見山 謙一郎
株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役
新春提言
「未来感」に関する気づき
~ホライズン2022年11号の企画、編集を経て感じたこと
昨年11月に発刊された本誌11号で「Step! ~Another Horizonに向かって」という特集を組ませていただきました。タイトルの“Step”とは、“Hop”(何からはじめて)、“Step”(どうやって拡げて)、“Jump”(その先に何を目指すのか)の中の、どうやって拡げていくか(“Step”)に焦点を当てたものです。実は、企画段階では、“Step”と“Another Horizon”のどちらをメインテーマに据えるべきか迷ったのですが、個人的な思いや信念が軸となる抽象的な“Another Horizon”よりも、実際の行動の現在地である“Step”に軸を置くべきではないか、と考えたことから、メインテーマを“Step”に決めました。行動を軸にしたのは、これまで私自身が、時にはリスクを顧みず行動を起こしてきた、という小さな自負があったことも理由の一つでした。また、副題となった“Another Horizon”には、実際に行動を起こしている人たちが描いている「未来感」に私自身が触れてみたい、という思いが込められています。未来像を描く際、「フォアキャスト」か「バックキャスト」なのか、という議論は多々ありますが、きっと一歩踏み出している人たちは、これらとは違う、「少し曖昧だけど、根拠なき確信に基づく未来感を、きっと持っているのではないか」という私なりの仮説が、この特集の起点でした。しかし、編集作業を終えて感じたことは、「一歩踏み出している人たちに、未来感なんてものはないのかもしれない」という、意外な気づきでした。
守りに入らない
日々、大学で学生と接する中で、本当に多くのことを学びます。本誌11号でも、学生の座談会を行い、学生がどのくらい先の未来までを考えているのかを語ってもらいましたが、そこで語られた未来感は、「2~3日先くらいまで」「1~2週間先くらいまで」「1週間先くらいまで」「先を見るより、今を見ている」「これまで先を見て大学まで進んだが、現在は“今”を大切している」「1日単位で常に変化している」というように、とても未来感と言えるようなものではありませんでした。逆に「もしかして、未来を心配しているのは、大人たちの方ではないんですか?」、そんな疑問を学生から突き付けられた気がしました。この座談会の最中に、「未来を予め見据えて、点と点を繋ぎ合わせることはできない。できることは、後から繋ぎ合わせることだけだ。だから、私たちは今、行っていることが、いずれ人生のどこかで繋がり実を結ぶだろうと信じるしかない。」という、2005年のスタンフォード大学の卒業式でスティーブ・ジョブズが行ったスピーチを思い出しました。つまり、学生の未来感は、この “Connecting the Dots”なんだ、ということにあらためて気づかされた思いがしました。自分自身、歳を重ねるごとに、経験というものが逆にバイアスとなり、「(できもしないのに)未来を予め見据えて、点と点を繋ぎ合わせようとしているのではないか」、そんな気がしてきました。私自身を振り返れば、これまでの人生、相当な無茶をし続けてきました。37歳でメガバンクを無謀にも退職し、環境金融を行う非営利組織に転じ、その後起業独立しましたが、重要な決断の時ほど未来を予め見据えるようなことは敢えてしていなかったと思います。そのため、当然のことですが、いろいろと本当に大変なこともありましたが、その分、貴重な経験ができ、そのことが今の自分をつくっているのだと自信をもっていうことができます。
これまでの人生をあらためて振り返ると、「未来を予め見据えて行動してきた」とは、とてもいえず、むしろその逆だったと思います。そんな自分が、他人様(ひとさま)の未来感に触れてみたい、と考えるようになったとは・・・。「このままでは、ヤバいですよ」ということを学生に諭されたような気がします。半世紀を生きてきた今だからこそ、あらためてジョブズの「Stay hungry, Stay foolish~ハングリーなままであれ、愚かなままであれ」という言葉の意味を噛みしめたいと思います。
攻め続ける
私自身、齢50を過ぎ、子どもたちが社会に巣立ち、生活が少しばかり落ち着くと、ここから先のことをいろいろと考える余裕が生まれます。これまで、目先のことで精一杯で、自転車操業の日々を過ごしてきたからこそ、「ここから先は、少し先を見据えて」と考えてしまいがちですが、それでは今まで築いてきた自分らしさが失われるような気がしています。このことは、企業にも当てはまるのではないでしょうか?「大企業が新たなことに挑戦できずにいること」も、「スタートアップ企業が上場後、守りの姿勢に入ってしまうこと」も、今が落ち着いているからこそ、(できもしないのに)未来を予め見据えて、点と点を繋ぎ合わせようとして、リスクを伴うような挑戦ができなくなっていることに他ならないように思います。本誌2022年11号では、TDK元社長・会長の上釜さん、シャープ元社長・会長の片山さん、東芝元常務の江草さんたちの現在の取り組みも座談会形式で紹介しましたが、この対談から、「未来を語る前に、まずは足元の現状を直視しろ」という強いメッセージを感じました。このことを体現すべく、これまでの経験を助走期間と捉え、次の時代を担うベンチャー企業の経営者や技術者と一緒に汗をかき、本気で新しい日本の技術、産業を作っていこうとする姿からは、守りの姿勢は全く感じられず、相変わらず攻めまくっている、そんな印象を受けるとともに、「未来感がどうかとか、何、守りに入っているんだよ」と私の背中を強く押された気がしました。
ココからはじめる2023
私にとって2023年は、ちょうど任期のある仕事を1つ終えるタイミングでもあります。スタンフォード大学でのジョブズのスピーチに戻りますが、彼は自分自身の体験を踏まえ、「死は我々全員の行き先である。死から逃れた人間は一人もいない。それは、あるべき姿だ。死はおそらく、生命の最高の発明で、それは生物を進化させる担い手であり、古いものを取り去り、新しいものを生み出す」と語っています。少し大げさかもしれませんが、任期という期限を死に例えると、期限があることは、組織にとっても、自分自身にとっても、大きな意味があることなのだと思います。私自身のこれまでの人生を振り返っても、何かが終わる時に、新しい何かが始まっています。人生の折り返し点を経て、1つの節目を迎えるチャンスの年だからこそ、決して守りに入らず、攻めに攻め続け、新しいことに貪欲に挑戦し続ける、2023年は、そんな1年にしたいと思います。
見山 謙一郎
株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役
「社会課題×経営学」の視点から、国内外で企業の経営戦略策定や新事業創造に関する活動を支援。海外では特にバングラデシュとの縁が深く、現地財界とのネットワークをベースに、多くの日本企業の進出支援に携わる。環境省・中央環境審議会(循環型社会部会) 委員や総務省、林野庁などの中央省庁や、川崎市、秋田県にかほ市、鳥取県智頭町など地方自治体の各種委員のほか、専修大学経営学部特任教授、特定非営利活動法人メドゥサン・デュ・モンド ジャポン(世界の医療団)理事などを兼務。専門は、技術戦略論、国際ビジネス(途上国ビジネス)、アントレプレナーシップ、SDGs。