寄稿


自続き


原体験は、未来に生きる

蛭子 彩華
一般社団法人 TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー

1988年群馬県前橋市生まれ。2012年立教大学社会学部を卒業し、IT企業に勤務。結婚を機に退職し、夫の南米チリ駐在へ帯同。帰国後の2016年、第一子出産と同時にTEKITO DESIGN Labを設立。現在は3児の母として、様々な社会課題に、デザインとビジネスの循環の仕組みでアプローチしている。

「下目線」を振り返る

 私は2024年11・12月号の担当で『下目線 ~今、ここを生きる~』と題して、まさに足もとを見つめ直すための企画をしました。そして新春号のテーマが『足もとから、未来。』ということで、思いが重なる部分が多くあると感じたため、まず担当号の振り返りをし、そして来たる2025年とこれからの未来に向けて考えを深められたらと思います。
 11・12月号では5組の方々のお話を伺ったのですが、私自身がみなさまから共通して感じた力強いメッセージとして「自然(フィールド)の中に身を置き、よく観察し、よく自分の心の動きを感じ取ること」そして「自然体験が人生を豊かにし、持続可能な社会を実現する上でもとても大切である」ということです。

“自分・環境・経済”の三方の健康よし

 立教大学・奇二正彦先生のお話の中では、「大自然など、一人の人間の存在を超えた大いなるものに直面すると、これまで眠っていたスピリチュアルな感性が機能する可能性がある」ということ、そして「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)など、ネイチャーポジティブとビジネスの両輪で自分を癒しながら自然と共生する社会を実現するアプローチ方法が生まれている」と伺いました。
 自分を癒しながら自然環境を回復させ、そしてビジネスも循環させる。まさに「“自分・環境・経済”の三方よしが同時に実現できるアプローチがあるのか!」と、とても驚いたと共に、未来の明るい兆しを感じました。そして、それらが“健康な状態”であることがまさに「未来」そのものなのではないかと強く感じたのでした。
 「自然体験」というと、個人の休みの日に趣味やリラクゼーションの一環として楽しむ“個人的なもの”という印象を持っていましたが、そうではなく、自然の中で得た直接的な体験は、個人の成長と社会を豊かにする可能性に大いに関わっているのだと感じました。
 また、実際に大きな木に触ったり、森の香りを嗅いだりといった五感を活かした自然体験をすることで、“これまで眠っていたスピリチュアルな感性”が覚醒する可能性があるという点も大変興味深く、それはインターネットやテレビ等を介して得られる間接的な体験の機会が圧倒的に多くなった現代では、意識的に自然体験との接点を設けなければ得られない感性であるとも思いました。

原体験を見つめ直し、未来に生かす

 改めて自分の原体験を振り返ってみると、私は群馬県の田んぼが広がる田舎で育ち、しらさぎをよく見て育ったことを思い出しました。自然豊かな地域に生息する彼らは、とてもか細い足をしているのにも関わらず、川の流れに負けずに自分の足で立っていて、その凛とした姿が子ども心ながらに優雅でかっこいいなと感じていました。そして、小学生のころの文集の名前が『しらさぎ』で、当時、自分たちの“今感じていること”を等身大に表現する象徴がしらさぎであったと大人になった今も感じています。また文化的な側面では、日本では古来より縁起がいい鳥とされ、「天界からのお告げを伝える“神の使い”」「不屈の精神の象徴」「人間関係が良好になる」とったスピリチュアルなメッセージが伝承されているようでした。一つの例としてしらさぎを見つめ直してみるだけでも、本当に多様な捉え方があること、そして幸せの兆しを見出してきた先人たちの感性の豊かさを感じます。
 11・12月号で、コピーライターの川原綾子様から『困難の乗り切り方のヒントは植物の生き方の中に』というメッセージをいただきましたが、まさに課題解決力や問題解決力が求められるVUCA時代と呼ばれる現代において、自然体験を通じて出会う多様な生きものから、よりよい未来を創造するためのヒントが得られるのではないだろうかと改めて強く共感しました。
 足元に広がる地面が、目に見えない海底でも途絶えることなくつづく“地続き”であるように、自分自身、過去から現在、そして未来へも続く「自続き」な存在である。そんな当たり前なことを見つめ直しながらも2025年は自然の中に身を置く機会を積極的に設けるだけでなく、個々人の自然に関する原体験を共有し、そして対話をしながらネイチャーポジティブを達成する未来へのアクションにつなげていきたいと思います。