竹久 真也
株式会社ヴァリューズ ソリューション局
マネジャー/マーケティングコンサルタント
INTERVIEW
ネット行動そのものは人に見せるものではない。仕事の場面を除けば、あくまでも自分だけが見るために調べたり検索したり、また閲覧したりする。つまり、それだけその人の興味関心がダイレクトに映し出されやすい媒体だ。その中において中年層の人たちはどのようにとらえられるのか。
意外にも20代、30代と変わりがないのか、あるいは実はシニア層に近い行動をとっているのか。情報カテゴリーにより様相が異なるのか。そうした実態について、消費者Web行動ログデータに基づいたマーケティング支援を手掛ける株式会社ヴァリューズの竹久さんにお話をうかがった。
数百万人程度のモニター全体のうち、時系列で比較できるモニターを対象とすると30万人ほどのモニターのこの7年間を今回は扱います。分析視点としては、「中年の終わり」に着目し、そうした中年期の終わりを代表するようなワードの検索状況から整理していきました。例えば「老後」「介護」「年金」「認知症」などです。今回は身体的な悩みは外し、中年期の終わりに意識しやすいお金の問題でデータを見ていきました。
まずは全体で見ていきます。20歳から59歳までのデータを見ると、「年金」というワードを調べた人は2014年から2022年で1.5倍ぐらいに伸びています。
ちょっと目立つワードをピックアップして検索者数をプロットしたのが図1のグラフです。「介護」は波がありつつ同じくらいの水準で推移しています。「退職」というワードは、2014年を1とすると斜め上方向への波形になっていて、増加傾向がわかります。若い人も含んでいるので、全体として意識されているワードだといえます。
最も顕著なのが「年金」で、もとは200万人ぐらいだったのが2021年には346万人、約1.5倍まで検索している人が増えています。
また、ボリュームはそれほど大きくありませんが、顕著なものが「老後」です。およそ18万人が32万人程度へと、約2倍に増えています。
自分が仕事を辞めた後、あるいは働かなくなった後のお金について考える行為としてとらえると、2019年ぐらいに老後に必要な蓄えとして、2,000万円問題というのが話題になりました。自分がリタイアした後のお金を考え、それだけの蓄えが自分にはあるのか、年金はちゃんともらえるのだろうか、そうしたことがむしろ早期から意識されてきたことを示すデータではないかと思っています。
中年期を自覚しないままに過ごし、ある日突然シニアになりつつある自分に直面する、というよりも、逆にわりと人生の早い段階から自分の老年期といいますか、働かなくなった後のことを意識する人が増えているのではないか、ということがこのデータから見てとれると思います。
40歳から59歳に対象を絞っても、同様のことがうかがえます。例えば「退職」というワードも右肩上がりに推移しています。「年金」や「老後」もじわじわと増えていることが確認できます。老後とお金は切り離して考えられない様子がうかがえます。
ワードの掛け合わせも見てみましょう。
2019年ぐらいから「老後」との掛け合わせで上位にあがってきているのが「生活費」です(図2)。「老後 生活費」を検索する人がここ数年、毎年約1万人ずつのペースで増えていることが確認できます。
検索ですので、ニュースやはやり廃りの影響はもちろんありますが、大枠として見たときに「中年の長期化」というか、早い段階から自分が働かなくなった後のこととか、少なくとも積極的な稼得能力がなくなった状態のことを考える人が増えているという意味で、「長い中年」みたいなことが結構始まっているのではないか、というのがこうしたデータから見えてきていると考えます。
これを「中年の長期化」というか、もしかすると「中年の早期化」とも言えるかもしれません。
ある日突然中年からシニアを自覚するというより、老後の経済不安を若いうちから心配していくというキーワード傾向から、かつては40代以上の人たちに顕著だった意識が、既に若いうちから見られるようになってきたと言えるのではないかと思います。
コロナの影響で、先行き不安がいっそう加速したことも関係していると考えられますが、今後も根強く続いていくのではないでしょうか。
(Interviewer ツノダ フミコ 本誌編集委員長)
竹久 真也(たけひさ しんや)
株式会社ヴァリューズ ソリューション局 マネジャー/マーケティングコンサルタント
東京大学を卒業後、2014年にヴァリューズに入社。日用品メーカー、求人メディア、マンションデベロッパー、自動車メディアをはじめ、多様な業界についてのマーケティングリサーチを経験。課題の発見、調査案の策定、分析の実施から施策の改善提案まで幅広いコンサルティング業務を担いつつ、社内の技術向上の取り組みにも携わる。