INTERVIEW
by 吉田 菜々絵 氏
株式会社明治
グローバルニュートリション事業本部
乳幼児・フェムニケアマーケティング部 幼児・フェムニケアグループ
───明治さんでは、このたび女性の健康を食で応援する「α-LunA(アルファルナ)」という商品を発売されました。まず、この商品についてお聞かせ願えますか。
吉田 弊社は、変化する女性のライフスタイルに着目し、女性のカラダを手軽においしく応援したいという思いから、新ブランド「明治 フェムニケアフード」を立ち上げました。2022年の10月より日々の食習慣に取り入れることで女性に寄り添う 「α-LunA(アルファルナ)」を発売いたしました。
当シリーズには、生乳に含まれるたんぱく質の一つである「α-ラクトアルブミン(α-LA)」を配合しています。また、複数の食品形態でご用意したのは、毎日召し上がっていただきたいと思い、さまざまなシーンに合わせて使えるようにと考えたからです。たとえば、パウダーはノンフレーバーなので普段召し上がっている食事やコーヒー、ヨーグルト、牛乳などに混ぜていただけます。
顆粒はスティック状でバッグに入れるなど持ち運びしやすい形態になっています。また、カフェインは控えたいがコーヒーは飲みたい、甘いものを気軽に食べたいといったニーズに応えたカフェインレスの飲料やチョコレートもご用意しました。
───これは生理前に限定したものじゃなく、毎日ずっと摂っていっていいんですか。
吉田 はい。日々の生活に交えて召し上がっていただければと思っています。α-LunAは生乳由来のタンパク質「α-ラクトアルブミン」やビタミンB群などを配合しており、毎日おいしく手軽に続けられる商品を目指しています。
上左より、「α -LunA パウダー」(94g)、「α -LunA 顆粒 レモンミント風味」(4.7g × 20 本)、「α -LunA ミルクチョコレート」(42g)
下左より、「α -LunA ドリンク カフェオレ風味・ミルクティー風味」(各125ml)
開発のヒントは身近にあった
───この商品の開発に至った経緯を語っていただけますか。
吉田 私は入社から4年間、営業をやり、そこからマーケティング部に所属し、女性向けの美容食品アミノコラーゲンを担当していました。そこで新商品を検討していたのですが、女性のニーズ調査をすると、冷えや肩こりといった顕在化されたニーズが上位に上がりました。既に商品化されており、レッドオーシャンだなと思い、正直、かなり煮詰まってしまっていました。
そんなとき、同僚女性とカフェに行き、生理ってすごく大変なんだよねという話をしたら、彼女もポツリと、私もですと言ったんです。私は、はっとしまして、大変だなと思っているのは私だけじゃないんだと。皆さんそれぞれ思っていることがあるけれど、言わない、自分の中に秘めてしまっているのではと思い、さっそく調査を始めました。そして、6割以上の女性が悩んでいるにもかかわらず、何も対処していないという日本の現状があるのを知り、これはすごい社会問題なんじゃないかと思いました。生理が来ることは自然なことで仕方ないと見逃していたんですね。身近にあった社会課題だなと感じて、この領域を取り組んでみたいと思ったんです。
しかし、そのような問題意識を社内で説明した際に、女性陣はとても共感して応援してくださったのですが、男性陣の賛同がなかなか得られませんでした。男性が自分ごと化することは難しいだろうとは思っていましたが、最初にぶち当たった壁だったんです。生理の大変さを説明しても、「そんなニッチな市場をやるの?」というふうに言われてしまいました。では、どうしたら社会問題だと思っていただけるだろうと考えた結果、女性の生理や更年期など女性特有の健康課題の経済損失がどのくらい生じているのかを説明するのが良いのではないかと考えました。プレゼンティーズム(心身の不調を抱えながら業務を行っている状態)や欠勤による損失、生理などの対処による出費などで1兆円くらいあるんですというお話をさせていただきました。
そうすると、男性陣にも「これは社会問題だな」という認識が広まり、取り組みがスムーズに進むようになりました。女性特有の健康課題を社会問題として捉え、女性だけの問題ではなく社会全体で捉え、対応していかなくてはいけないということを理解していただけました。次に、弊社の役員を含め社員全員に、生理についての勉強会を実施しました。これによって、最初は何で男性がこんな勉強を?といった反応も、次第に、娘が将来大人になったときに生きやすいように自分が文化をつくっていきたいといった意識を持っていただける社員が増えてきました。少しずつ環境は変わっていくんだなと思いました。
女性のウェルビーイングとは
───生理を取り巻く環境も変化してきたということですね。
吉田 はい。この背景には、1985年に男女雇用機会均等法が成立し、少しずつ女性の有職率が高まってきたことが関係していると思います。働き続ける方が多くなったというのが現代の女性の変化だと思っています。それに伴い、生理の状況も変わってきています。
まず、非婚化や晩婚化、高齢出産も増えてきています。女性の一生での生理の回数は、昔は50回くらいでした。平均の出産数が4〜5回くらいと多く、生理が止まる期間も多かったわけです。一方、直近の現代女性は、出産数が1〜2人もしくは産まない選択肢もあり、生理回数は450回、昔より9倍以上に増えていると試算されています。生理が多数回起こることで体に負荷がかかっていきますので、女性の体はかなり大きく変化してきているといえます。
これは本当に社会課題として捉えていかないと、女性のウェルビーイングが軽視されてしまいます。社会全体で取り組む必要があるのではないかと考えています。
啓発のための連携を強化
───普及という面ではどのような取り組みをされていますか。
吉田 今、特に挑戦しようとしているのは若年層です。10代を含め、学生の方たちに対して生理の授業をプログラムとしてつくろうと考えています。これは女性だけでなく男女を含めた授業という形でやっていきたいと考えています。
今の学生は、男の子でもスマホで調べられるので、生理に対する知識を何となく持っているんです。ただ、それが正しい情報なのかを判断できないところがあると思いますので、大人がしっかりと介入して伝えていきたいと思っています。
同時に、当社は食育もやっていますので、食べることが生理や体づくりにも必要だということも普及していきたいと思っています。特に10代は“痩せ”ということがすごく問題になっており、若年層の痩せが将来、不妊や低体重出産につながってしまうリスクがあります。将来のことを考えるとしっかりご飯を食べたほうがいいですし、痩せによる生理が来ないのは異常なことなんだということを啓発していきたいと考えています。
───体全体を捉えた生理の啓発を通じて、世の中まで変えていこうという考えなんですね。これから先、さまざまな教育機関やコミュニティ、企業との連携などのお考えはありますか。
吉田 今取り組み始めているのが、健康経営の中の女性の健康課題を課題視している企業様に対して、生理のセミナーを実施しております。また、弊社と繊維会社のシキボウ様、日本女子大学様とで、共同でセミナーやワークショップの取り組みを行っています。
この取り組みのアウトプットの場として、今年10月に開催される「Femtech Tokyo」という展示会で合同ブースを出展いたします。
実際に体感・体験していただいた方々の声や実際のお客様の声を反映していかないといけないなとすごく感じていますので、このような取り組みを強化していきたいと思っています。
───ドラッグストアなどのリテーラーとの協業もありますか。
吉田 流通部分での連携が一番課題でもありますし、取り組まなくてはいけないことだなと思っています。弊社はメーカーですので物をつくるまではできるんですが、お客さまに届けるためには店舗に置いていただけないといけないわけです。
幸い直近では、さまざまな展示会でフェムケアゾーンが組まれていて、さまざまなメーカー企業が進出してきていますので、流通の方々のご理解も進んできているのではないかと思います。今後は、商品単体を売りたいという考え方ではなくて、フェムテックやフェムケアという新しいカテゴリーを一緒に創出していく必要があると考えています。
フェムケアはSDGsそのもの
───人は皆平等に生まれてきているけれども、現実には不公平感がどうしても出てきてしまう。それを埋めるためにいろいろな取り組みをやっているわけです。お話を伺っていて、まさにフェムケアはSDGsそのものじゃないかと思います。
吉田 私もすごくそう思います。SDGsの目標で言うと、ジェンダー平等という点はもちろんですが、「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」といった目標にも該当すると考えています。そのような点でフェムテックやフェムケアはSDGsにすごく親和性が高い領域ではないかと思います。
女性の一生を支える事業へ
───今後の取り組みの方向性などを教えてください。
吉田 生理への対応や食で妊婦や赤ちゃんの栄養補給、さらには、更年期の問題にも取り組んでいきたいと考えています。女性の一生を支えられる事業という目標を掲げて計画を組んでいます。
これからの日本では、女性活躍推進が求められている中で、フェムケアは、しっかりと取り組んでいかなくてはいけないカテゴリーだと思っています。女性だけが頑張るのではなく、社会全体で理解を深めて一緒に取り組んでいくことが必要です。それが最終的に女性の豊かな生活につながってくれるといいなという思いで日々取り組んでおります。
───本当の意味で寛容な考え方、ダイバーシティ、多様性をもう一度考え直す時期なのかもしれませんね。本日はありがとうございました。
(Interviewer:中島 聡 本誌編集委員)