『カスタマー・アドボカシー志向:
デジタル時代の顧客志向戦略』
山岡 隆志 著 有斐閣
「顧客にとって優良企業であれ」。これは私がアドボカシー・マーケティングに初めて触れた際に、とりわけ印象に残った考え方である。企業はとかく目先の利益に引きずられ、顧客に本当に必要か不明な消費行動を促すのに必死だが、その前に自分たちが顧客を徹底的に支援できているのか、長期的に顧客からの信頼に足る組織になっているのか、問い直せというのである。
究極の顧客志向に通じるこの考え方は、筆者によれば最上級のロイヤル顧客ともいえるアドボケイトを生み出すという。アドボケイトはそのブランドを深く理解し能動的に関与しているため、そこから発せられる情報は無二のストーリー性を含み、かつ、信頼に足るものとして他者に認識されやすい。彼(女)らは、つながりに基づく推奨がものをいうデジタル時代のマーケティング環境において、企業価値を共に高める力になりうるのである。
本書のタイトルである「カスタマー・アドボカシー志向(Customer Advocacy Orientation:CAO)」とは、このアドボケイトの育成を企業戦略に据えていくことを指す概念である。同分野における日本の第一人者が、約20年にわたる研究成果をもとに、このCAOを体系的に説明しているのが特徴だ。
全3部・9章構成(序章・終章除く)のうち、第1部では、アドボケイトとは何であり、なぜ重要で、その育成には何が必要かを事例と共に説明している。第2部では理論的にCAOを考察し、同概念はリレーションシップ・マーケティングの一部でありながらも、関係性構築の方法等に新しい論点があることを指摘している。第3部では、CAO尺度の開発と、それに基づくCAOの多面的な影響関係の実証分析結果が丁寧に書かれている。
本書は学術書だが、説明されている諸概念やCAO尺度は、「顧客志向とは何だろう ? 」と疑問を感じ今までの活動を見直し・変革したいと欲するビジネスパーソンにこそ響くのではないかと私は考える。なお、CAOはどの企業にも適した志向性ではないと筆者は説くが、適している企業でさえCAO展開上の組織的障害はあろう。自分ならどうCAOを推進していけるだろうか、考えながら読み進めることは本書の理解に大きくつながっていくと思われる。
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北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)
教授 白肌 邦生