さまざまな困難に遭遇したとき、人は原理原則に立ち戻ることで正解に近づくことができます。
または、先人の言葉を参考にすることで事態を打開できることがあります。
そこで私がこれまで先輩に教わり、あるいは体験したり、書籍から学んだことをお伝えさせていただきたいと思います。
最後の1点を勝ち取る力
ここでは、私が日本卓球協会会長としてスポーツの世界で感じたこと、印象に残った事をお話ししたいと思います。
卓球というゲームは11点先取した方がそのゲームを勝ちます。団体戦やダブルスのように5ゲームマッチの場合は3ゲーム先取で勝ち、シングルスのように7ゲームマッチの場合は4ゲーム先取で勝ちとなります。
卓球の試合は、1ゲームの中で、8点の壁というものがあるように思います。8対3とか8対4とか、点数が離れているケースでも逆転されることが珍しくありません。8点を先取した選手は「あと3点で勝ちだ。失点してもまだ余裕がある。」と、無意識にプレーが消極的になり、守りに入ることが多くなります。また、勝利への緊張感から体の動きが硬くなり、失点・逆転の原因になります。メンタルな要素が大きいわけですが、それだけではなく、最後の勝利を確実なものにするだけの技術力の弱さ・足りなさがそこにあると思います。
数多くの国際大会で日本が善戦しながらも逆転され、惜しくも負けてしまう試合を幾度も目の当たりにしてきました。
ある時、「惜しい試合が多いね。もうちょっとだね。」と強化本部長に問いかけたところ、その答えは驚くべきものでした。「会長!!ちっとも惜しい試合ではないんです。負けた選手はすべてを出しきってやっとそこまでプレーをしている。いっぱいいっぱいなんです!!それに対して相手の選手は勝利につながる最後の1点を取るための技を何十通りも持っていて、その技をここぞと思う時に正確に使えるために強烈な努力をしている。最後の1点を勝ち取るために、コーナーぎりぎりの難しい球を正確に打ち込める力、あるいは回転のきつい難しい球をしっかり受け止めて反撃する力、これらを自分のものにするために何万回と練習を積んでいるんです。たった1点だけれども、勝者と敗者。その背景には、大きな努力と研鑽の差があるんです。その差は大きな差、だから最後に仕留められてしまう。最後の1点を取るための力をつけなければ」というものでした。
「よく戦った!!善戦をした!!惜しかった!!」、ここで我々はプレーヤーも観客もある種の美学を感じて済ませてしまうけれど、勝負の世界はやはり最後に勝たなければ意味がない。我々は勝敗を分ける1点の重みをもっと深いところで理解していかなければいけない。“惜しい負けはない”。ここぞと思う大事なところで勝ち切る力、技を出せる力、それが真の実力!!その背景には、世界で戦う超一流のプレーヤーは自分がどんなに強くても、たとえ世界No.1の選手であっても、いや、世界No.1の選手であればこそ、更なる高みを目指して常に強烈な努力を重ねているのだということを私たちは深いところで理解し、腹に落とし込んでいかなければならないと思います。
公益社団法人 日本マーケティング協会
会長 藤重貞慶