コミュニケーションの光と影

巻頭言

 昨今の国際情勢や世相を鑑みると、一言では語り切れないような感があります。様々な組織体が中期計画や次年度計画、また本年度下期計画を策定されている時期かと思いますが、PEST分析等をされる中で複数の幹部の方々から「本当に先が見通せない」、「何か明るい話や兆候がないかな」といったお言葉を異口同音にお聴きします。「先が見通せない」といったことからはコーゼイションからイフェクチュエイションといった戦略策定手法の大きな変化、また、共役不可能性といった観点では本当の意味でのパラダイムシフトが始まった感があります。
 分断、部分最適(国家的モンロー主義含む)、格差の拡大、フィルターバブル・エコーチェンバー等による偏った認識、排他性(誹謗中傷を含む)、フェイクニュース、人権を棄損するような情報拡散、問題・課題は枚挙がありません。
 マーケティングやマネジメントに関する不朽の名著であるカール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』の中の一節をふと思いだします。「戦争とは究極の外交手段である」、「戦争とは自らの意志を相手に理解させる事である」(筆者のオックスフォード版の『戦争論』からの意訳です)。外交は自らの主張(利益を含む)と相手先の主張(利益を含む)のぶつかり合い、そして、相互納得の上で成立するものであるかと思います。まさにコミュニケーションの本来の意義である認識を共有するということかと思います。
 翻って、昨今のコミュニケーションに光をあてた世相を鑑みれば、多くの課題があるように思います。技術革新(特にDX)は本来、人をより一層幸福にするために多くの方々が知恵と労力を振り絞って生まれた貴重なものかと思います。情報の瞬時性、広く広がる広範性、また、多くの個人、組織が様々な繋がりを持つことによって生まれる絆やイノベーション、効率性の向上など素晴らしい光の部分があります。
 しかしながら一方では、光の部分がたくさんあることと相反する形で影の部分もクローズアップされてきています。影の部分は前述した問題・課題とほぼ同一のものであると考えられます。
 その一例として6月9日に総務省が公表した「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」があります。一部のデジタル広告におけるアドフラウド、ブランド棄損、生活者の視点ではアドエクスペリエンス劣化(望まない中での倫理的教育的観点で問題のある広告に接さざるを得ないことなど)を防ぐためのガイドラインです。このガイドラインは大きな光を更に光り輝くものとするための、ある意味では「大人の責任」を言語化したものとも捉えられます。
 今回の号では本来コミュニケーションが持つ素晴らしさという光の部分を更に光り輝くものとするための補助線として、影の部分を理解しコニュニケーションのあるべき姿、また情報発信者の責任、そして情報が伝わるメディアが多様化する中で特に伸長著しいデジタルとリテールメディア、情報の中でも大きな部分を占める広告の世界の新たな潮流等を取り上げてみました。コミュニケーションは人が生きていく上では必須です。そしてマズローの5段階欲求説の全てを包含する、人が夢を持ち幸せになれるための一丁目一番地です。
 コミュニケーションは世相を創り出すともいわれています。様々な課題解決の先には明るい未来が必ずあると信じています。「大人の問題」としてこの機会に皆様と一緒に考えていければと思います。

本誌編集委員 中島 聡