大坪檀のマーケティング見・聞・録
人口減少時代に受験生集めや経営難に悩む大学が地方の私立大学の中小規模校に多数出現しているというニュースが最近よく目に付く。かなりの規模の伝統のある女子大の中にも共学化や募集停止などいろいろな動きがあり対応策も注目されている。
将来の人口減→入学志願者減で其の存在が問われているのはなにも大学だけではない。地方の中小企業の多くもその存在を根本から問われ苦闘している。人口減少→人手不足と健康寿命→高齢化は今やあらゆる組織活動に革新と変革を余儀なくさせる神の手となりつつある。
私立大学は学校法人が評議会、理事会組織を構成し大学を運営、単純に言えば学校法人は所得税、固定資産税は原則免除、利益配分→配当の義務がない。顧客としての学生はテストのうえ受け入れる。授業料→代金は先取り、掛け値なし。学位授与権が無言の影響力となり教育現場で作用する。各種の補助金が受けられる。大学経営をビジネスモデルとしてとらえると誠にうらやましいモデルで今どきこんなビジネスモデルがあったのかという人もいるのではないか。
人口減少の視点から見ると確かに地方の中小規模大学の先行きは誠に厳しい。しかしどうか。先述の通り地方の中小企業の中にも人口減少、顧客の変化に苦しみ生存が危ぶまれているところはたくさんある。
大学をビジネスモデルとしてとらえれば大学のほうが遥かに恵まれた環境下にあるといってよい。大学は大きな脳集団、シンクタンクで、経営学、マーケティング、会計学の学者も抱えているところが多く,最高の知見、情報で変化に対応できる組織だ。
企業では生き残りをかけた戦略論、マーケティングのアプローチが経営の場にすぐに登場する。革新、イノベーション、創造、チャレンジを口にする大学人は自分たちの大学の今後をどう考えているのだろうか。
地方の大学は地域の頭脳労働者の組織でもあり、地域社会に情報・知識とともに地域発展に不可欠な人材を育成、供給する一大源泉。地域社会に教職員が支払う住民税、消費税や多くの経済的支出活動も馬鹿にならない影響力を持つ。
地域再生には産業の高付加価値化が必要だが、それに貢献する大学卒の人材は不可欠。多くの地方の中小大学の誕生には地域に必要な人材育成、地域の活性化を願った地域人の思いが働いていた。中小大学はなくなれば地域社会の人材育成、供給が弱体化し地域産業社会は目に見えて弱体化する。
地方の小規模大学を取り巻く環境変化には地域発展に必要な知識、情報に加えて、地域社会で叫ばれているリカレント、リスキル教育、IT、AIの活用教育、専門的職業資格教育や教育の国際化の必要性が叫ばれ、新しい教育需要の芽生えが多々見いだされる。高齢者層の教養教育熱に応えた市民大学の誕生、インターナショナルスクールやフリースクール、日本語学校の新設、外国大学との進出や連携、外国キャンパスの設置など新しい教育事業計画をいろいろと耳にする。
AIの出現は大学教育自体をどう変化させるか。AI時代に価値ある人材を大学はどのように育てるのか。
地方の中小規模大学が今直面する問題は生存が問われる難局ではなく新しい発展の好機に面しているととらえ、大学経営者は大学そのものの役割、存在にもメスを入れるなど発想の根本的な転換を行い、新発展戦略の構築、展開が求められていると考えるべきではないか。
会社経営者はどうするか。顧客の減少、市場の変化で売り上げ収入が減少すればこれを補うべく、新製品、新技術、新事業、新マーケットの開発で新たな発展に組織全体が腕を振るう。
学校法人の経営者は、大学を地域発展に資する公器としてとらえ大学の経営革新、新型教育事業に積極的に乗り出し入学者減による収入を補う。新しい教育哲学、革新的な教育法の開発を行い、全国あるいは諸外国からの入学者を魅了する。偏差値、ランク付け文化から脱却し、未来志向で地域社会の発展に貢献する革新的な人材育成教育を実現する新しい大学づくりのチャンスが到来したのだ。
マーケティング学者、経営学者、社会学者、教育学者の出番ですよとも言いたい。革新的な教育の需要創造の提案がマーケティング学者から出てこないものか。新しい中小大学を創造し、知名度、イメージ革新、その大学に行きたくなるような広報活動に知恵とノウハウを経営者に提供し学生募集に成果を上げたなどの報道も聞きたいもの。
大学は紺屋の白袴のそしりを受けかねない。大学経営にもいまや起業家精神が求められている。マーケターの知恵も不可欠だ。
Text 大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 特別教授