組織をゾーンに入れる会議の魔法

『組織をゾーンに入れる会議の魔法』
伊賀 聡 著 日経BP

 戦略はしばしば実行段階において失敗する。特に経営の上層部や外部のコンサルタントによって立案したトップダウン型の戦略は、そのようなリスクを伴いがちだ。社員の理解や共感が不足しているため、実行に移されても現場での熱のこもった行動に必ずしも結びつかないからだ。
 本書はこうした問題を解決するために、社員が主役となる戦略立案のアプローチとその実践的なノウハウを提案する。その骨子は、「戦略創発ファシリテーター」がサポートする「戦略創発会議」を通じてボトムアップ型で戦略を創造するという著者独自の方法論である。
 著者は、多くの企業の戦略策定に長年携わり、数万時間に及ぶワークショップの運営経験を持つ。ベテラン戦略家であり、熟練の会議ファシリテーターである。その豊富な経験と知見が本書に生かされている。
 実効性が高く社員も共感する戦略を作るにはどうすればよいのか。ビジョンを共有した社員が自発的に行動するモチベーションの高い職場環境と体制をどうすれば作れるのか。こうした問題意識をもつ読者には、自社で応用可能なヒントや具体的なノウハウが得られるだろう。
 日本発の世界的なイノベーション論である知識創造理論を提唱した野中郁次郎教授によれば、「組織にはまだ言葉にされていない知識」(暗黙知)が眠っている。そうだとすれば、言語化されず埋もれたままの社員の気づきやアイデアは、「組織の埋蔵金」と言えるのではないか。
 本書が提案する「戦略創発会議」では、「戦略創発ファシリテーター」のリードによって、暗黙知として眠っている現場の発想や洞察を引き出し戦略として体系化することを目指す。社員が戦略立案に主体的に関わることで、戦略への理解と共感が深まり、実行力も向上する。そのような成果を導くスキルをもったファシリテーターを育成する課題はあるものの、模範を見て手ほどきを受ければ可能だという。
 会社の方針や事業計画を社員が自分事として受け止めてくれないという悩みをもつ企業や経営者は少なくない。本書を手引に、御社でも組織に眠ったままの「埋蔵金」を社員の熱意に火をつけて一緒に発掘してみてはいかがだろうか?

Recommended by 河野 龍太
多摩大学大学院 経営情報学研究科 教授