『東京・丸の内発 ソーシャルコミュニティが社会を創る』

『東京・丸の内発 ソーシャルコミュニティが社会を創る』
エコッツェリア協会/田口真司 著 
第一プログレス

 タイトルのソーシャルに引き摺られ、自分には関係がないと素通りすると大損をするかもしれない。確かに、一見すると汎用的なビジネス書ではない。しかし、読み始めるとすぐに具体的かつ丁寧に描かれたバックステージのプロセスが、非常に汎用的な示唆に富んでいることに気が付くはずだ。
 仕事のチームもソーシャルコミュニティも、人と人が出会い、ともに過ごす時間と機会の中から価値や成果、あるいは種子や萌芽が生まれるものだが、そこにどれだけの知恵と経験、手間暇、そして何よりも気配りや気遣いを注げるか。チームやコミュニティは丹精込めて育ててこそ初めて意義をなすのだと、その凄味が伝わってくる。
 著者の田口氏は、2013年から丸の内でオープンイノベーションを指向したソーシャルコミュニティ「3×3Lab Future」の企画・運営に携わっている。丸の内で場所を再三移らざるを得ない事情に迫られながらも、その度ごとにその機会を逆手にとってコミュニティ育成に活かしてきた。
 常に事業視点を意識しながら時流や大局を冷静に読んでいく様子と、リアルにおける気が遠くなるほどの無数の要素を組み合わせてプロセスデザインを描き、セレンディピティ的仕掛けを仕込んでいく様子が、「3×3Lab Future」の前身時代から順を追って重なりながら描かれている。読者は山あり谷ありの道のりを追体験しているような気持ちになるだろう。そして、これこそが組織運営の要諦であると気付くに違いない。
 目の前の人たちと、これから参加して欲しいと思う人たちに、どれほどの思いを馳せられるか。既知未知一人ひとりを思い描きながら、時間と成果両面の集う価値をいかに継続的に創り出していけるか。凄味は熱さと冷静さに因るものだとわかるだろう。
 どの企業や組織においても新たな価値創出の必要性が叫ばれて久しいが、そこで必要となる大前提の答えがここにある。組織やコミュニティ運営のバイブルとして常に手元に置き、ページを繰りたい一冊だ。

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