第39回
地方の活性化は高付加価値産業の誘致から

大坪檀のマーケティング見・聞・録

手元にある公益財団法人矢野恒太記念会の『データで見る県勢2003』によると、1880年(明治13年)、石川県の当時の人口は183万人余だった。人口では日本一、2位は新潟県で154万人余。静岡県は97万人余で16位。

 なんと東京は95万7千人で17位。東京は静岡県より人口がすくなかった。2000年の人口で見ると、石川県は118万人余で36位。新潟県は247万人余で14位、静岡県は376万人余で10位。東京は1,200万人余で断トツ1位。1880年の日本の総人口は3,600万人余だったが、2003年には1憶3,000万人に急成長している。
 読者の皆さんの出身県の人口増減を長いスパンで見ていただきたい。日本は長い間人口急成長国で、戦後はどこの地域でも人口増でインフラ施設が対応できず、住宅難、学校不足、交通渋滞の解消が急務だった。食料不足はもとより電力不足も雇用も頭の痛い問題だった。戦後の日本の基本問題は人口増と新しい生活文化を構築しようとする活気あふれる若い労働者層、いわゆる団塊の世代など新世代の出現に伴う人口増加対策だった。
 日本の人口は減少に転じ、加えて高齢化が進展。この寄稿で何回も論じてきたがこの変化はこれからの日本社会、経済に根本的な転換を迫るものとなった。人口減少で直面している地方の諸問題は人口流出によるものが多い。限界都市、限界集落なる言葉も誕生。地方創生と称して色々な策が打たれてきた。若者の定住者を増やそうと住宅提供までして色々地方に新住民を呼び込む政策を打ち出しているが、多くの政策は賞味期限3年で人口流出は止まらない。小生がこの静岡県立大学の設立で東京からこの地に移動したときは、静岡県の人口は375万人だった。あれから30余年、県人口は360万人余に近かづいている。2040年の人口予測では、静岡県で人口減少しないのは御殿場市と長泉町。両市町とも若干ながら人口は増加する。
 なぜ人口は移動するのか。人は一口で言えば年収の高い魅力ある産業、職業を求めて移動する。この欄でも紹介したが湯河原の方が熱海よりも最低賃金が高い⇒熱海から高い最低賃金を求めて移動する傾向があるという。高所得の企業、職場に向かって人は移動する。いくら住み心地がよくても所得が見劣りすると、高所得を得られる地域に人は移動する。結婚して子供ができて、老後の生活を考えると今の所得では子供を大学に進学させることは無理だと自覚すると、高所得の雇用、企業を目指して移動していく。伊豆半島には人口が流出、都市の人口は減少し限界都市化が危ぶまれる地域がいくらでもある。東京の年間所得は約440万円で日本一、神奈川県は423万円、千葉県は410万円という数字がある。人口は稼げるところに集まる。アメリカでゴーストタウンを見学したが,金が発見され一獲千金を夢見て全米から人が集まり新都市が誕生、金がとれなくなるとあっという間に町はゴーストタウンとなった。
 東京はもっとも稼げる都市なのだ。高収入の所得を夢見て東京に向け移動。一極集中の弊害などなんのその、高所得を得る機会を求めて移動する。読者の住む都市の未来はそこで稼げる年収と他都市で稼げる都市を比較すると読めてくる。その地域の職業の年収で見ると限界集落化していく理由も見いだせる。業種別年収で見ると一番低いのは宿泊業、飲食サービス業の258万円、卸業・農林水産・工業は306万、小売業は378万円。サービス業は359万円、こういった分野での人手不足、人口移動は際立つ。高所得業種は電気・ガス・熱供給・水道業で715万円、金融・保険業は636万円、情報通信業は614万円、学術研究教育学習支援は522万円、製造業は503万円。大企業は年収567万円、中企業は469万円、小企業は426万円という数字がある。地域の人口流出問題の根源を探るには地域の雇用機会と所得水準が参考になる。
 これに気が付いた地方は、高付加価値産業の誘致活動を始めた。熊本県は半導体産業の誘致に踏み切った。政府はスタートアップ育成5か年計画を打ち出し、高付加価値産業の育成に本格的に乗り出す。高付加価値・未来志向の企業誘致はこれからの地域再生、地域の産業革新には不可欠だ。大規模な海外企業、国際的なベンチャーも対象にする長期的、大掛かりなものも対象になる。
 この新型な企業誘致には総合的なマーケティングが必要だ。地域の活性化、新事業開発、大型企業誘致活動はマーケターが腕を振るえる新分野だ。新チャンスの到来だ。

Text  大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 所長