寄稿


欲深くしあわせになる

徳田 治子
縄文アソシエイツ株式会社 コンサルタント

マーケティングリサーチ会社でマーケティング戦略、事業開発、海外事業進出支援に従事。その後、外資系コンサルティングファームでブランド経営戦略を推進。
現在は、人材コンサルティング会社で、日系の製造業の経営課題を解決のため、経営者と価値ある人材との出会いの創出、次世代後継者選びや育成(エグゼクティブコーチング)なども実施している。ライフワークとしてNPO法人でダイバーシティ推進、女性リーダー育成なども行う。

 脳内メーカーというサイトをご存じだろうか。名前を入力するだけで、脳内を表現したとする図を表示するもので2007年の公開年に5億アクセスを突破している。
 この脳内メーカーで私も自分の名前を検索したところ、自分の脳内がすべて「欲」の文字が20個ほどで埋め尽くされていて、自分の脳内が欲だらけなのか…と思うとぞっとしたことを覚えている。
 ゲームだからと思って20年来の友人にその話をしたところ、「私よりも治子さんのほうがずっと欲深いですよ、あたっているじゃないですか」と言われ、自分の知らざれる欲深さに気づかされるきっかけとなった。
 当初は欲深いということにネガティブなイメージをもっていたが、その欲深い自分を、受け入れ、肯定的に考えるようになってきた。
 それは、現職の仕事を通じて欲がある人のほうが、むしろ社会で長く活躍しつづけていることがはっきりとしてきたからである。
 私は、エグゼクティブサーチファームに所属し、月に100名近くの方々と面談し、日系企業の製造業の経営者達と価値ある出会いをつなぐ仕事をしている。
 世の中で成功している社長、会長、大学の教授、弁護士、会計士、医者他様々なエグゼクティブの方と接する中、成功者の多くが欲深い方だと実感している。
 一人、私が親しくさせていただいている70代現役の女性経営者の事例を紹介したい。
 九州で育ち、自分の人生を変えたいとの思いから、たまたま当時のディスコで知り合ったアメリカ人と結婚・渡米し、2人の子供に恵まれた。その後高卒だった彼女はアメリカの大学に入学し、勉強して米国の会計資格(USCPA)を取得。現地の四大監査法人の1社に会計士として入社し、米国会計事務所で大手日系企業の担当窓口として仕事をし、パートナーまで昇格し出世頭となった。その後、彼女は家族をアメリカに残して、一人で帰国し、いくつか外資系企業の経営を経て、日本で経営難に陥っているゴルフ場の経営の立て直しの話を受けて、経営者に就任した。現在は会長として経営しながらプライム上場企業の社外取締役を複数兼務し、さらにはNPOの理事もしながら、70歳を感じさせない精力でばりばりと働いている。
 彼女が魅力なのは自身の社会的な成功だけでなく、東日本大震災が起こった時、一時会社を退職し、ボランティアで被災者の救助活動に2年間自分の時間をささげたことである。そして今でも東北の被災者の人たちを手助けする活動を続けている。
 3年前に自身のキャリアを綴った本も出版されたが、そこには70代まだまだこれから、といった記事が書かれていた。彼女のような成功者とお話することが多いことから共通する点をまとめてみたので、紹介しようと思う。

①目標を持ち続ける

 エネルギー値が高く、これまで経験したことがない新しいことであっても目標をもって挑戦している人が多い。エグゼクティブの世界では、社外取締役や監査役といった職業にチャレンジされるケースがあるがそれだけではない。例えば、生成AIに興味を持ち自分で勉強しながら会社を起業してみる人や、古典に興味をもっていたがこれまで時間がなかったので、定年後に片っ端からこれまで読みたかった古典に読みふけりたいなど。60歳で会社経営者をやめて、自分の母校で高校生の先生を始める人もいる。
 いくつになっても、知的好奇心旺盛でやりたいことや行きたいところを常に持っている。

②自分のやりたいことをやっていく

 仕事も社会活動も主体的に行動し、自分の人生設計を楽しみながら進めている人が多い。自分が人生のオーナーになり、仕事を一時的に中断し勉強する人もいれば、困っている人たちの力になるためにボランティア活動に身をささげ、社会奉仕する人もいる。自分の人生設計をリードしながら欲深く自分ができること、自分が社会貢献できることを探求しているようだ。

③人とのつながりを大事にする

 成功している人ほど、あたりまえだが人脈が広く、いろいろな団体に所属しながら年齢を重ねても精力的に活動している人が多い。これまで築いてきた人脈を大切にされているだけでなく、新たな出会いも大事にしていると感じる。それに加え、事例にあげた70代の女性のように弱い立場の人達や、大変な状況下にある人達に自ら手を差し伸べ、そこで得たつながりも大事にされ、自分が社会に対してできることに能動的にアプローチをしている。

 欲深い人は、何歳になってもそれが衰えない、年齢を重ねてもさらに欲深くなっていく人も多い。その欲深さというエネルギーを日本の社会に還元できれば、日本はもっと元気になるとも思う。
 最近読んだ本の中で年齢とともに減る欲がある一方で、減りにくい欲があると知った。
 それは「しあわせになりたいとする欲」この欲が密接に関係しているがオキシトシンだ。別名「愛情ホルモン」とも言われていて、人や出来事などと「つながった瞬間」にでるホルモンといわれており、加齢とともにオキシトシンの量は減るどころかむしろ増えることが分かったそうだ。
 脳内メーカーで欲深いと判断された私も、オキシトシンを意識した活動を続け、死ぬまで現役として社会に貢献しつつ、自分のやりたいことを極めていきたいと思う。