巻頭言
困りごとに気がついていない、あるいはあきらめている、ガマンに慣れた、さらには勘違いして誤った方向に進んでいる、といったことが結構ありませんか? また、すでに見えている市場に目をとられ、時間がかかりそうな大きな問題をスルーする人や組織が多くはありませんか? あるいは古い知識や思い込みのまま、アップデートせずに取り組んでいることはありませんか?
本特集では、放っておかれている極めて身近な大問題に取り組むイニシアティブを健康分野にフォーカスして示します。下北沢病院の久道理事長は、人生の3つの下りステップとして「歩行・排泄・食事」をあげています。これらは、生きるための3つの基本と言えるでしょう。また、これらは人生100年時代といった社会的なテーマに深く関係します。本特集では、この3つの課題にチャレンジするパイオニアへのインタビューを通して、健康において、いわばアナが空いている危機的な状況と、それが見過ごされているズレた有様、そして解決へのアプローチを議論します。
健康をテーマにすることで、他人事でなく自分に直結する問題の実例から、読者に左右の脳で考え感じていただければ幸いです。案外、自分や周りの人々を大切にできていないことや、ひるがえって社会にインパクトをもたらすチャンスに気づくかもしれません。
また、人の生活習慣から心理、さらには人との関わり方、そして社会的・文化的な構造と背景、あるいは医学・医療やビジネスのあり方まで、人とエコシステムのあやういバランスと進歩への葛藤を感じてください。
企業の方は、これら課題を新たな事業やイニシアティブのヒントにできるかもしれません。あるいは、働く方々の健康と人生をサポートすることで、人材を惹きつけ生産性を上げる可能性も見えるでしょう。
なお、見過ごされる大きな問題は、健康だけでなく様々な分野にあります。そうした市場のアナを見出してチャレンジすることは大切です。そして、ともするとマイナスになりかねないマーケティングの力をよりよい方向で活かしたいものです。本特集で示した視点は、未来志向の信頼されるブランドづくりにもつながるでしょう。言い換えると、遠くて近い(本特集では身近だが距離のある)問題に挑んでいくことは、よりよい社会を目指す持続的な企業活動であり、ブランディングとしても意義あるアプローチではないでしょうか。
本誌編集委員 本荘 修二