昭和女子大学人間社会学部 現代教養学科3年見山ゼミ
「Z世代の購買行動における「信用認知」と信頼認知」の研究について」
昭和女子大学人間社会学部 現代教養学科教授 見山謙一郎
昭和女子大学人間社会学部現代教養学科の3年見山ゼミでは、さんと連携し、Z世代の広告の捉え方に関する研究を行っています。昨年度は、Z世代の広告に対する接し方や感情を分析し、Z世代は「広告」を「好きか嫌いか」ではなく、「好きか不快か」で情報処理をしていることが考察されました。ここから得られた示唆は、「嫌い」は対象に対する評価的な感情であるのに対し、「不快」は感覚的、生理的な拒否反応であるということです。広告に対する不快感は、広告の内容のみならず、視聴中のコンテンツのストーリーを遮るようなタイミングの悪さなどにも向けられます。このような不快な広告への対処法は、広告自体を見ないよう別のことをしたり、課金して広告が流れないようにしたりするなど、広告の存在そのものを消すことです。実際に、学生に印象に残る企業や商品の広告を尋ねても、不快と感じる広告の方が多く挙げられます。広告の役割や存在自体が問われる、厳しい状況を示す一例だと思います。
そして今年度は、昨年度の研究を一歩進める形で、Z世代の学生自身に、自らの購買行動を観察してもらい、意識的な行動のみならず、無意識下での行動からもたらされる感情や情報処理を客観的に考察するとともに、企業が発信する広告が購買行動にどのような影響を与えているのかについての研究を進めています。本稿では、7月に日本アドバタイザーズ協会さんで行った2025年度前期の研究発表の内容を紹介したいと思います。
なお、本研究はあくまでも研究の起点となる仮説をつくる目的で行われたものであること。そして女子大学の学生の購買行動観察で、男子学生は現時点では研究対象としていない点にはご留意いただければと思います。女子大学生の、女子大学生による、女子大学生の購買行動に普段接する機会がないマーケターの皆さんにとっては、普段とは少しだけ違う視点に触れられる機会になるのではないかと思います。
<研究について>
- Z世代の女子大学生の、女子大学生による、女子大学生の購買行動の観察、分析
- 1 の購買行動における企業の広告(企業広告、商品広告)の影響分析
- 1,2 からの企業の広告の課題と可能性の考察
<研究プロセス>
- Z世代の女子大学生の関心が高い、化粧品とファッション(服)に絞り、自分たちの購買行動、具体的には①認知から興味・関心を持つに至った経緯、②検討ポイント、③実際の購買行動、に関する観察と分析を行うこと。
- 1 について、従来の購買行動プロセスモデル(AIDMA、AISAS、AISCEAS、SIPS等)を参考に、自分たちの購買行動プロセスモデルに落とし込むこと。
- 1,2 を踏まえて、企業発の広告がZ世代の女子大学生の購買行動に与える影響力の考察と、対案を提示すること。
Z世代の女子大学生の、女子大学による、女子大学生の購買行動の観察と分析
化粧品に関する購買行動の分析
今回の研究では、メイクアップ商品だけでなく、美容液、パックなど顔に使われるスキンケア商品を含めて化粧品と定義しました。その理由は、SNSの投稿では、スキンケア商品もメイクアップ商品と同じように扱われ、紹介されていることが挙げられます。
実際の購買行動の①認知から興味・関心を持つに至った経緯では、SNSの投稿を含む口コミ、ランキングなどのネット情報が真っ先にあがりました。ただし、ここでの留意点は、学生が求める情報は企業関係者以外の第三者からの客観的な情報であり、企業色がにじみ出ている情報は排除されるということです。そして、②検討ポイントでは、そもそも「良い情報(加点方式)と、悪い情報(減点方式)のどちらを重視するのか?」ということが議論されました。
加点方式で見る場合は、「興味があり、好きなブランドであればあるほど良い情報を優先したい」、「買いたい気持ちがあるので、自分を納得させられる情報が欲しい」との意見が出されました。逆に減点方式で見る場合は、 「買うか買わないかのギリギリのラインにあるケース」 や 「迷っている時にマイナス情報を見てあきらめる」などの意見があがりました。そして、どちらのケースが多いかについては、減点方式で見る学生が大半を占めました。フィルターバブルの中にあって、同じSNS上でテーマやコミュニティごとに分けて複数アカウントを持つ今の学生は、購買行動において、マイナス情報にも意識的に触れていることが考察されました。
化粧品の購買における「信用認知」と「信頼認知」
学生が自分自身の購買行動を振り返る中で、 自分自身が商品の提供価値を認め、 受け入れる 「認知」には、2つのタイプがあることが明らかになりました。
1つ目は、商品そのものの提供価値を受け入れ、納得する認知タイプで、これを見山ゼミでは「信用認知」と定義しました。2つ目は、人に由来するもので、商品に対する他者の価値観や評価を受け入れ、納得する認知タイプで、これを「信頼認知」と定義しました。
実際に、学生の購買行動を観察、分析したところ、化粧品のケースでは、その商品が自分の肌や自身が持つイメージに合っているのか、という商品そのものに対する「信用認知」のプロセスを経た後に、購買の仮検討プロセスに入ります。その後、インフルエンサーの情報など企業以外の信頼できる第三者の商品に対する価値観や評価に触れ、その情報に納得し、受け入れる「信頼認知」を経て本検討のプロセスへと進みます。なお、この「信頼認知」は、人から得られるものであることから、ビューティコンサルタントやドラッグストアの店員などからも得ることが可能です。その後、店舗購買のケースでは、試用を経て確信し、③実際の購買行動へと繋がることが観察されました(図1)。

ファッション(服)に関する購買行動の分析
~「信頼認知」と「信用認知」
前提条件の整理の中で、化粧品は自分の肌の質や自分の思い描くイメージに合っているかという「自分軸」が商品選択の前提にある一方で、ファッション(服)は、「人からどう見られるか」という見え方重視の「他者軸」が前提にあるということが相違点として挙げられました。この点から、ファッション(服)の購買行動分析においては、トップスやボトムスなど、他者から見えるものを中心に学生自身の購買行動の観察を進めていきました。
その結果、①認知から興味・関心を持つに至った経緯は、化粧品と同様にSNSの投稿を含む口コミ、ランキングなどのネット情報が真っ先にあがりました。一方、化粧品と異なる②検討ポイントとしては、身近な人からの口コミ情報や、インフルエンサーが実際に着用している写真を自分自身が客観的な視点から評価し、化粧品よりも早い段階で仮検討の段階に進むことが観察されました。そして、他者の評価視点と自分自身の評価視点の掛け合わせにより、納得、信頼できる情報として処理されれば、そのまま「信頼認知」へと繋がります。
つまり、化粧品の購買行動が、商品そのものに対する「信用認知」から、他者の評価、価値観を受け入れる「信頼認知」を経て購買行動に繋がったのに対し、ファッション(服)の場合は、自分や企業以外の第三者が発信する客観的な情報の価値観に納得し、 それを受け入れるという 「信頼認知」が、商品そのものの価値を受け入れる「信用認知」よりも先に訪れるのではないか、という違いが観察されました。
そして、ファッション(服)の購買行動において「信頼認知」の後に訪れる「信用認知」が何か、を考えていく中で挙げられたのが、様々な角度からの商品の写真、サイズや原材料、素材感が細かく明記されていることなど、商品そのものに関する情報の他、返品や交換などの保証、サービス展開なども対象になることが挙げられました。このようにファッション(服)の購買行動分析においては、仮検討の後、第三者の価値観や評価を受け入れ、納得する「信頼認知」⇒商品情報やサービス展開など、企業からの提供価値を受け入れる「信用認知」⇒購買の本検討による確信を経て⇒③実際の購買行動へと繋がることが観察されました。
また、服のケースでは、オンライン購入のケースでも返品や交換が比較的容易であることから、購入後の試着プロセスを経て、最終的な購買が確定するということが興味深い特徴として挙げられました。学生からは、返品や交換の容易さが、服の購買においてオンラインが多いことに繋がっているとの意見が多く出されました。そして、実際に購入した服に対する満足感を得たときに、服そのものだけでなく、服のオンラインサイトや、ブランドに対する「信頼認知」が芽生え、次の購買へと繋がる好循環が生まれることが考察されました(図2)。

女子大学生の化粧品とファッション(服)の購買行動分析から明らかになったことは、商品そのものの提供価値を受け入れ、納得する「信用認知」と、人由来で、企業以外の第三者が発信する商品に対する客観的な価値観や評価に納得し、それを受け入れる「信頼認知」という2つのタイプの認知が合わさって購買行動に影響を与える、ということです。
では、この2つのタイプの認知に企業はどのように関与できるのか、そのことについても学生に話し合ってもらいました。
学生と企業の認知距離の考察
商品そのものの価値観の中で、企業の主観を排除した情報、具体的には原材料や素材、価格などの情報は、企業が発信する情報の中でも客観性がしっかり担保されていれば、学生の「信用認知」を得ることが可能です。しかし、そもそも企業以外の第三者の価値観や評価を受け入れることで芽生える「信頼認知」に、当事者である企業が影響を与えることはかなり難易度が高そうです。
ここにおいて、ファッション(服)のケースで示された、商品に対する「信用認知」の前にあらわれる、インフルエンサーが実際に着用している写真を自分自身が客観的な視点から評価すること、つまり第三者の評価視点と自分自身の評価視点の掛け合わせにより、納得、信頼できる情報として処理されれば「信頼認知」へと繋がるという観察ポイントには何らかのヒントがありそうです。
この意味において、ストーリー展開で利用シーン(コト)を強調し、商品(モノ)をストーリーの途中であまり意識させない企業広告や商品広告は、企業が「信頼認知」に影響を与えることができるアプローチかも知れません。なお、学生視点から、企業が学生の「信頼認知」に働きかける広告として提案されたのが、手書きPOPでした。これは、企業のキャッチコピーは主観的で嘘っぽく聞こえるが、実際に使用経験がある店員さんや購入者のレビューの方がより客観的で信頼できること。そして、手書きの方が書いた人の人柄や思いを直接的に感じることができ、親しみが生まれるという自分たちの体験から導き出されたものです。
Z世代の女子大学生の、女子大学生による、女子大学生の購買行動の観察、分析結果を踏まえ、今後、企業が学生との主観的な距離感である 「認知距離」 を縮めていくためには、学生の 「信頼認知」にどのように働きかけていくことができるか、ということが重要であることが考察されました(図3)。

企業はZ世代との認知距離を縮められるか?
~昭和女子大学 現代教養学科教授 見山謙一郎
広告は、情報の出し手である企業が、情報の受け手である消費者(本稿においてはZ世代の女子大学生)に届けたい意図と、情報の受け手の影響(購買行動に繋がる行動変容)の相互作用によって意味を持ちます。私が学生だったバブル経済期は、テレビや新聞、ラジオなど限定的なメディアから発信される情報を一方向で無意識に受け取っていました。そのため、企業の意図は反映しやすく、情報の受け手も無意識に情報を「信用」していたと思います。
しかし、今の時代はインターネットやSNS等の発展により、情報の伝送路であるメディアが、従来の情報の受け手にも解放され、学生を含めた個人が情報を自由に発信できるようになりました。このことにより、広告情報は従来の発信者である企業から、受け手側の消費者が主導権を持つようになったとも言えます。企業が従来の手法で情報を送ったところで、学生が関心を持たない限り、情報は認知されることなく、スルーされてしまいます。
ここまで記した通り、認知には、商品そのものの提供価値を受け入れ、納得する「信用認知」と、人に由来する、他者の価値観や評価を受け入れ、納得する「信頼認知」があり、購買行動を促すためには、これら2つのタイプの認知を満たす必要があります。
この2つの認知タイプのうち、特に学生に寄り添うような形で興味、関心を促し、購買行動に繋がるものが、人由来の「信頼認知」です。「信頼認知」を得るためには、化粧品のケースでは、ビューティコンサルタントや店舗スタッフの接客による共感や実体験というアナログ価値の再認識が、またファッション(服)のケースでは、利用シーンなどコト消費の志向が「信頼認知」を促進させることが考察されました(図4、図5)。
冒頭でも記した通り、本研究はあくまでも研究の起点となる仮説をつくる目的で行われたものに過ぎません。今後の研究では、より多くの学生の意見や視点を取り入れるとともに、企業との対話を重ねることで、更に研究の解像度を高めていきたいと思います。学生に寄り添い、行動観察をすることから見えてくるものは、本当に興味深いものばかりです。本研究に興味、関心のある企業関係者の方はぜひ、ご連絡ください。


以 上

(ソーシャル・マネジメント論ゼミ)
社会全体をフィールドに「影響領域」の情報である様々な社会課題や、「関心領域」の情報である世の中の様々な事象の背景や、両者の繋がり、関係性を探求するゼミ。研究に際しては、学生自身の興味・関心を誘発する様々な経験、体験という一次情報の蓄積がより重要であると考え、3年次には主に企業等と連携したプロジェクトを中心にした活動を実施し、4年次には3年次に蓄積された各人の一次情報をベースに先行研究の分析と客観的な考察を加え、卒業論文を執筆する。なお、本稿は、今年度(2025年度)前期に行った3年見山ゼミの研究成果をまとめたもの。

─2025年度3年見山ゼミメンバー(12名)─
(ゼミ長)富所遥香、(副ゼミ長)水澤紀佳、宮城梨花、玉川葵泉
酒井響、石井碧、粟井仁香、石田茉紘、大川玲奈、関根優那、田邊奈津、長友理咲
昭和女子大学人間社会学部 現代教養学科 見山ゼミ