第36回
富裕層研究から、次の時代の
“新価値”を見い出せ

大坪檀のマーケティング見・聞・録

日本の総人口が減少、高齢化が進む中で増加している人口層がある。それはいわゆる富裕層と呼ばれる人口だ。富裕層は金融資産が1億円以上ある世帯、5億円以上金融資産のある層は超富裕層と呼ばれている。5,000万円クラスを準富裕層と呼んでいるようだ。

 世帯年収2,000万円以上の共稼ぎ夫婦をパ ワーカップルと呼ぶのだそうだ。
 野村総研はこの富裕層は約149万世帯(2021年、日本の総世帯数約5,191万)、超富裕層を9万世帯と推定、この層はずっと増加している。共産主義国なのになんと中国は富裕層が拡大中。インド、ベトナム、タイも同様。富裕層が一番多いのはアメリカだが、この日本はなんと2番目。富裕層が集中している都市のナンバーワンはニューヨークで、次いで東京が2番目に入るというレポートも。東京には富裕層に入る人が30万人近くいるようだ。東京圏全体では50万人近い人がこの富裕層に入るという人もいる。
 近年この数値に登場する富裕層とは別にアメリカでは世代交代で財産を相続し富裕層入りする新型の富裕層が出現しているという。日本にも同じ傾向が見られ、俗に隠れ富裕層、物言わぬ富裕層と呼ぶ人たちが増えているようだ。団塊の世代が2025年に後期高齢者層に入る。この団塊の世代に新型の富裕層が出現、蓄積した富の活用に注目する人もいる。
 これから人口減少、高齢化、グローバリゼーションが進展する中でこの富裕層に目を向けてみると、これからの産業活動、新文化、新価値創造に必要な新しい未来志向の視点、マーケティングの新しい切り口がいろいろと見えてくる。
 日本の戦後の経済活動はアメリカ人のような豊かな生活の実現をめざしたものだった。アメリカの一般社会が所有していたTVや冷蔵庫、電気洗濯機、真空掃除機、エアコン、自動車、マイホームの生活を日本人も享受できるよう豊かな社会の実現に努力した。スーパーマーケットやコンビニは日本人の生活向上に大きく貢献した。アメリカの豊かな社会は日本人の憧れだったのだ。そして今や日本にはいたるところにコンビニが存在、都市にはマンションと称する共同住宅街があちこちに出現、最近ではタワーマンションと呼ばれる高層、高級住宅が出現。アメリカのフリーウェイをベースにした高速自動車道路網ができ上がり、新幹線が大都市間を結び、空港が各地に存在し航空機の利用は身近な存在になった。医療システム発展のおかげで健康長寿社会も実現した。
 日本人がアメリカ社会を見て憧れとしていたものの多くをほとんどの人が手に入れてしまった。これから日本人が求める次の憧れは何だろうか。日本人が次の時代に手に入れたいものは何だろうか。
 その答えはもしかすると今出現している富裕層にあるかもしれない。不動産会社は富裕層向けの物件の開発、マーケティングに力を入れている。億ション生活者の生活を描くリポートも登場。ある企業の商品開発者が富裕層向けのレジャーボートを手掛けた際、富裕層の生活をしたことがなく手がかりがつかめないことに気付いた。中国の富裕層が注文してくるレジャーボートには1億円を超えるものが多いのに驚いたという。高級デパートには富裕層向け高額商品の売り上げ増で息を吹き返したとリポートするところも多い。1泊20万円のホテルが出現。富裕層の中には価格より質、デザイン、希少性を強調する人々もいる一方、シンプルライフを追求。アメリカ留学時代、大金持ちの弁護士がダットサンを運転して現れたのには驚いた。自宅に窯を構え陶芸に凝る人、切手収集で自宅はまるで切手博物館という人も。宇宙旅行を夢見る人もいる。“金持ちのけち”という言葉があるがお金の遣い方には厳しい。時間の無駄を嫌う傾向が強いという。自ら学ぶこと、子どもの教育には熱心。社会貢献意識も高い。富裕層は多額の所得税、住民税や固定資産税、消費税を支払う。富裕層が多く住む地域は潤う。地域の活性化に富裕層が増える政策も必要だ。街を作るのは住民という。
 日本の産業は高付加価値を中心とした産業に転換することが必要だが、その高付加価値産業が手掛ける高付加価値商品にはこれから何が求められるのか。増加している日本の富裕層の徹底した研究で次の時代の世界の憧れの商品、サービス、付加価値、生活文化を提供することができるのではないか。日本のマーケターがこれから新たにチャレンジする新分野が目の前に出現。新生活文化の創造に期待。

Text  大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 所長