寄稿


「風の時代」には、
直感という名の帆を張って

ツノダ フミコ
株式会社ウエーブプラネット 代表取締役

社会動向や生活者の分析を通して、価値観変化や生活者インサイトを導き出し、コンセプト開発を行う。問いを重視したきめ細かい伴走型コンサルティングにて新しい価値づくりを支援する。近著『いちばんわかりやすい問題発見の授業』では、「具体→抽象→発見」の手法とプロセスを紹介している。

権威主義を風が吹き飛ばす

 数年前から「風の時代」と言われていることを、ご存知の方も多いのではないでしょうか。占星術の世界では大きなトピックスですが、ビジネスやマーケティングの現場ではこうしたことを胡散臭い、馬鹿馬鹿しいと一蹴する方も多いでしょう。しかしながら、「今日の星占い」のようなミクロな話ではなく、天空に瞬く星々の約200年単位の動きからなる大きな潮流を、過去の出来事と照らし合わせながら読み解いていくことは、想像力をかきたてられ、なかなかに面白いものです。洋の東西を問わず、時の権力者たちが頼りにした見えない力が、そこには確かに宿っているのだと思いを馳せるロマンもあります。
 「風の時代」の前は「土(地)の時代」でした。「土」や「地」、要するに固定的・物質的なものや権威的なもの、及びそれに類する概念が価値を持ち、尊重されていた時代です。例えば、ハコモノ・不動産・重厚長大的なもの、そして家父長制や年功序列、前例主義などが該当します。
 対して「風の時代」。これは言わずもがな、モノからコトへ、情報化やVR・AR、生成AIの浸透、仮想通貨などがその象徴です。他にも近年著しい変化を見せている多くの事象が「土→風」の文脈に沿っているように映ります。VUCAの時代とも言われていますが、これもまさに「風の時代」の代替表現です。

風っぽいか否か、を判断する

 で、あるならば、この流れに逆らわない方がうまくいくと思いませんか?抗いようがない時代の強い底流が明らかである以上、その流れを活かした方がうまくいくに決まっています。流れに乗れば1の力で10や100の効果が得られますが、流れに逆らえば100の力を尽くしても1の効果すら得られません。前例主義や土の時代の成功体験がいかにリスクを孕んでいることか。
 では、その流れに身を任せるにはどうしたらいいのでしょうか。

 ひとつは、何かの判断の際に「これって土っぽいかな、風っぽいかな」とちょっとだけ立ち止まること。何をもって「風っぽい」とするか、それを感覚的に理解するための簡単なワークをご紹介します。
 まずは、風の特性や印象、風による事象などを言葉にしていきます。
 風そのものは目に見えない、けれども何かによってその存在を知る。一定ではない。やさしいそよ風もあれば、暴風雨や台風もある。波を起こし、砂を運び、建物を破壊すらする…等々、風に関する言葉は無限に出てくるでしょう。
 次にそれらの抽象度を少し上げた言葉に言い換えます。たとえば、さわやかで軽やか、心地良い。やさしいだけではなく、強さもある。柔軟。急変する。予測がつきにくい。油断できない。ないよりある方がいい。時にやっかい…など。
 目の前の検討課題にこうした「風っぽさ」が感じられれば、それらはうまくいきやすい、と考えられます。ちなみに、こうした言葉は生成AIが瞬時に出してくれますが、自分なりにフィットするかしないか、その腹落ち感の確認はぜひ行ってください。

直感こそが風を活かす

 もうひとつは、直感を磨いていくこと。
 瞬時に姿を変える風を活かしていくためには、のろのろとしてはいられません。自分の中に判断の軸を持ち、自分の内なる声に気付けるか否かが問われます。流れに身を任せながら、効率的かつ効果的にコトを進めるには、瞬時の判断を支える直感は不可欠です。
 むろん、やみくもに「直感のみ」で決めるわけではありません。直感で描かれる世界はいわば仮説。その検証をきっちりと行っていくのは当然です。そしてその際、確度の高い仮説が手元にあるのとないのとでは、その後が自ずと異なることは言うまでもありません。
 では、いかに直感を磨いていくか。 
 直感とは、いわば分身の声。その人自身が何らかの形で必ず反映された一瞬の声です。名著『アイデアのつくり方』でも書かれているように、ふと浮かぶその一瞬は、たとえ一瞬のことであっても、その人がこれまで生きてきたからこそ生まれる一瞬です。その人自身の、それまで得てきた情報、知識、経験、知恵、さまざまな感情。公私を問わずインプットされたすべてのことがあったからこそ生まれる瞬間。それこそがまさに直感です。
 その直感を磨く一番の近道は、その一瞬をつかまえるために漫然と時間を消費せず、目の前の「ん?」と思ったことを一つひとつ言語化し、意識上に載せていくことを繰り返していくことかもしれません。2024年前半の朝ドラ『虎に翼』の「はて?」は、その一つのあり方だと感じました。
 内なる声のつかまえ方については、二年前の本欄に直感を「内なる虫」に例えた話を書いておりますので、そちらもご参照ください。

 こうして書いていくと、「風の時代」といわれていることは、わたしたちマーケティングに関わっている側にとっては当たり前のことばかりです。足もとにその大きなうねりの胎動を感じながら、どれだけ旧来の価値観や慣習、成功事例を手放していけるか、が問われる未来が訪れます。いえ、手放すまでもなく、はじめから何も手にしていない人たちこそが、新たな風を起こし、風に乗り、誰よりも早く遠くに行ける未来が到来するのです。