寄稿


沈みゆく世界で、未来への希望を見出す

本荘 修二
本荘事務所 代表

新事業を中心に、経営コンサルティングを手掛ける。日米アジアの大企業、スタートアップ、投資会社などのアドバイザーや社外役員を務める。Techstars、Endeavor、始動ネクストイノベーター、福岡県他のメンターを務め、起業家育成、エコシステムづくりに取り組む。厚生労働省・医療系ベンチャー振興推進会議座長、日本スタートアップ大賞審査委員、日経BP Marketing Awards審査委員。著書に『大企業のwebはなぜつまらないのか?』『エコシステム・マーケティング』他、訳書に『ザッポス伝説』他、連載に「垣根を越える力」等がある。

 暑いなぁという肌感覚が強まっても、気候変動への対処はなかなか進みません。それどころか、どんどん化石燃料を採掘して燃やせという人が大国のリーダーに選ばれています。
 少子化は日本国の危機と言われますが、産み育てる側の不安とあきらめは止まりません。例えば、子どもがうるさいと強い圧をかけられる例は多くとも打つ手なしのまま。
 欧米の選挙で、民主主義はマイナス面を露呈しています。日本の選挙では一部の候補者が「高齢者のために」と演説していますが、数で劣る若い世代の声は反映され難いという問題はそのままで、未来志向は打ち消されがちです。
 そして、国のエゴは悪化を続け、戦争はもはや当たり前の光景として、お茶の間に溶け込んですらいます。

後ろ向き族化する人々

 これだけ悲観的な材料があふれていると、目を背けたくなります。「現実と将来」について直視している人は少ないでしょう。狭い視野で、現実のごく一部しか見ない、あるいは麻痺してあきらめ、やり過ごすことになるかと。そして、コロナ禍、天災、身近なところでも米などの値上がりといった、目の前の「いま」への対処で精一杯の人が多いでしょう。
 また、不機嫌な人が増えている気がします。迷惑メールに詐欺やフェイクなど、悪しきものに触れることが増えています。社会の空気が、よろしくない方向に進むと、後ろ向きな人が増えるでしょう。

「未来」志向で変わる世界

 これだけ難儀な状況だと、10年後を考えてと言われても、いまの延長上か、やや悲観的なトーンか、よくいっても、ちょっと改善したくらいの将来像になりそうです。
 筆者には6歳の子どもがいます。目の前に、「未来」があります。すると、よりよい未来をつくりたい、という動機が生じます。したがって、悲観材料があっても、光を見出そうという気になります。沈んでいるような世の中でも、生きてるだけで丸儲け的な前向き意識も芽生えます。すると、見えてくる世界が一変します。

未来をつくる演繹法

 こういうときは、帰納法でなく演繹法で発想してみましょう。スタートアップや新商品開発では、よく演繹法が使われると言われるように、未来発想に向いています。
 帰納法は、経験や実験データなどから結論を導きます。あくまで前提を踏まえた推論であり、過去の延長になりがちです(日本のビジネスではこれが多い)。演繹法は、すでに知られている理論や法則、前提から結論を導き出します。大前提・小前提・結論と三段階で事象を解明する三段論法は、演繹法の一つです。
 過去の例をお手本にして、さらに改善する、という帰納的なアプローチと異なり、演繹法ではいきなり一般的なコンセプトを前提として考えるところから始めます。子どもの未来を考えるときや企業のビジョンをつくるとき、帰納法で考えても、いまの延長上になったり、他と似たようなものになったりしがちです。これでは面白くありません。
 そして、あなた自身について、10年後の自分を考えてみて下さい。いずれも未来は、演繹法で考えたいものです。

マインドセットと人のつながり

 方法論の前に、未来志向のマインドセットを育みましょう。それには、自分だけでウンウンうなるより、人から刺激を受け、学びたいものです。人との出会いやつながり、それも信頼できる人や共感できる人とのつながりは、ありがたいものです。
 交流会などに参加してたくさん名刺を集めるよりも、その中の一人か二人と濃くつながるとか、普段とは異なるタイプや地域・国のコミュニティに顔を出すとか、いずれも未来志向で活動してはいかがでしょう。その際は、後ろ向き族とはつながらないよう、お気をつけを。

〇参考文献として
『演繹革命 —日本企業を根底から変えるシリコンバレー式思考法』(校條浩著 左右社)