INTERVIEW


先送りされていく中年意識

北村 安樹子
株式会社第一生命経済研究所
ライフデザイン研究部 主任研究員

INTERVIEW

 ライフステージ変化の真ん中に位置することが多い40代50代。人生における折り返しの年代でもある。今回お話をうかがった第一生命経済研究所の北村さんは、社会変化やライフステージの変化における家族や人々の実態や意識についてきめ細かい視点で研究をされており、人々の幸福感についてもいくつかレポートを執筆している。
 一般的に年齢の上昇とともに幸福度は上がると言われているが、時間的にも経済的にももっとも縛りや負荷がかかりがちな40代50代における幸福、そして当事者たちの中年期意識について、北村さんはどのように見ているのだろうか。

 そもそも中年層に限らず幸福感は非常に複合的な概念です。その測り方も「幸福ですか」と一つの質問で回答者に委ねて測る方法と、家族・健康・経済・住宅等の総合的な状況や満足度から指標としていく方法とあるわけですが、今回はシンプルに「幸福ですか」という質問から見える景色についてお話ししたいと思います。
高齢期に幸福度が上がる点はその通りなのですが、領域によっては中高年期に一度下がる傾向があり、特にメンタル的な部分で顕著です。過去を振り返ったときに若いときのほうが良く見えることが要因の一つと言えます。もちろん中年期には体とか、家族、お金などの面でさまざまな問題が起こりがちだからとも言えます。
 しかし、今は時代も変わり、以前のようにみんなが同じような時期に同じような影響を受けるような社会ではなくなりました。特にシングルの方に関しては、そうではない方に比べると、ライフイベントのインパクトとしては少ないわけです。自分の親や健康のことについては共通しますが、夫や妻のことで悩むことはなく、自分の生活を一人で維持する厳しさを引き受けて、あとは他の人や社会のために時間やスキルを生かす、それを自由とする見方もあるでしょう。
 そもそも中年期というのは、とても定義付けが難しい時期で、分野や辞書によってレンジはまちまちです。しかし、共通しているのは若いときと老年期の間である、と。そういう捉え方をすると、現在、その若いほうが大人になる時期がとても遅くなってきています。成年年齢の引下げなど、法的な年齢としては早く大人になっているのですが、意識やライフステージの移行の時期は遅くなっています。

 さらにもう一方の高齢期、老年期のほうは、中年期以上に当事者意識がありません。特に元気に活動できる人には、見事なほど感じられません。60代以上の人が、どれぐらい自分のことを高齢者だと思っているか、という調査結果(図1)を見てもまったく思ってない。そこから考えますと、もし中高年という言葉にネガティブな印象ないしはエイジズム的な反発などがあるとすれば、若い人たちが大人になる時期が遅くなり、高齢期が後ろにずれているので、当然、その間に位置する中年期も非常に後ろにずれている、と言えます。高齢者の呼称自体もシルバーですと受容されにくいですし、シニアでなんとか落ち着く感じでしょうか。中年層の終わりのあたりで、ようやくプレシニア、となるのでしょうが、シニアと付く時点でプレがついても受容されません。
 若い層と高齢層のまさに間なので中年層をミドルとする呼称はその通りなのですが、やはりピンとこないでしょう。そうした中、アラフォーとかアラフィフという括り方や呼称は言いやすいということと、年齢を表していながらもざっくりと10歳単位であり、しかし、年代を跨ぐことにより下の年代も含んでいることから、ちょっと自虐的に言いつつも露骨さが和らぐ、という点で受け容れられているように思えます。ストレートに年齢を自認したくない傾向が以前より強くなっているのではないでしょうか。
 呼称についての事象がもう一つあります。甥や姪などの兄弟姉妹や親戚の子どもとどのような関係を築いていくか、という点で、先々年をとった後もそれを感じさせない呼び方を初めから考えていく、と。名前やニックネームになるわけですが、それによりおじちゃんがおじいちゃんになったり、あるいはおばちゃんがおばあちゃんになったりすることがないわけです。そういうことについて、よく考えられている方もいるようです。

 男女の視点で見ますと、これからの中年層はかつてよりも性差が小さくなっていくでしょう。中年期になると、自分の親の健康や介護・見守りの問題に直面する人も多いと思いますが、男性にも介護にかかわる人が増えているように、かつては圧倒的に女性だけのステージ移行の問題が男性にも関係するようになってきました。これはシングルであるか否か、子どもがいるか否かは関係ないわけです。
 職場経験を持つ女性の増加とともに、こうした体験を持つ男性が増えていくことは、社会としてはよりニュートラルな状態に近付いていくのでは、と思います。
 若い層に目を転じたときに感じますのは、現在の40代50代以上に、自分たちのことを主体的に考えている人たちが増えていることです。下の年代の人たちは常に上を見ています。今の40代50代には氷河期世代も含まれますので、厳しい経験をされた方も含まれますが、若い人たちはある意味、よりシビアに見ています。40代50代が上の世代に対して逃げ切り世代と思っているのと同様に、若い人たちは40代50代に対して思っているのではないでしょうか。
 自己責任という意味ではなく、どれだけ主体的に生きられるか。これは年代に関わらず幸福感や生活満足度に繋がる大きな姿勢だと思います。
(Interviewer ツノダ フミコ 本誌編集委員長)

北村 安樹子(きたむら あきこ)
株式会社第一生命経済研究所
ライフデザイン研究部 主任研究員

ライフコースの変化や生活者意識に関する各種調査研究に従事。関心領域は「晩婚・晩産・シングル化」「祖父母・孫関係」「世代間関係・世代間ギャップ」など。主な著書等に『「幸せ」視点のライフデザイン~2万人アンケートが描く生き方・暮らし方の羅針盤~』(東洋経済新報社、2021年、共著)、「MONEY PLUS ミドル世代の気になるデータ」 (マネーフォワード、2018年11月~2020年7月)など。