『偶発購買デザイン 
「SNSで衝動買い」は設計できる』

『偶発購買デザイン 
「SNSで衝動買い」は設計できる』
宮前政志、松岡康、関智一 著 宣伝会議

 今日、私たちは「決めていたはずのない購入」を経験する。SNSを開いたら、心を揺さぶるアイテムが飛び込んでくる。私たちは調べるより先に、出会ってしまったものを購入する時代に生きている。従来の購買行動は「検索して探す」ことが中心だったが、現在は「偶然出会い、興味を持つ」ことが主流になりつつある。本書では、偶発購買を促進するための戦略として、「SEAMS」モデルを提示し、計画的に「偶然」をデザインする方法を論じている。

〇偶発購買とは何か?
 購買行動には「計画購買」と「偶発購買」がある。

  • 計画購買:事前に商品を比較検討し、意思決定した上で購入する。
  • 偶発購買:SNSや広告、店頭での偶然の出会いから衝動的に購入する。

 SNSの普及により、以前はZ世代を中心に「気づいたら買っていた」購買行動が見られていたが、年代も幅が増えてきた。企業にとっては、検索されることを前提とするマーケティングだけでなく、「見つけてもらう」設計が求められる。

〇偶発購買を生む3つの設計要素

  1. 商品価値設計(見た目の魅力)
    直感的に「欲しい!」と思わせるデザインやパッケージが重要。例えば「ボタニスト」や「YOLU」は、店頭だけでなく、SNS映えするビジュアル設計が成功要因となっている。
  2. 情報価値設計(ストーリーや付加価値)
    「なぜこの商品が特別なのか?」という情報が購買意欲を左右する。ブランドストーリーや機能性の訴求が不可欠だ。
  3. 情報誘導設計(タイミングと接触機会)
    入店時の目線の誘導や、会計時のトライアル価格など、購買意欲が高まる瞬間を狙った情報設計が鍵となる。

〇若年女性のオタク化と購買行動

 近年、3人に1人の若年女性が「オタク」を自称する時代になり、トレンドは各カテゴリのオタクが牽引しているといっても過言ではない。この中で、マーケティングに影響を与えるのが2つのコミュニティだ。

  1. リアルなトレンドリーダー(Instagram中心)
    プライベートを話す場として機能するInstagramでは、大量のクチコミを生み出すのは難しいが、限定的な信頼ネットワークの中で影響を与える。
  2. デジ友ハイセンサー(X中心)
    SNS上での交流を中心に影響力を持つ層で、オタク文化の延長線上にあり、情報感度が高い。この層が支持するコンテンツは拡散しやすく、偶発購買を促す大きな要因となる。

 このため、企業が従来のように「検索してもらう」ことを前提にマーケティングを展開しても、消費者に届かないケースが増えている。むしろ、アルゴリズムを活用し、消費者が「気づいたら興味を持っていた」と思うような情報設計が求められる。本書では、SNS戦略においても「企業が一方的に情報発信するのではなく、ユーザーが自発的に発信したくなるブランドを作ること」の重要性を説いている。
 本書では、様々な業界の事例に触れ、シャンプー「YOLU」の夜間美容コンセプトを例に、SNS上で自然な口コミが生まれる戦略を解説。ブランドストーリーと消費者との接点を計画的に設計することが重要であると示している。

 『偶発購買デザイン』は、「偶然の出会い」をいかに戦略的に生み出すかを解説した実践的な書籍だ。単なる理論だけでなく、具体的なフレームワークや成功事例を交えており、マーケターやブランド担当者にとって必読の一冊と言える。検索しない時代の消費者心理を理解し、SNSを活用した購買戦略を考える上で、大きなヒントを与えてくれるだろう。

Recommended by 中谷 友里
株式会社Mimi Beauty 取締役