巻頭言
読むことも書くことも、そして、考えることも、これらの営みは古代よりわたしたちヒトとしての存在を支え続けてきました。また、NHK大河ドラマにおいては、2年連続で「文字」が影の主役級に扱われるなど、いずれも「書かずにはいられない、読まずにはいられない」という人としての本能に似た欲求が刺激されているようです。一方、情報技術の進化による昨今の「読み書き」を取り巻く環境の劇的変化は、一人ひとりの「考える」ことの根幹をも揺るがしていくことでしょう。古代から続く営みの悠久の流れと、関わり方の大きな変化。今回の特集では異なる立場の方々に「読むこと、書くこと、考えること」を軸にうかがいました。
「読むこと、書くこと、考えること」への関心の高まりを実感されている方も多いでしょう。事実、書店のビジネス書の棚では「言語化」「読解力」「思考法」などに関するタイトルが花盛りです。外国語よりもずっと長いこと親しんできた母国語であるにもかかわらず、わたしたちは今、「ことば」を前に頭の中で立ち尽くしているようです。お互い日本語で話しているのに、一向に通じている手応えが得られなかったり、意図がすれ違ったり。今や会社でもプライベートでもよく見られる風景です。
こうした現象は大人だけではありません。小学生を教えている塾の先生が「子どもたちの読む力が明らかに下がっている。文字は読めても文章の意味をつかめていないから、算数のちょっとした文章題も解けなくなってきている」と嘆いていました。また、MARKETING HORIZONの編集委員である某氏は、子どもの頃、国語の成績が致命的に悪かったため、心配された親御さんが国語の家庭教師を付けたそうです。その結果、国語の成績だけでなく、全科目の成績が上昇したとか。読むことも書くことも、そして考えることも、それは「要(かなめ)」であるようです。
生成AIの日常への浸透により、読む・書く・考える時間が量・質ともに大幅に変化し、効率化の三文字に収まらない作用も今後明らかになっていくでしょう。
今回ご登場願った方々から奇しくも共通していたことは「思考の身体化」であり、そのための「読むこと、書くこと」の可能性でした。人がヒトという生命体であるからこその身体性や身体化。日々刷新されていく社会環境の中で、わたしたちの「読む・書く・考える」は、何を手に入れ、何を手放していくのでしょうか。
今回登場するそれぞれの方の「読むこと、書くこと、考えること」を通して、あなた自身の言葉や思考を身体化させつつ手繰り寄せていただけたら幸いです。
本誌編集委員長 ツノダフミコ