダブルダイヤモンドモデル」について、もう少し具体的に教えていただけますか。
見山 例えば環境問題ですと、今の大学生は中高生のとき、授業で環境問題を学んでおり、一定の知識はあるのですが、どうも環境問題とは海洋プラスチックの問題、地球温暖化の問題などと答えがセットになっている、いわゆるステレオタイプな印象を受けます。
僕の授業では、まず「環境問題だと思うことをたくさん発散してごらん、自分の身近なことから環境問題をいろいろ考えてごらん」と問いかけます。すると、水の問題や廃棄物の問題などいろいろ出てきます。次に「その課題はなぜ生まれると思う」などと議論を進めていくと、人間生活とのつながりが明らかになってきます。自分たちとの関係性が明らかになってから「では何をやればいいですか」と問うと、自分事としていろいろと解決策を考えていくことになる、という進め方です。まず何が課題かということを一つに決めつけずに広げて考えていき、課題を自分たちで定義したのち、同じように解決策をいろいろ出して発散させたのち、収束させていくわけです。解決策を考えることが重要だと思われがちですが、実は正しい課題を設定することのほうがより重要だと思っています。

それともう一つ。僕は“ゼロイチ”で考えてもらうことが好きなのですが、ある企業からテーマをいただいて、この企業にどういうサービスがあれば学生の満足度を高められるかと問い、学生たちに自分たちが欲しいサービスをたくさん提案してもらいました。いろいろなサービスが出た後に、「じゃあ、企業で実際にそのサービスがあるかどうか確認してごらん」と促すと、学生が考えたようなサービスやビジネスのほぼすべてはその会社ですでにやっているわけです。そうなると学生は「どうしたらいいですか」となる。そこで、「君たちはこの会社のこのサービスがあることは知らなかった。何で?」と問う。そうすると、ターゲットは自分たちなので、なぜそのサービスを自分たちが知らなかったかという理由を挙げていって、「これが課題です」と見つけ出します。ならば「それに対して対案を考えてごらん」と問いかけると、とても良い提案が次々と出てくるのです。
ですから、ゼロイチで考えること、つまりまずは自分の頭の中でものやことを想像してみるというプロセスが非常に大切です。おそらく経営学などの授業だと、まず企業のサービスを分析することから入るわけですが、そうすると、それを超える発想は出てこないと思います。ゼロベース、ゼロアタマで考えてもらって、現実と突き合わせ、そこで何が課題かということを見つけていくアプローチをしているわけです。
德田 まず欲しいものを考えるニーズ発想から始めて、何が市場にあるかのリサーチ、そしてそれを超えるものを創造的に考えさせるというアプローチですね。それは社会人でも意外とやっていない人が多いですね。
“人”起点のマーケティングを
德田 これから取り組んでいきたい社会課題など、挑戦したい研究テーマがあればお聞かせください。
見山 もともと自分の専門が何かわかっていませんが、いろいろなことをつなぐのが専門とすれば、学際的な領域が専門ということになります。最も居心地がいいのは社会課題を経営学の手法で考えていくということなので、専門は「経営社会学」と説明しています。これまで環境問題や途上国の貧困課題、地方の課題などに取り組んできたのですが、女子大の教員を始めてからは、ジェンダーの問題を自分ごととして捉えられ、強く意識するようになりました。
もう一つは情報リテラシーの問題です。これは今、とても重要な社会課題になっていますね。生成AIに頼りすぎている世界で、今の人たちはGoogle経由ではなく生成AI経由でものを探したりしています。マーケティングは、本来どうやって人をもっとエモーショナルにするかということで、“人”起点で考えられていたわけですが、今は生成AIが中心になっています。そうなると、人の価値観や感情はどこにいくのだろうという違和感、恐怖を強く感じています。ただし、そういう世界から引き返してくる人もたくさんいると思いますから、そうした人たちと一緒に、生成AI時代だからこその人の感情や情緒を大切にするマーケティングを考えていきたいと思っています。
德田 そうですね。今の学生や若い人たちは、私たち以上にAIと話している時間のほうが長いのかなと感じることが多いですよね。人のマーケティングを知っている我々がどうやって若い人たち、未来の人たちに呼びかけていくかはとても大事なことだと感じました。
見山 コロナ以降、逆にオフライン、ライブなどの価値は上がっています。そういうものを本質的に人は求めていますよね。コスパ、タイパがもてはやされていますが、本質的に人間に必要なことはコスパ、タイパでは測れないものだと思っています。
德田 一方で、AIをうまく使いこなせる人がこれから社会で活躍していくとも言われています。AIをうまく使いながら人としてのマーケティングをやっていく社会を実現していくことも大事だと思います。
見山 生成AIに頼れる部分は頼っても構わないとは思います。ただし、過度には頼らないということでしょうね。
新たな社会課題にネットワーク力で立ち向かう
德田 最後に、マーケティングに携わっている方々に、社会課題に企業はどう向き合うべきかなどについてメッセージをいただけますか。
見山 僕がマーケティングホライズンの編集委員になった十数年前は、SDGsもありませんし、社会課題は経営課題とは別軸にあったような時代でしたね。しかし、マーケティングはもともと経営理念から導き出されていくものだと思いますから、実は社会課題と無縁な経営理念はないのです。その意味で言うと、企業が社会課題に取り組むことは別に新しいことではなくて、企業が原点に立ち返るということです。社会の中でどう存在し続けるかということが、マーケティングでも求められる時代になってきたのだと、僕はすごくポジティブに捉えています。
一方で、社会課題の捉え方自体がこれからどんどん変わっていくと思います。また、さまざまな社会課題を伝える情報媒体が非常に脆弱になってきていますから、これから社会課題をどう発信していくのかも重要になってきます。さらに、情報そのものの社会課題もあります。生成AIやフェイクニュース、デジタル広告の課題などいろいろあります。これらはまさに情報化社会が生み出した新たな課題です。ますます答えがない時代に入ってきたということを強く感じます。
德田 答えがない時代をこれから生きていく私たちにとって、一人一人が持つべきスキルとはどのようなものでしょう。
見山 やはり多様なネットワークを持つことだと思いますね。僕自身の経験からも言えることですが、例えば環境問題を専門家の視点だけで見ていても見落とすことがあります。そこに、例えば地方の課題や途上国の課題などを組み合わせることによって見えてくるものがあるはずです。課題を一つ一つ別々の軸で捉えるのではなくて、それらをつなげて考えていくと何かしらのヒントが見つかるような気がします。
ですから、いろいろなネットワークをリアル空間で持つことがとても重要だと思います。それは僕の教員としての役割かもしれませんね。それも含めて企業や研究機関の人たちと一緒に考えていきたいと思っているところです。
德田 本日はありがとうございました。
〈インタビュー後記〉
見山さんのお話を伺いながら、「人と人をつなぎ、前例のない世界に一歩踏み出す力」が社会を動かしていくのだと強く感じました。私自身も、“人”起点の価値づくりへの探究心を持ち続け、見山さんのように、つながりから新しい未来を創る姿勢を大切にしていきたいと思います。

見山 謙一郎(みやま・けんいちろう)
MARKETING HORIZON 編集委員
昭和女子大学 人間社会学部現代教養学科 教授
1990年住友銀行(現三井住友銀行)入行。銀行時代は、本店営業部等で企業の経営戦略支援に従事。2005年同行を退職し、アーティストが設立した非営利の金融組織ap bankに合流し、理事をつとめた後、株式会社フィールド・デザイン・ネットワークスを設立し、代表取締役に就任。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任准教授、専修大学経営学部特任教授等を経て、2024年より昭和女子大学現代教養学科教授。環境省、総務省、林野庁など中央省庁の委員をつとめるほか、(公財)三井住友銀行国際協力財団の評議員など非営利の活動にも従事し、Human-Centered Designのアプローチから様々な社会課題に取り組んでいる。

德田 治子(とくだ・はるこ)
MARKETING HORIZON 編集委員
コーン・フェリー・ジャパン プリンシパル
INTAGE、KPMGコンサルティングを経て、エグゼクティブ・サーチ業界へ。マーケティングと人材戦略のかけ橋となるアドバイザーとして、日系大手企業のサクセッション支援やリーダー育成に携わる。株式会社HAL代表取締役として、日本とタイをつなぐウェルビーイング事業も展開中。