石井 洋介 氏
医師、日本うんこ学会会長、
株式会社omniheal代表取締役
消化器外科医、在宅医療の「おうちの診療所」を開設、「日本うんこ学会」会長、企業や自治体とコラボする株式会社omniheal社長、そして毎日うんこを観察するカンベン(観便)を推奨し、ゲームアプリ等の活動を続ける石井洋介先生に、健康の問題と何をすべきかお話をうかがいました。
見過ごされる大問題、大腸がん
───サイレントキラーとも言われる大腸がんは深刻な問題です。日本では、年間5万人が大腸がんで死亡しており、がん死因のうち女性1位、男性2位です。死亡率は高くなっていますが、検診の受診率が低いままです。一方で、アメリカでは受診率が上昇したのはなぜでしょう。
石井 日米の医療制度には根本的な違いがあります。日本は国民皆保険制度があるため、お腹が痛くなればすぐに病院を受診できます。そのため、困ってから医療機関に行くことが多いです。一方でアメリカは医療費が非常に高額で、できるだけ医者にかからないようにという風潮があります。がん治療を受けると2年位で破産すると言われ、検診によってそれを回避しようとする機運が高まっているのだと思います。
───日本で大腸がんの死亡率が高いのは、早期発見が少なく、発見時にはすでに余命が問われる段階といったことが多いためでしょうか。
石井 実際に多いですね。早期に見つけないと手遅れになる場合があるという認識が日本ではまだ不足しています。アメリカのデータは、検診率の向上が医療費の削減につながることを示していて、日本でもそのようになってほしいと考えています。
<コラム>日本の大腸がん問題のヤバさ
石井洋介著『便を見る力』から、データ部分のまとめと引用を紹介します。
○日本:死因の約1/4はがんで1位。がん死因のうち女性1位、男性2位が大腸がん。
年間5万人が大腸がんで死亡(2022年厚生労働省人口動態統計)。大腸がん検診の受診率は、女性38.5%、男性44.5%(40-69歳、2019年)。
○米国:大腸がん検診の受診率は、38.5%(2000年)から66.8%(2018年)に上昇。
大腸がん死亡者は、5万3,200人(2020年アメリカ対がん協会推計)。
○日米比較:米国は人口が約2.6倍であり、日本は死亡率が2倍以上となる。
米国は大腸がんの死亡率は低下傾向だが、日本ではこの20年で1.5倍に上昇(高齢化の影響もあり)。なお、がん検診全体も、日本は米国など海外より低い。
「大腸には痛覚がないため、早期の大腸がんにはほとんど自覚がありません。(中略)自覚症状が出た頃にはかなり進行していて、治療ができない状態になっている。大腸がんが「サイレントキラー」と呼ばれる所以です。そこで重要になってくるのが「うんこ」です。なぜなら、大腸がんの初期症状は「うんこ」に現れるからです」。

(石井氏からの情報提供・協力により本荘が作成)
2千万人の腸がストレスで病む
───石井先生の著書『便を見る力』の中で、「精神ストレスで6人に1人は隠れIBS(過敏性腸症候群)」というご指摘は大変衝撃的ですね。近年では子どものストレスについても言われ始めていますが、IBSの実情についてお教えください。
石井 日本では約2千万人がIBSというデータもあります。私の患者さんには小さなお子さんもいらっしゃいますし、幅広い年齢層に見られます。思春期に多いですが、50代以上からでも多くの方が発症します、私の外来でも上司になったストレスでお腹を壊す方が目立ちます。
───管理職クライシスとも言われていますね。社会的なストレスが増えると、IBSの方も増加するのでしょうか。
石井 増えると思います。若いころからIBSに悩む方もいて、なにかあると下痢してしまうと訴える方が多いですね。それが消化器自体でなく、ストレスなどによる腸の運動の問題であることが多いのです。私は「うんこの先生」と名乗っているのでうんこの悩みでも受診に来てくれますが、下痢っぽい、便秘っぽいだけではなかなか受診しないですよね。
そして、下痢っぽい段階で収まっていた症状がうつにつながり、出勤できなくなるなど顕在化し、傷病手当を使う人が増えています。うつの初期症状としてIBSや偏頭痛が現れることもあり、うつ病患者の4~5割は内科から来ます。その意味でも、便通の異常はうつの早期発見に役立つと言えますね。
70歳からほぼみな便秘
───70歳を超えると便秘になりやすいと聞きますが、何が変わるのでしょうか。若いうちから何か対策をすべきでしょうか。
石井 便の状態がきれいな高齢者の方もたくさんいますが、若い頃から健康を意識して生活されていた方が多いです。最後まで元気でいるには、長く積み上げて健康的な生活習慣をつくることです。高齢者になってから急に健康に気をつかうというのは難しく諦めてしまう方も多いため、積み重ねが大切です。
───中には勝手な生活をしていて、高齢になってから、なんとかしてほしいと慌てて対処しようとする人もいるのではないでしょうか。
石井 そうですね、70年間続けてきた生活習慣の積み重ねを変えてくれと言われても正直難しいし、嫌ですよね。同じように医療に対して考え方、思考も積み上げがあると思います。ピンピンコロリでいいと思って生きてきた人ほど、いざというときに意思決定ができない人もいますね。手術などの治療をすれば生きられますが、合併症や後遺症も残り寝たきりになってしまうかも知れません、どうしますか?という複雑な問いに、迷ってしまう人も多いです。このままでいいと言っていたとしても、本当に死が目の前に来たときに、死をすんなりと受け入れる人は少ないのが現実でしょう。健康なうちから、病気になった時のことを事前に考えることは難しいですが、とても大事なことです。
子どもの便問題への無理解
───NHK視点・論点「子どもの便秘を正しく知る」で、小学生の2割が便秘だが、うち3割は親が便秘と認識しておらず、子どもが便秘で困っていても無視されたり、そのうち良くなるだろうと言われたり、小児科医ですら軽く見ている人がいると説いていました。便秘の自覚なしの子やそうと言えない子などの問題があり、排便日誌をつけて、子どもと排泄について話し理解することを勧めていました。
石井 おっしゃる通りです。私も保健師さん向けに講演することもありますが、便漏れなど子どもの排便問題は多いものの、便や排泄にあまり関心がない子が増えていると聞くので、この先どうなるだろうと心配しています。
───私の家庭では先生の教えを受けて、子どもの便を見たり、子どもにどんなうんこ?すっと出たの?と聞いたりしています。
石井 すごく大事ですね。我々も「先生、うんこ行ってきます」と言える社会を目指して日本うんこ学会を設立しました。近年では「うんこに行ってきます」と言える子が増えているようですね。タブー視は薄まり、世の中がうんこに優しくなった実感があります。『うんこ漢字ドリル』が出る前は、私はテレビに出演できませんでしたが、刊行後は取材が来るようになりました。それまではテレビで「うんこ」と言えなかったそうです。うんこの世界に10年いると社会の変化を感じます。
間違いの盲信、過大な期待
───悪い結果を生むような便秘薬の使い方や、ヨーグルトなど食品の選択を多くの人が信じてしまっている現実があるそうですね。
石井 ヨーグルトを食べると調子がいいという人は良いのですが、ヨーグルトが便秘に良いと思って食べて、逆に悪化している人もいます。合う合わないは体質や病状次第なので、悪くなっているならやめればいいのではと思いますが、自分で見直せる人ばかりではなく、悪化しても食べ続ける人も中にはいます。受け取った情報だけでなく、ちゃんと自分で見て、感じて、考えて、行動することがまずは大切です。
───周りや家族の助言も、時には間違っていることがありますね。
石井 そういうケースもよくあります。一番の敵は身内、というやつでしょうか。がんの患者さんに、これを飲むと治るよとか、家族や友人がエセ医学を勧めるケースが実際あります。もちろん良かれと思ってのことでしょうが、身内に正しくない情報を押しつけられることは結構あると聞きます。
───正しい情報を得るにはどうすればよいでしょうか。
石井 命に関わることに関しては、正しい情報アクセス、つまり国の機関など信頼性の高い情報を見ることをお勧めします。正しい医療情報ですが、抗がん剤の選び方や手術の方法などは、世界共通のガイドラインが決まっている標準治療と呼ばれるものがあります。
───腸内フローラを分析する、良い便を他人に移植するなど、いろいろな便関連のビジネスや自由診療が見られますが、慎重に見るべきでしょうか。
石井 まだエビデンス不十分でわからないということだと思いますが、健康的な生活をするからいい腸内細菌になるのであって、腸内細菌が変わっても人間が変わるわけじゃない。不健康なことをしていたら、腸内細菌を入れてもいい環境になるわけではないでしょう。
健康の基本、便は情報の宝庫
───健康法や健康食品などさまざまな情報を吹き込まれますが、一番の基本は何でしょうか。
石井 やはり、「食べる、出す、運動する」ことです。健康づくりに近道はなく、厚労省が推奨する1日3食、一汁三菜の食事、適切なカロリーはエビデンスに基づいた健康的な生活様式です。健康的でないものがどこかに入っていると、便秘や下痢になったり、排便も崩れたりします。
───便を見ることで、病気の発見につながることもありますか。
石井 実際に、便からおかしいと思って病院を受診した結果、がんが見つかったという声は結構聞きます。便の出方がおかしいから、病院に行こうとなって親のがんが見つかった例もあります。僕たちの仮説として発信してきましたが、実際にも起きているのです。
───便はからだのお便り。これに気づけば、子どももお年寄りも働き盛りの方も、健康に近づくのですね。
石井 その通りです。なので、自分のバロメーターとして「観便」をしましょう。便から、体調の変化を感じることが大切です。うんこはいろいろな兆しが現れる情報の宝庫です。トータルで健康な生活のためには、いい便が出ていることを日々確認することを推奨したいです。
<コラム>ゲームで「観便」を啓発
石井先生が設立した日本うんこ学会は、一般社団法人うんコレ制作委員会を設立し、ゲームの運営やイベントなどを管理しています。スマホゲーム「うんコレ」は、大腸がんの早期発見を目的としたもので、腸内細菌を擬人化し、課金の代わりに「観便(うんこの報告)」でキャラクターを獲得します。

(石井氏からの情報提供・協力により本荘が作成)
治療するのが本当にいいのか?
───高齢の方に大腸がんの手術をして、手術して良かったのかと考えられたそうですね。
石井 外科治療の結果は5年生存率で評価されますが、年齢的に5年生きられない確率が高い人を手術することもあります。70~80歳を過ぎると、本当の意味で治すのは難しくなります。大腸がんは取れてもトレードオフで失うものが多分にある、その人にとって正解は何か、医療者では決められない。自己決定してもらうことになりますが、それが難しい。
そもそも「治す」って何だと言われると、かつてとは全然違う価値観になっていると感じます。その違和感から病院を離れ、一時は厚労省に勤務もしました。
───死に方を考えてください、決めてくださいと言われても、すぐには難しいですよね。自分との対話、家族のコミュニケーション、それが不足しているのが根っこにある気がします。きちんと対話できてないまま亡くなって、本人も周りもみな困った例もあります。がんの手術をしなければ良かったのではと言う遺族もいるのでしょうね。
石井 がんが見つかって、「手術しますか」と聞かれたら、お願いしますとなるでしょう。もし85歳で手術することになった場合、例えば歩けなくなる、フレイル(心身の活力が衰えた虚弱状態)が進んで、自宅に戻れず施設に入るかもしれないといったリスクがあります。事前に知っていたら、「自分は手術はしない」と本人が決めて家族に伝えたかもしれません。そんな選択をしても良い時代だと思います。
急性期の外科から終末期医療の世界に来て、よりそう思うようになりました。長生きすることの意義がどこまであるのか、今まで以上の平均寿命を延ばす意味はどこまであるのかと。手術しない選択も含め、生活を優先して生きていく、「治す」だけではなく暮らしを豊かにする視点が大切だと思います。
<コラム>死を考えておくと、生が豊になる
「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」とは、日本語で人生会議と呼ばれる取り組み。もしもの時の医療やケアについて、事前に考え、家族や医療関係者と話し合い、共有するもので、現在注目されています。石井洋介著『便を見る力』から、ACPに関係する引用を紹介します。
「家族が最後に迷うのは、結局、患者本人がそう判断した理由がよく分からないからです。なぜ自分は延命して欲しくないのかという理由を話し合うプロセスを経ることで、互いの価値観を知ることができ、どちらもが納得のいく選択ができる。その時間全体がACPなのです」。
「言い換えれば、「最後までどう生きたいか」を周囲の人たちと話し合い、意思表示をしておくことでもあるのです。また、ACPで患者の価値観を共有することで、医療側も治療やケアがやりやすくなるという側面もあります」。
また、石井先生たちは、本人とご家族、関係する医療職が書き込んで価値観やプロセスを共有できるノート「ケアを結ぶ手帳」や、ACPを普及するためのゲームを開発しています(大阪府豊中市と協働)。
(石井氏からの情報提供・協力により本荘が作成)
終わり方を決める、共有する
───「アドバンス・ケア・プランニング(ACP:Advance Care Planning)はいつ頃からやると良いのでしょう。
石井 ACPは「人生会議」とも呼ばれ、将来の医療やケアについて家族や医療関係者と話し合い、共有する取り組みです。3段階あると言われていますが、健康なうちに始めるなら、結婚や出産など人生の転機などで行うのがいいかもしれませんね。次は病気や障害になってしまったタイミング、最後は死を意識する人生の最終段階と言われています。我々のように、在宅医療や終末期の医者が言う場面では、目の前の方があと1年で亡くなっても驚かない場合に勧めています。
「あと1年くらいで本荘さんが亡くなったとして、みんな驚くと思う?」と聞くと、今は驚くと思いますよ。そこまで頑張って細かい点まで決めておかなくてもいいかもしれませんが、1年以内に亡くなっても驚かないなら、人生の最期をどう過ごしたいのかしっかり大切な人たちと対話を積み上げることをお勧めします。来年亡くなっても別におかしくない高齢者だと、準備しないと間に合わないこともあるでしょう。1回入院して、退院してくるタイミングで僕らは介入して言うことが多いです。
───生き方や考え方は人それぞれ異なることから、あとはご本人の価値観ということでしょうか。
石井 まだ元気でいられるかなと思ってしまう人もすごく多いんですよ。ご家族でもめることもありますね。ご本人の状態をよく知らない方から、まだいけるんじゃないかと言われたりするケースも我々はよく経験します。
───その辺も人生会議、ACPを早めに回しておけばトラブルは少なくなりますね。
石井 そういうことをちゃんとみんなで話しておいて、意思決定しようというときに困らないようにする。防災訓練みたいなもので、震災が起きてからでは遅い。病気になったらどうしようかというのを正月に集まったときなどに話しておいてねとよく言います。なかなかピンピンコロリと逝ける時代ではないので、事前に決めておかないといけませんね。
アクティブに課題に挑むチーム石井
───石井先生は、苦労した後に医者になり、厚労省に行って、うんこ学会をつくって、ゲームをつくって、コミュニティをつくって、本も書いて、omniheal社をやって、おうちの診療所をつくってと、精力的に多方面で活動されている理由はなんですか。
石井 創発というか、新しい仮説検証が好きなのです。まだ誰も見たことがないものにチャレンジしたい。いろいろなものを見て、課題を見つけて、その課題に対して仮説・メッセージを世の中に投げかけてみようとなります。
もっと医療界や介護を楽しくしようと、いろいろと取り組んでいます。自分で全部できるわけではないので、仲間を増やしながら活動しています。共感してくれる人がいるからできるという感じです。
───omniheal社の顧客には大企業が並んでいますが、企業等との取り組みはいかがですか。
石井 PoC(新製品・新事業などの概念実証:プルーフ・オブ・コンセプト)を依頼されることが多いです。例えば、医療機器メーカーから内視鏡をアプリで何かできないかという相談があり、プロトタイプを作って実証実験までやりました。何かはっきり決まっていない、ぼんやりした球が来て、それにアイデアを出して、プロトタイプを作るような依頼が多く、僕らの強みです。新規事業部門からの依頼が多く、一緒に作らせていただきます。
このACPゲーム「エンディングゲーム(ENDING GAME)」は大阪府の豊中市とつくりました。やりたいけれどどこから手をつけていいのかといった話だと、ウチはパートナーとして付き合いやすいのかもしれません。
───omniheal社で取り組まれた中野区「孤独・孤立対策に関する地域連携推進モデル事業」についてもご紹介ください。
石井 内閣府の事業を中野区と一緒に企画・運営しました。孤独と孤立は僕らも解消したいテーマなので、区とも協力出来てとても良かったです。課題解決型を大事にするからか、役所や伝統的な日本企業など、いろいろなところから依頼があります。
───企業の社員の健康度や生産性を上げるといった切り口もあるかもしれませんね。
石井 私の仲間が行った研究で、 クリエイターの健康度を調査したところ、長時間労働とうつの相関はなかったようです。 ところが、次の仕事がないかもしれないという不安が最も健康度と相関していたようです。 クリエイターからすると、どれだけ長時間働いても楽しい仕事だから良いが、将来の不安があるのは困るといったところでしょうか。クリエイターに限らずとも、とても納得のいく内容ですよね。
働き方改革で長時間労働をやめろといいますが、業態や企業による違いがあり、これで問題が解決するわけではない。こういうエビデンスを基に施策を打てば、もっと健康的で元気な社員でいっぱいの会社をつくれると思います。
───おうちの診療所もあり、omniheal社もあり、石井グループの規模はどのくらいでしょうか。
石井 診療所だけで約70人、全体では100人程度です。緩やかなコミュニティまで含めると、何百人もいるかもしれません。
健康・生き方の自己決定
石井 自分のからだをどうしたいか自分で決める時代になりつつありますが、健康の自己決定が苦手な人が多いです。
どこまで健康的でありたいのか、生きたいのか、どういう人でいたいのかを決めなければなりません。健康のためには、自分と向き合い、良い食生活や運動をするなど努力が要ります。自分のからだに投資しようとなればお金もかかります。これが決められない人がすごく多いと思います。
中高年になっても時間やお金を健康に使わないまま過ごして、具合が悪くなってから補助食品とかをたくさん使うようになるようなパターンが多いです。早くから健康的で最後までずっと歩き続けられる80代になりたいというビジョンがあったら、今からこうしようと自分で決めて、努力することになります。
───もう一つは、70代と便秘の関係もそうですが、いつまでも若い気でおらず、どういうふうに落ちていくか理解するということでしょうか。認めたくないというか、これに向き合おうとしない人が多いのも現実でしょうね。
石井 特に男の人は、退職したり社会性を失ったりすると一気に弱ります。地域活動をしたり、会社以外の人のつながりをつくったりすることが大切なのですが、どんな60代になるのか考える暇がないまま定年を迎える。そうこうしているうちに身体が弱っていき、我々医療者のところにやってくることが多いです。
───健康、そして生活、生き方自体を自分でデザインするということですね。
石井 そうですね。すぐ死ななくなったというか、病気を治せるようになりましたが、どこまで治療するか、どういうふうに最後まで生きたいか、というのをある程度決めたほうが良い時代になってきたと思います。と言っても、一人だけではすぐにできませんから、「おうちの診療所」は、患者さんの人生最後の時間をコーディネートする仕事をしています。
───自分について考え直す、良い気づきになりました。同時に、より良い社会にするために、やることがいろいろとあることも分かりました。自分自身、よく活動が続けられるよう、観便や検診はもちろん健康のため努力したいと思います。ありがとうございました。
インタビュー後記
3つの大きな健康のアナの一つ、排泄について、目を塞いでいる現実とその愚かさを感じました。大腸がんをはじめ、排泄・便は最も身近なシグナルであり、私たちの健康の基本です。
そして、生き方・死に方に向き合う重要性を思い知らされました。せっかく生まれ、生きているのに、自らをもっと大切にし、自分と向き合うという人間の基本を再認識したインタビューとなりました。
また、医療や健康についての啓発・教育のため、やることがたくさんある現実に対し、石井先生たちの多彩な活動、それも楽しさと愛あるアプローチに敬意を覚えます。私たち一人ひとり、そして組織や社会が、あるべき姿とずいぶんズレている実情を、少しずつでもよい方向にと努めたいものです。
(Interviewer:本荘 修二 本誌編集委員)

石井洋介(いしい ようすけ)氏
医師/日本うんこ学会会長
株式会社omniheal代表取締役
19歳の時に潰瘍性大腸炎により大腸全摘出術を受けたことをきっかけに医学部受験を決意。高知大学医学部卒業後、研修を経て横浜市立市民病院へ。消化器外科医として大腸がんの手術などを多数手がける一方、厚生労働省勤務や「日本うんこ学会」創設など意欲的に活動。
「大腸がんは見つかった時点で寿命が決まる」という厳しい現実を打開すべく、毎日うんこを観察するカンベン(観便)を推奨し、医療の現場はもちろん、ゲームアブリやエンタメを通して発信し続けている。近年は、病気の予防・治療に加えて在宅医療の必要性を感じ『医療法人社団おうちの診療所』を開設。著書に『19歳で人工肛門、偏差値30だった僕が医師になって考えたこと』(PHP研究所)、『便を見る力』(イースト・プレス)。