INTERVIEW


応援消費の拡大と今後について

INTERVIEW

by 水越 康介
東京都立大学 経済経営学部 教授

 好きなブランド、ふるさと納税、推しのアイドルなど、「消費」をすることで「応援」するという動きが、超低成長時代の中、非常に大きな高まりを見せています。この動きは流行りなのか、それとも、文化として定着していくものなのか。
本号のテーマである「応援消費」。この動きについて『応援消費-社会を動かす力』(岩波新書)で分析した東京都立大学の水越康介教授に、「応援消費」が生まれた理由、今後の流れ、社会への影響などについてお話を伺った。 

応援消費はどのように広がったのか

───先生の著書『応援消費-社会を動かす力』を拝読させていただきました。世の中はふるさと納税、エシカル消費、推し活と呼ばれる消費など、誰かや何かを懸命に応援しようという利他的な消費が想像以上に多く、年代を問わず行われる傾向が高まっていると感じています。
 そもそも、消費というのは「自分のために買う」という行動であり、たとえば、アイドルの追っかけ、アニメファンなどは他者への消費を熱心に行う人として、「バカにされる」ことも多かったように思います。私自身もそうでした。しかし、最近になって「他人のため」「生産者のため」「地域のため」の消費が受け容れられるようになったことに、喜びや嬉しさだけでなく、戸惑いを感じています。特に現在のような超低成長時代には理解しがたい消費行動のようにも感じています。
 現在なぜ、応援消費という動きがここまで大きく拡大し、そして注目されるに至ったか、その理由や仕組みについてぜひ、先生のご意見を聞かせてください。

水越 応援消費がいかに広まってきたかにはいくつかの理由があります。好きなアイドルなどを推し活して純粋に応援する消費、そして募金や寄付などの社会的や倫理的に正しいと思えるエシカル型の消費の2種類があります。
 どちらにも共通するのはデジタルの発展が後押ししている点です。インターネットやソーシャルメディアなどで可視化できるようになり、つながれるようになりました。以前は自分だけが好きかもしれないという気持ちや、隣の人にはよくわからないかもしれないので言えないということがありました。しかし、インターネットやソーシャルメディアでは、同じような仲間を簡単に見つけてつながれるようになりました。現在のように応援消費を可視化することができるようになったという効果は非常に大きいと思います。
 余談ですが、何年か前にアメリカで「フラットアース」という話題が流行り、そのドキュメンタリーを見ました。フラットアースとは地球が平たいと信じることです。地球が平たいと信じることはおかしな話ですが、アメリカで、特に新型コロナウイルス感染症が流行する前にそれを信じる人たちが増え、一大勢力になり、社会問題になったようです。そのドキュメンタリーで紹介されていたのはインターネットとデジタルのつながりです。
 以前から、地球が平たいと思っている人たちはいましたが、それを言うとバカにされるので、この100年ほどは抑圧されていて出てきませんでした。しかし、インターネットの時代になり、同じように思っている人たちが他にもいて、「やはり地球は平たい」といった情報を共有し盛り上がる人たちが集まり始めました。そうすると、その説に感化され、平たいと信じる人も増えたという流れがあったようです。科学者がその人たちに地球は丸いと説得することが難しいため、社会問題になっているという話題でした。
 推し活なども根底には同じような流れがあり、以前は言いにくかったり、限られたファンが行動していたことが、デジタルの中では気楽に言えたり、発信できるようになったときに、意外に同じような人が周りにいて、つながれることがわかるようになりました。その中で従来より自由に意見を発信したり同じ志を持つコミュニティが形成されやすくなっています。そういう意味でもデジタルの発達は思った以上に大きな意味があります。
 通常のエシカル系の応援消費なども同じような部分があります。寄付や困っている人を応援することも、言いにくかったり、しにくかったりしましたが、インターネット上で見ると、同じ気持ちの人が多く、可能であることがわかりました。特にエシカル系では、実際に困っている人もインターネット上で情報を発信しますので、困っている人が見えるようになったことも後押ししました。
 もう一つの理由は、特にエシカル消費の流れで、環境問題を中心とした社会問題に対する意識の高まりが50年から60年という長期的なメガトレンドとして世の中にあると思います。これは海外が先行していましたが、日本でも2000年代頃から意識が徐々に高まりました。最近では新型コロナウイルス感染症の流行で困っている人が多くなり、社会問題が顕在化しましたので、エシカル系の応援消費は話題になり広まってきていると思います。

応援消費の特徴である利他的な消費は なぜ広がるのか 

───東京ガスでは『母の推し活』というCMを3月に出稿しました。このCMでは、突然、あるアーティストを好きになった母親が、友だちを増やす、語学の勉強を始めるなど、応援を通じて日々が生き生きとしていく様子や、それを応援する娘の関係を描きました。このCMは大きな反響をいただき、公式Twitterでの動画再生数は500万を超え(2023年3月20日時点)、多くの感想が寄せられました。「まさに自分のこと」「共感する」などの感想に加えて、「SNSを通じて友だちができた」「推しを通じて行動範囲が広がった」「生きる糧、源となった」などです。
 東京ガスとしてこのCMで訴求したかったことは、多様性が尊重される中で個人が尊重されること、つまり「自分らしさ」を大切にすることです。その例として、好きなコトやモノに対して、集中的に時間やお金を消費する「推し活」をする人たちを描いた次第です。
 こうした利他的な行動が広まっているのは、先ほどおっしゃっていたインターネットやデジタルの流れなのでしょうか。それとも価値観の変化でしょうか。

水越 難しい話ですが、実際は両方だと思います。価値観の変化が根底には流れていて、それに対し、デジタルという技術が促進要因になり、価値観の変化や考え方の変化を促したように思います。ここ10年ほどで我々の価値観も変わってきている気がします。10年前はアイドルを好きでそのために一生懸命に消費をしていると聞くと変な感じがしましたが、現在はそれを聞いても違和感がなく、そうなのかと思えるようになりました。そのような価値観の変化がベースとしてあると思います。

───以前から、推し活のようなことをしていた人、つまり、かつてはオタクと呼ばれたこともある人たちは「活動が軽くなった、消費が軽くなった気がする」という言い方をしていますが、いかがでしょうか

水越 「消費が軽くなる」とはいい表現です。イメージが湧きます。

───先生は消費が軽くなったという印象はありますか。

水越 アイドルなどの推し活のように、その意味での「軽さ」は出てきている感じがします。寄付やボランティアのような社会的な行動も、以前は仰々しさがあったような気がしますが、それらもよりカジュアルになっていて、気軽になっているような気がします。特に応援消費でモノを買い、相手のためにもなっていることは、確かに軽くなっているのかもしれません。

───ご著書の中で、応援消費の代表例として、ふるさと納税についての話がありました。ふるさと納税は消費者にとっては「応援」なのでしょうか。それとも「消費のメリット」が大きいものなのでしょうか。

水越 ふるさと納税については引き続き調査をしていますが、ふるさと納税は、モノを買う延長線上で、相手のためよりもモノがもらえるという自分のベネフィットが得られるために行動している人が多数のようです。ただ、インタビューしてみると、自分のためにもなるけれども、その県や市町村のためになったり、その地域の経済振興にもなったりするのでいいことだと思うと話す人は多いです。言い訳に近い理由づけなのか、実際にそのような気持ちもあるとも見るべきかは解釈が別れそうです。

───災害に遭われた地域へ経済的な支援をしようという流れは、今も大きく続いていますか。

水越 震災が起こった直後や何か事件が起こった直後は、そのような機運が高まる傾向はあります。今回の新型コロナウイルス感染症の流行でも、その瞬間は応援消費が話題になり寄付が多くありましたが、何年かたつと風化していき機運は下がっていきます。これは2011年の震災もそうでしたし、現状の応援消費の記事も減ってきているので波はあると思っています。
 一方で、本の中で「バイコット(buycott) 」と「ボイコット」について紹介しています。バイコットは買って応援することです。この数年、世界のバイコットをする人の数を毎年同じタイミングで把握していますが、実際に行動している人自体は一定数が維持されています。日本でも安定的な層がいるように考えています。

なぜ人は応援するのか

───基本的に日本経済があまり成長していない中で、なぜ、応援しようと思うのでしょうか。皆、お金があまりない中で、ある意味、余分な消費でもあります。その少し余分な消費に目が向くのはなぜかについて、お考えを聞かせてください。

水越 確かに自分のこととは関係ないので余分という側面があります。同時に、日本人に限らず現代社会の特長として、消費する理由を探しているのだと思います。消費者もそうですし、それに対応して企業も買ってもらう理由を探しています。これがマーケティングですが、お互いに探し続けているところがあり、その中で他人のためや困っている人のための消費は、我々が探している消費の理由の一つにフィットしたのかもしれません。 確かに、10年前の私たちはもっとそうだったと思うのですが、応援的な消費は無駄な消費的な感じがありました。しかし、次第にその感覚がなくなり、値段が安いことと同じ次元で、「他人のために消費」することが正当な消費理由の一つに組み込まれてきているのだと思います。海外ではその傾向がより強く、より普通の買う理由の一つになっていて、日本もそうなってきていると思います。

───消費のターゲットとして注目されるZ世代は、社会課題の解決に関心があるとされますが、実施にそのように感じていらっしゃいますか。

水越 世界的に見ても総じてZ世代は環境意識が高いようです。なぜ、そうなったかはわかりません。世代の雰囲気はその時代にあった特徴的なできごとに影響されます。たとえば、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんがフィーチャーされた頃に、環境問題に関心を持つことの重要性、行動することの重要性に感化されたのかもしれないと思います。
 特にエシカル系は長期的なメガトレンドの一つですので、5年や10年では波がありますが、20年から30年のスパンで見ると確実に広まっていくと考えられます。世界的な傾向としては、これは変わることはないでしょう。

───では、具体的にどのようなところから広がっていくと思われますか。

エシカル消費の行方

水越 現在、注目されているのは環境系と人権問題系です。日本ですと人権問題系はあまり議論されませんが、Z世代のソーシャル意識では、LGBTQ系への意識は高いといいます。そのような分野の商品づくりはこれからですが、日本では進むかもしれないと思っています。

───環境系はいかがでしょうか。

水越 いろいろ言われている課題の一つは、皆、「地球環境問題は大切」とするものの、そのような商品を買うかというとそうとは限りません。以前から環境にやさしい商品やサービスはありますが、お金を出してまで買おうという流れはなかなか拡大しないものの少しずつ上向きにはなっているようです。
 たとえば、世代によっても環境意識や環境商品・サービスの購入意向は変わります。特にエシカル消費については、その意識が年代ごとに逆Uの字になると以前から言われています。つまり、若い人と高齢の方はソーシャル意識が高く、真ん中は下がります。家族ができて育児をしなければいけない世代は金銭的に余裕がなく、自分たちのことで忙しいので、恐らく環境行動や社会的な行動を取る余裕がなくなるのだと思います。けれども、総じて全体の意識が上がってきているようです。これが今のトレンドです。

───確かに逆Uの字の行動は出ていて、東京ガスのシンクタンク(都市生活研究所)の結果を見ても、若い世代は意識があって行動しています。その行動は水筒を持つ、エコバッグを持つ、フードロスに対応などが現状は主となります。
 今後、環境系の応援消費について、マーケティングでできることはあるでしょうか。

応援消費とマーケティング

水越 環境については、意識の問題と実際の行動にギャップがあることが課題です。そのギャップをどのように埋めるかはいろいろな方法があると思います。その一つは、環境意識そのものをもっと高めて、つながらないところをつなげるようにしていくことです。環境意識そのものを高めるような活動や広告が必要です。
 もう一つは、マーケティング的な利用可能性の問題です。買わない人たちの中には「買いたいとは思っているが周りにあまり売っていない」という話があります。実際に買おうと思った瞬間に商品が手に取れたり、身近にあったり、またはどこなら環境系のものが入手できるのかがわかるように整えることが大事です。通常の消費財では販路を広げたり、店頭を環境系でそろえたりすることが大事なことと同じです。その両面を整備していくことが重要だと思います。

───推し活、エシカル消費、ふるさと納税など、応援消費は今後も拡大していくのでしょうか。一過性のブームではありませんか。

水越 私はブームではないと思っています。メガトレンドで、かつ、日本というよりも世界的な傾向だと思っています。

───世界的なトレンドにデジタルの深化が絡んで、自分もやってみようということになっていくということでしょうか。そうすると、例えば、マズローの欲求5段階説では自己実現の欲求がありますが、この欲求仮説との関係をどう考えますか。
 具体的にどのような自己を実現したのかを考えてみると、自己満足ともいえるのではと思います。

水越 もう少し他人志向な感じもします。マズローの話からいくと、マズローのイメージは個人の欲求や個人の生存の話をベースにした、ミクロな意志決定やミクロな行動の話を想定しているように思います。応援消費の流れはそのようなミクロな消費行動というよりは、マクロな消費現象、社会的なトレンドとしてあるので、個人がどのような欲求を持っているのか、個人のどこに結び付いているのかという話とは違う次元なのかもしれないと思います。もちろん、自己実現や社会承認欲求などとも関わっているはずです。まず、消費することが応援なのだという形で理解したり、捉えたりする流れが大きな流れとしてあり、人によってはそれを自己実現と結び付けたり、社会承認に結び付けたりするという感じです。

───応援消費の広がりが年代に関わらず定着していくことがわかりました、水越先生は現在、応援消費について、どのような研究をされておられますか。

応援消費の注目点

水越 私が続けているのは、一つは先ほどのふるさと納税についてです。仕組みとして面白いことと海外の方が興味を持ちやすいテーマで、どのようになっているのかと聞かれるので興味を持って調べています。現在、社会的な問題になってきているのは、ふるさと納税そのものや返礼品の是非というよりは、プラットフォーム側がポイントを付けるようになってきていることです。それがどのように規制されるのか、我々の行動に影響を及ぼすのかを調べようと思っています。
 もう一つは、もう少し抽象的な研究テーマで、マテリアリズムと応援消費の関係です。通常、応援消費や寄付は利他性の高い人のほうが積極的だと知られていますが、一方で逆の因子として知られているのは、マテリアリズム=物質主義です。いわゆる物欲です。従来、物欲がある人は寄付やボランティアをしないことがよく知られていましたが、応援消費は合体しているように見えます。この利他性と物欲が合体したときにどのようなことになるのか、応援消費や推し活系でも近いところが出るのではないかと思っています。最近、試しに調べたものでは、物欲が高い人は応援消費をするし、物欲が高い人のほうが寄付もよくする傾向が出ていて、なぜだろうと考えて、そこで止まっています。

───確かに物欲がある人は利他性がないと考えてしまいがちなので難しいですね。

水越 まだ解明されていないことが多くあるテーマでもあります。

───これからの先生の研究に期待します。本日はどうもありがとうございました。

(Interviewer 中塚 千恵 本誌編集委員)

水越 康介(みずこし こうすけ)
東京都立大学 経済経営学部 教授

兵庫県神戸市生まれ。2000年、神戸大学経営学部卒業。2005年、同大学院博士後期課程修了。博士(商学)。2005年、首都大学東京(現在の東京都立大学)都市教養学部経営学系研究員を経て現在に至る。専門はマーケティングで、デジタル・マーケティングやソーシャル・マーケティングを研究。日本マーケティング学会(マーケティングジャーナル副編集長)、商業学会(JSMDレビュー編集委員)。主な著書に、『ソーシャルメディア・マーケティング』(日経文庫、2018年)、『応援消費―社会を動かす力』 (岩波新書、2022年)、『マーケティングをつかむ 第3版』(共著、有斐閣、2023年)。