
『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』
博報堂生活総合研究所 著 光文社
Z家族 データが示す「若者と親」の超親密化
本書は、若年層をめぐる通説に待ったをかけ、若年層の「内輪化」という現状をエビデンスベースで語るチャレンジな試みである。
ここで言う内輪化とは、個の希薄化ではない。むしろミクロな家族単位の結びつきが濃くなっているという事実。親離れ・子離れという従来存在したライフイベントが希薄になり、家族は「いつでも戻れる安全圏」と変化した。博報堂生活総研の持つ、日本では稀有な30年の時系列生活者データに基づき、「若者は人間関係が薄い」「自己肯定感が低い」といったステレオタイプを喝破する。見えてくる実像は、家族(とりわけ母親)とローリスクな親友が意思決定トリガーであり、メンターでもあること。
スマホによる常時接続の生活がこの内輪化を支える。推し活は親子や親友との連帯のハブとなり、チャットアプリは反復的な共感とつながりの強さを加速。物理的にもさまざまなイベントを共にし、心理的安全性を支点にした小さな経済圏が生まれている。若年層の意思決定は個人から家族+親友へと拡張し、ブランド選好もその内輪での可視化と共感によって刺激されるようになっている。
本書の価値は、この構図を仮説でなく実測で描き切った点にある。90年代の若者と2020年代の若者をOSレベルで照合し「違い」を明確にする。この本からマーケティングに携わる我々は何を受け取るべきだろうか。
若年層に届く戦略は、個を直接口説くより、家族やローリスクな親友というインナーサークルに「入っていく」デザインであるべきなのかもしれない。親子や親しい仲間に根ざした物語や、近しい関係でこそ楽しめる体験、そして外に踏み出す際の第二の安全基地としてのブランド。
本書はエモーションではなく、30年の軌跡で確かな若者論。若年層を取り巻くリアルを戦略に変換したい人の必読書だ。
Recommended by 南坊 泰司
株式会社manage4 代表取締役