Text 渡辺 洋子
NHK放送文化研究所 世論調査部
研究員
はじめに
本稿では、「中年」を40代、50代と定義し、国民生活時間調査の1990年代以降のデータを中心に、中年という時期がどのようなものなのか、ひも解いていきたい。
1. 40代、50代の生活時間の特徴
人びとの生活は、仕事や学校などといった拘束力の強い行動に大きく規定される。会社員や学生だけに限ったことではなく、その生活をマネジメントする主婦(主夫)の生活へも影響を及ぼす。そこで、まずは学業、仕事、家事の時間量が年齢によってどう異なるのかを概観する(図1)。
学業がメインの10代、学生から社会人へと移行する20代を経て、30~50代は、男性は仕事をメインに、女性は仕事にも家事にも忙しく過ごす時期であることがわかる。60代以降は男女とも仕事の比重が大きく減っていく。40代は、仕事も家庭生活もベテランとして中核を担う時期、50代は40代と同じような生活をしながらも、仕事を退いた後の生活も視野に入ってくるような時期だと言える。
2. 仕事の位置づけの変化と生活への影響
こうした40代50代の生活は、この30年ほどでどのような変化があったのだろうか。まずは男性で1日の大きな時間量を占める仕事から見ていく。
(1)男性
男性40代では、1995年以降、仕事時間が長くなる傾向にあり、2000~2015年は1日の仕事時間は9時間前後にまで至っている(図2)。特に2005年から2015年は、男性40代の有職者では10時間を超えて働く人が40%以上となり(表1)、この時期、長時間労働の問題が取りざたされていたが、男性40代は、30代とともにその渦中にいたことがわかる。
男性50代の仕事時間は、1995年には8時間をやや下回っていたが、2000年以降は8時間台が続いている。これには、平均寿命が長くなることに伴って働く期間が長くなり、人生のステージにおいて、50代の位置づけが変化したことが関係していると考えられる。
1980年代には、50歳台を定年とする企業が多かったが、1990年代になると、60 歳を定年とする企業の割合が急速に上昇した(1990 年60.1%、1995年78.6%、2000年91.6%)※1。さらに、年金支給開始年齢の引き上げもあり、60歳を過ぎても働く人が増え、2020年には60代前半の就業率は8割を超えた(男性60~64歳:2000年65.1%、2010年70.6%、2020年82.6%)※2。つまり、1990年代までの50代は、仕事人生の終盤もしくは既に退職した人もいるという第二の人生への移行期間だったが、2000年以降は、退職はしばらく先のこととして、まだまだ忙しく働く現役の期間になったのである。
ここで、男性40代に話を戻し、2015年から2020年にかけて大きく仕事時間が減少したことに注目したい。この間、働き方改革関連法の成立(2018年)、新型コロナウイルス感染症の感染拡大(2020年~)があり、新しい働き方への転換点となった。国民生活時間調査のデータからは、夜遅い時刻まで残業する人が少なくなったり(図3)、都市部での在宅勤務の広がりがみられたりした(図4)。このような状況は、家庭での男性の生活にも影響を及ぼしたが、その証左の1つとして家事時間の増加が挙げられる(図5)。
夫婦で家事を分担する意識は、すでに1990年代から多くの男性が共有していた※3が、なかなか実際の家事時間の増加にはつながらなかった。それが2020年の調査において、初めて男性40代の平日の家事時間が1時間を超えたのである。片付けものなどの「家庭雑事」(2015年8分 → 2020年17分)や「子どもの世話」(2015年11分 → 2020年18分)だけではなく、「炊事・掃除・洗濯」(2015年14分 → 2020年21分)という日常の基本的な家事の時間も増えており、少しずつとはいえ、家庭生活への関わり方に変化が感じられる。男性50代にはこのような変化はみられず、家事において、男性の40代と50代には違いがあることがわかる。
(2)女性
女性については、仕事と家事の関係を中心にみていきたい(図6)。
興味深いのは、40代も50代も、概ね仕事が増えれば家事が減り、仕事が減れば家事が増えるというように、仕事と家事が逆の動きになっていることである。女性40代では2000年から2015年にかけて、女性50代では1985年以降、仕事時間が増加傾向となり、どちらも2015年に初めて仕事時間が家事時間を有意に上回った。中年女性の就業率は増加し続けており※4、40代、50代の女性にとって、「仕事をする」ということも大きな位置を占めるようになってきていると考えられる。
そうした流れの中、2015年から2020年にかけて、女性40代で、仕事時間の増加傾向と家事時間の減少傾向が止まった。背景には、前述したように働き方改革やコロナ禍があると考えている。
家事時間の変化について、内容別に1995年以降の変化を確認してみると(図7)、「炊事・掃除・洗濯」は、2015年までは減少傾向が続き、2020年にかけて減少傾向が止まったことがわかる。一方、「子どもの世話」は、増加傾向が続く中、2020年にかけて更に大きく増加した。
「炊事・掃除・洗濯」は、家電の進化や調理済み食品の利用などにより、効率化される流れが続いてきた。一方で「子どもの世話」は、少子化にも関わらず増加傾向が続き、2015年から2020年にかけて一層大きく増加している。2015年から2020年にかけての変化は、コロナ禍で子どもを含めた家族が家にいる時間が増え、子どもの面倒をみる時間が増えたり、炊事や掃除、洗濯の効率化が進む中でも、それを上回って家事の総量が増えたためではないかと考えられる。
家事時間の変化からは、40代で、子どもに対してより時間をかけるようになっていることがみえてくる。時間をかけたいのか、かけざるを得ないのかはわからないが、いずれにせよ、生活の中で子どもの占める割合が高くなっていると言える。「炊事・掃除・洗濯」の減少傾向が止まったことについては、コロナ禍による一時的なものなのか、それとも効率化が行き渡った結果なのか、今後の調査が待たれる。
なお、女性50代には、40代のような変化はみられない。1つには、50代になると子どもの年齢が上がり、手のかかる幼児や小学生を持つ人がほとんどいなくなるため、そもそも子どもの世話の時間が短いことがある。また、家事に対する効率化の意識や、前述したようにパートナーとなる男性50代の家事時間が少ないままといったことなども関係しているのかもしれない。
3. 睡眠時間の変化からみる40代、50代の意識
続いて、1日の生活の大きな時間を占める睡眠についてみていきたい。睡眠時間の長期推移をみると(図8)、男女とも40代は2010年、50代は2015年を境に、長く続いた減少の流れが止まったことがわかる。
40代では、早く寝る人が増えたことで、睡眠時間が増加傾向に転じた。50代では、40代ほどはっきりとした傾向はみられなかったが、2015年から2020年にかけて、女性では夜更かしの人が増える流れが止まり、男性では夜更かし傾向は続くものの起きる時刻が遅い人が増え、睡眠時間の減少が止まった。
夜の自由時間は、テレビや録画番組を見たりインターネットをしたりといったメディア行動に費やされることが多い。長く続いた睡眠時間の減少は、主にこうしたメディア行動によって遅くまで起きている人が増えたことが原因だった。40代で早く寝る人が増えたことは、夜更かしをしてメディアを楽しむよりも、眠りを優先するような人が増えたことを表している。
また、入浴などの「身のまわりの用事」は、40代50代どちらも増加傾向にある(図9)。こういった行動の変化からも、体をケアすることに時間をかけるという意識の変化が感じられる。
4. メディア利用からみる40代、50代の位置づけ
メディア利用は年齢による違いが大きい。テレビとインターネットの時間量を年齢別にみると(図10)、40代50代のメディア利用が、30代以下とは異なることがわかる。10代20代はテレビよりインターネットの利用時間が長く、30代でテレビとインターネットが同じくらいとなる。一方、40代以上はテレビがインターネットを上回っている。メディア利用の面からみると、40代50代はそれ以上の年齢と同様、テレビの方がインターネットよりも利用が多い旧来型のメディア利用であると言える。
それでも、1995年以降の変化をみると(図11)、40代も50代も、テレビ、ラジオ、新聞といったマスメディアが減少し、録画やインターネットが増えていることがわかる。今後、若い世代が年をとって40代50代となる頃には、中年という年齢層でもマスメディアよりインターネットの利用のほうが多くなるだろう。
5. 今後の中年の姿
ここまでみてきた40代50代の生活の変化をまとめると、以下のようになる。
・長時間労働の流れからの転換、在宅勤務の広がり(40代)
・働く期間の長期化、働く女性の増加(50代)
・男性の家事時間の増加、女性の炊事・掃除・洗濯の減少と子どもの世話の増加(40代)
・早寝による睡眠時間の増加(40代)、身のまわりの用事の増加(40代、50代)
・マスメディア利用の減少、インターネット利用の増加(40代、50代)
平成から令和に至るおよそ30年間は、女性の社会進出、少子高齢化、働き方の多様化、デジタル化が進んだ時期であり、40代50代の生活もこうした社会の変化と共にあることがわかる。特に2020年のコロナ禍は、新たな働き方やデジタル化の流れを加速した。
そうした中、40代では、仕事メインの生活から、家庭やプライベートにも目を向け、新しい働き方や子育て、健康を重視したりする様子がみられた。一方で、メディア利用については、40代はまだ旧来のメディアが優位である最後の世代であると言える。
50代では、働くことの位置づけが変わってきたことが大きい。2020年時点の50代は、男女雇用機会均等法の成立期に社会人となった世代で、特に女性は、均等法第一世代として働く女性の道を切り開いてきた。そして今、高齢化の波を受け、男女とも60代以降も働き続ける時代となる中、50代は、中年以降の新しい働き方を作っていく最初の世代になると言える。
今後、デジタル化が進み、働き方や家庭の在り方もいっそう変化すると考えられる。これまでの流れを鑑みると、男女とも働く期間は長くなり、男性も女性も、仕事も家事も担うようになるだろう。また、平均寿命の延びや医療の進化により、仕事だけでなく余暇活動や社会活動に費やせる期間も長くなると考えられる。働き方や家庭の在り方は多様性を増し、40代50代という年齢で語ることも難しくなるが、あえてまとめると、40代という時期は家庭に仕事に忙しく、まだまだその後も長く続く中年の序章、50代は子育てにおいてはひと段落し、仕事など社会活動においては現役としていっそう活躍するという充実した中年の後半期を過ごし始める時期となるのではないか。長くなる人生をいかに充実して過ごすか、そのあり方を左右するのは、まさにこの40代50代の生活となるだろう。
《注釈》
※1 一律定年制を定める企業のうち、60歳定年の企業の割合(厚生労働省「雇用管理調査」)
※2 総務省統計局「労働力調査」
※3 「日本人の意識」調査(NHK放送文化研究所)によると、<甲:台所の手伝いや子どものおもりは、一家の主人である男子のすることではない><乙:夫婦は互いにたすけ合うべきものだから、夫が台所の手伝いや子どものおもりをするのは当然だ>において、乙に賛成と回答した人は、1998年で、男40-44歳87%、男45-49歳84%、男50-54歳79%、男55-59歳74%
※4 女性就業率の推移(「労働力調査」(下表)
(総務省統計局)より作成)
渡辺 洋子 (わたなべ ようこ)
NHK放送文化研究所 世論調査部 研究員
2001年NHKに入局。地域局での番組制作や国際放送局での海外調査も経験し、放送文化研究所では、主に生活者のメディア利用や意識調査に従事している。「国民生活時間調査」は2004年から担当。共著に『日本人の生活時間・2010』(NHK出版)、『図説 日本のメディア[新版]』(NHK出版)、『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』(日経BP)など。