INTERVIEW
川場 充 氏
岡山市難聴者協会 会長
妹尾 克己 氏
岡山市難聴者協会 事務局長
2022年10月にすべての放送枠で「字幕付きCM」の受け入れが開始されました。字幕付きCMは聴覚障がいや難聴を抱える人の情報保障、マーケティング施策として価値の高い取り組みです。
多くの聴覚障がい者の方々からのCMの内容を理解したいという声をきっかけにして、テレビCMに字幕を付ける取り組みが始まっています。
日本には、耳の不自由な方たちが難聴者を含めておよそ2,000万人いるといわれています。つまり、人口の約15%が、テレビ放送の音声情報を得にくい状況にあるのです。
そこで今回は、実際に字幕付きCMをご覧になって実際にどう感じているか、当事者の立場から字幕付きCMを理解する活動などを行っている岡山市難聴者協会のお二人に直接お声を伺う機会を得ましたので紹介します。
字幕付きCMへの率直な感想
───今回取材をさせていただきますホライズン誌10号の趣旨は、「ウェルビーイングに包まれて」としています。今の世の中、いろいろなことがありますが、やはり誰一人として取り残さない、みんなまったく平等に、公平にいろいろな情報が伝わるような社会が望ましいと思い特集を組むことと致しました。
そうした中で字幕付きCMというものが少しずつ広がってきました。字幕付きCMとは、音声を文字化し画面に表示したCMです。音声を文字によって認識できるため、聴覚に障がいのある方々へ情報をお伝えするために有効な手段の一つであり、民放をはじめ、広告業界が普及に向けた取り組みを進めているところです。今回はぜひこの字幕付きCMについて皆さま方のご意見、また、これからどうあってほしいかといったご要望等ありましたら、お聞かせ願えればと思います。
まず、字幕付きCMを普段ご覧になっていて、どのように感じておられますでしょうか。
川場 大変うれしく思っております。実施する企業も増えているようですが、このような取り組みが今後もっと増えたらいいなと思っています。
───字幕付きCMというものが少しずつ増えたことによりまして、何か皆さま方に大きな変化、お役立ちすることが増えましたでしょうか。
川場 今までは、例えば画面の中でにこにこ笑いながら言っている内容がよくわからなくて悔しい思いをしておりましたが、字幕付きCMが放送されるようになってから内容がよくわかるようになりました。
───ありがとうございます。内容がわかることによって何か大きな心境の変化や行動の変化等ございましたでしょうか。
字幕付きCMはもっと増えてほしい
川場 まずは、この字幕付きのコマーシャルがもっと増えればいいなと思っております。私たちが把握しているところでは大体60社ほどですけれども、全体から言うと数%かというくらいの数だろうと思います。もっともっと増えていけばいいなと思っております。
妹尾 難聴者はおそらくコマーシャルの時間になったら見ても内容がわからないのでトイレタイムになったり、チャンネルを切り替えたりしてきたんじゃないかと思います。
それで、字幕が付けば商品の内容についても興味を持てるようになって大変助かるのではないかと思います。
───皆さんから見て、これはいいと思ったCMはどんなCMでしたか?そのCMのどこが良かったかというところを教えていただけるとうれしいです。
川場 最近は車のメーカーさんのCMに字幕が付くようになりました。これは買い換えてもいいかなと思ったりもします。そういったきっかけになると思っております。
また、早くから字幕を付けていただいているトイレタリー・メーカーさんもおられて、僕からすると感謝、感謝です。
───字幕付きCMの普及について感じられることはございますか。
川場 字幕の少々の間違いは笑って済ますことが大切です。一から十まで文字の変換を間違いなくするというのは、まず難しい。ですから、例えばリアルに字幕を出す場合は、あらかじめ間違いが出ることもあるがご了承くださいとか、そういった形で字幕を出していただければと思います。
───貴重なご意見、ありがとうございます。
この字幕付きCMによってご家族をはじめ、さまざまな方とのいろんな話題づくり、またさまざまな、言葉は適切ではないかもしれませんが、ほんのちょっとした心の喜びが増えたとかいうことはございますでしょうか。
妹尾 コマーシャルに字幕が付いていなかった頃は、そういう番組自体をあまり見ないで過ごしていましたので、なかなか家族の間でコマーシャルについて話をするということもほとんどありませんでした。
───ありがとうございます。字幕付きCMを実施している企業に対して、先日は岡山市難聴者協会さんに新聞広告を出していただきましたが、字幕付きCMをやってくれてありがとうという声を日常的にお届けすることはあるんでしょうか。
川場 まず、コマーシャルに字幕が付くということはどういうことなのか、難聴者自身はあまり理解しておりません。どういうことかというと、「あ、字幕が付いているな」と思うだけです。そこから先へ進む、もっと字幕を付けてほしいという願いを持つことがないんでしょうね。
だから、我々自身も難聴者のみんなに字幕を付けてもらったらどうだろうかという話をもっと持ちかけていかねばならないなと思っております。
───そういった声を直接広告主に届けていただくのが実は一番の後押しとなりますので、ぜひお声の一つでも構いませんので、届けていただけるとありがたいです。
川場 今年度も感謝の言葉を述べた新聞広告を出すつもりでおります。
───本当にいろいろと貴重な話をありがとうございました。最近、NHKのニュースを見ると、字幕があって、手話があって、口頭があるというところで、どういった立場、どういった人にもわかりやすいような伝え方などもあります。
意外だったのは、文字CMになることで車のCMがおもしろい、買換えをしたくなると。読んでわかる文字のCMと整合性がいいのは保険や薬など、ある程度説明が必要なCMというふうに思い込みがあったので、逆に目で見て、さらに文字を追って楽しめる、そういったCMの作り方というのもあるんだなというところで勉強させていただきました。
確かに伝え方は1つに偏ってはいけないので、いろいろな方法があっていいと思いますし、今後、そのように時代の流れからいろいろ変わってくるのかなと思います。少しでも字幕付きコマーシャルが増えていくように、私どもも世の中に訴えていきたいと思っております。ありがとうございました。
(Interviewer:中島 聡 本誌編集委員)