『いちばんわかりやすい
問題発見の授業』
『図解&ストーリー「資本コスト」
入門(第3版)』

『いちばんわかりやすい問題発見の授業』
ツノダ フミコ 著 ワニブックス‎

「優れた問題を見つけた人だけが、優れた解決策と成果を得られます。「解決型」人材は大勢いますが、「発見型」人材はごく少数で貴重です。

 これは、本書からの重要なメッセージである。共感する人はとても多いのではないか。普段の業務の中で、「お客さま起点で」「優れた顧客体験を」と「解決方法」を指示されて、問題の本質にたどりつくことなく、「デジタル時代はスピードが大切、トライ&エラーでよい」となんとなく進めてしまう。もしくは、他者に解決方法だけでなく、「問題発見」までを任せることを行っていないだろうか。
 本書は、表向きには明らかになっていない真の課題を「自分自身で」見つけ、本質に気づく力を育む方法を、丁寧に、真摯に伝える書である。その方法は筆者が開発した「コンセプトピラミッド」。コンセプトピラミッドでは、あるテーマに対して、思いつくものをピースとして、自ら「書き出す」ことを大切にする。書き出した内容については、ルールをもとにチェックを行い、一旦、俯瞰。その後、具体、中間、抽象でグルーピングを実施する。真の課題を見つけるために重要なことは、表層的な単語ではなく、意味に注目し「要するに」でまとめることにあるとする。パソコンやスマートフォン等で「打つ」ことが中心となる世の中で、自らが「言葉」を用いて「書き」「整理」をすることで、自然と「深く考える」ことにつながり、「問題発見」となっていく。「書く」という手段は、今の時代だからこそ重要であり、コンセプトピラミッドという手法の独自性や普遍性を示すものではないか。
 筆者は、コンセプトピラミッドは、個人の生き方などを考える場合にも有効であるとする。その背景には「自分で考える」からこその腹落ち感にある。
 ぜひ、充実した時間をさまざまに過ごすために、この本を読み、自ら考え、問題発見につなげていただきたい。

Recommended by 中塚 千恵
東京ガス株式会社 


『図解&ストーリー「資本コスト」入門(第3版)』
岡俊子著 中央経済グループパブリッシング

 資本コスト–––その言葉を聞いて、あなたはどのような世界を思い浮かべるだろうか。多くの人は「財務部門の専門知識」として捉えるかもしれない。しかし、本書を手にすればわかる。それは経営の本質をつかむ鍵であり、マーケティングや事業戦略といった他部門にも直結する重要な概念なのだ。
 著者の岡俊子氏は、私のウォートン・スクール時代の同級生であり、日本におけるM&A分野を切り開いた第一人者だ。卒業後、私はマーケティングの道に進み、岡氏はM&Aアドバイザーとしてキャリアを積んできたが、共に経営の本質を探究してきたという点で、思いを共有している。現在、岡氏は明治大学グローバル・ビジネス研究科の教授であるとともに、数々の上場企業の社外取締役として活躍している。そんな岡氏が手がけた本書には、経営者・経営幹部に求められる視点が実務と理論を通じて凝縮されている。
 本書は、架空の企業「ミツカネ工業」を舞台に、3人の社外取締役が資本コストについて議論を深めるストーリー形式で進む。これが非常に効果的だ。会話を通じて、WACC(加重平均資本コスト)やROIC(投下資本利益率)といった一見難解な概念が、自然に理解できるように誘導してくれる。そして、その背景にある現場の課題や経営のリアリティが鮮やかに描き出されている。
 特に印象深いのは、資本コストというテーマが、経営の「共通言語」として機能する可能性を示している点だ。CFO(最高財務責任者)の視点だけでなく、マーケティングや事業戦略に携わるCMO(最高マーケティング責任者)、そして全社的な意思決定を担うCEO(最高経営責任者)にとっても、資本コストを理解することが、経営の意思決定を根本から変える武器になる。
 マーケティングの視点から見ても、資本コストは極めて重要だ。資本コストがわかれば、マーケティング施策のROI(投資利益率)を定量化し、その成果を経営にフィードバックすることができる。そして、これが企業全体の資本効率を向上させる原動力となる。本書は、その実践のための「設計図」と言えるだろう。
 『図解&ストーリー「資本コスト」入門 第3版』は、単なる入門書ではない。財務、マーケティング、戦略という分野を超えて、経営者・経営幹部・次世代リーダーにとって必要不可欠な「共通言語」を提供する一冊だ。岡俊子氏が描くこの未来図を、多くのリーダーが共有することを願っている。

Recommended by 神田 昌典

アルマ・クリエイション株式会社 代表取締役、

経営コンサルタント、作家