《出席者:各学年順、敬称略》
◆片平秀貴(本誌前編集委員長、丸の内ブランドフォーラム)ゼミ
岩永 淳志(東京大学大学院農学研究科1年)
栗林 志樹(東京大学経済学部4年)
上野 万里(東京大学経済学部3年)
◆見山謙一郎(本誌編集委員、専修大学経営学部)ゼミ
岡田 有莉夏(専修大学経営学部4年)
山本 歩(専修大学経営学部4年)
山本 美也(専修大学経営学部3年)
学生が、どんな未来をイメージして、どんな一歩(Step)を踏みだしているのか、もしくは踏み出そうとしているのか?丸の内ブランドフォーラムの片平ゼミに所属する東京大学の学生と、専修大学経営学部の見山ゼミの学生に、語り合ってもらった。
学生の、「今」という時代の捉え方
見山 今の時代って、どんな感じに捉えていますか。
岩永 いろんなことが変わっていっていると、すごく感じます。今までの常識が通用しなくなっていて、「先輩の言うことを聞いているだけでは、うまくいかないんじゃないか」という強迫感があり、今までどおりの大学生活を送っていていいんだろうか、ということは、すごく思います。コロナ禍が追い打ちになり、今までと違う世の中を生きていかなければ、という感覚はすごく強いです。
岡田 確かに、いろいろ変わってはいますが、人間の本質的な部分は変わらないな、とも思います。私は小学生の妹がいますが、1人1台パソコンが配られ、授業も全然違うのに、私のときと全く同じいじめが起きているのを見ると、人間の本質的なところは変わらないんだな、と思います。これは、悪い側面ですが、なかなか変えられないものがあるんだな、と感じています。
栗林 私たち若者にとって生きづらい方向に進む変化も感じますが、一方で柔軟な生き方が許されるようになっていて、生きやすい部分が出てきているのかなと思っています。先行きが不透明で、就活ひとつをとっても、自分がどういう職業に就いたら将来的にいいのかが見通せず、これは生きづらい部分ですが、僕が休学して体験した地方での生き方を周りに話したときに、ポジティブに取られることが多くて、そういう部分では生きやすいのかなと思っています。
山本歩 いろんなことがすごく変化する中、それに対応するだけでも大変な時代になっていると感じます。特に、情報がすごい勢いで入ってくるので、何が正しくて何が間違っているのか、それを見極める力が、すごい重要なんだなと日々感じています。iPhoneの機能もいっぱいあり過ぎて全然使いこなせていません。
上野 私たちの親世代からしたら、今の時代は自分たちが若かった頃よりも変化が大きくて大変な時代と感じるだろうし、私自身も確かに大変な時代だとは思います。でも、自分の人生を決めるのは自分で、自分が行動するしかないということは、昔も今も、いつの時代も変わらないと思っています。
山本美也 当たり前の話ですが、自分が生きている時代しか知らないので、今の時代がどう言われてもあまり実感がないです。変化が多いとか、先行きが不透明と言われても、今の時代、それが当たり前なので、今の時代を特別どう、というふうに捉えたことはないですね。
学生の未来感
見山 いつの時代でも、今を生きている若者にとってはどういう環境であれ、適応していくしかないんですよね。別の時代の比較などは、今の若者にとっては重要でなく、今の時代を必然として捉えて生きるしかないということなんですね。
自分の未来に対しては、どのくらい先まで、どんなイメージを持っていますか。
岩永 自分の未来について、以前はいわゆるバックキャスト的な、50歳ぐらいになったとき、豊かに過ごせればいい、みたいな感じで思っていました。だけど、大企業に入れば50年後に豊かな生活を送れているかどうかが自分の中で自信がなくなってきて、50歳のときに豊かになるために20代に退屈な人生を生きたくないと考えたら、正解がわからなくなってきました。今の僕の感覚だと、長くて2~3日後ぐらいのこと、目の前のことしか考えないようにしよう、と思っています。結果、短絡的になってもまあいいやみたいな、そのぐらいの感覚ではいます。
栗林 兵庫県明石市出身で、老後はそこで暮らしたいな、という漠然とした未来感はありますが、そこから明確に今の自分の行動までをブレイクダウンできてはいません。実際、就活などを考えるときも、このまま漠然と何も考えずに流されるのはよくない、ということには気づいていますが、だからといって、今、漠然と何もしない時間を過ごすのもよくない、という感覚もあります。実際の自分の行動まで落とすと、たぶん1週間、2週間とかのレベルでしか、未来を見ていません。
山本歩 すごく変化の激しい世の中なので、未来感と言われも、すぐにどうとは言えません。だったら1週間くらい先のやりたいことを、バックキャストで考えるほうが自分には合っていると思います。私は何かしてないと不安なので、いろんなことを取りあえずやってみる、というのが一番かなと思っています。
上野 私は昔から、人生のどこかでファッションブランドに関わりたいというのが頭の片隅にありました。そのために、自分の可能性を広げる選択肢を模索する中、少し前までは、コンサルを考えていました。コンサルなら、ファッションにも関わることができるかもしれないし。でも、夏にコンサルのジョブに参加した後に、「選択肢を広げる選択肢」を選んだ私は後悔しないのかと考えました。人生、いつ終わるかわからない中で、ファッションに関わることができずに死んだら、多分すごく後悔すると思いました。だから、今は「選択肢を広げる」ではなく、どんどん「選択肢を狭めていく」必要があると考えています。
見山 先のことを考え、力を蓄え、温存するよりも、今、この瞬間にやりたいことに全力投球したい、という価値観ですね。
岡田 私は中学生のときに、大学で経営学を学ぼうということを決めて、今まで7~8年ぐらい、ずっとバックキャストで動いてきました。それに対して全く後悔はなく、経営学を学ぶという目標も達成しましたが、それまでに犠牲にしてきたものが多いのと、バイアスがかかって経営学以外のものが見えなくなり、好きになれなくなっちゃうんですよね。そんな感じで、バックキャストのいい部分と悪い部分の両側面を知ったので、次は、今、この瞬間の自分の気持ちに正直になって、やりたいことをやりたいです。今までとは別のやり方を試してみよう、そんな感覚です。
山本美也 私は、先のことを考えるのは得意じゃなくて、1年先のことを考えても自分がどこで何をしたいと思っているかなんて絶対わからないです。本当に1日ベースで全然方向性が変わることもあるので。結構、今しか考えてないタイプかなと思っています。
学生生活について
見山 学生にとっては、未来よりも、今、この瞬間が大切だ、ということなんですね。皆さんにとって、現在進行形の大学生活って、どんな時間ですか。
栗林 圧倒的に時間的余裕があって、何かやりたいと思ったときに、自分の時間を使って、自分の責任の下でやることができる期間だと思っています。そこで、昨年の後期に半年間休学したのですが、その理由は、コロナ禍で就活を始めて、このまま大学生活を満喫せずに終わってしまうのがもったいないな、というのが正直な理由でした。秋田で底引き網の体験をしたり住み込みで働いて、視野が広がり、第2のふるさとができたのは自分としてはよかったと思っています。
岩永 僕は、学部は経済学部で、大学院は農学部に変えたのですが、あなたは何者ですか、何がしたいんですか、という、どういう観点で物事を考えているかが求められていることに気づきました。論文を書くのも立派な研究ですが、僕にとっての大学、大学院の日々は、とにかくいろんなことができる期間なので、人としての振れ幅の大きさが凄く試されていると思います。人としての器のでかさみたいなものが如実に出る期間だと思います。
岡田 私にとって大学生活は、本当に夢で、中学生のときに経営学を知り、こんなおもしろい学問があるなら学んでみようと思って、そのときから資金計画を立てて高校1年生からバイトをして、学費をためて、今こうやって大学に在籍できています。でも、コロナ禍とかもあって、思い描いていた大学生活とは全く違っています。結局、どんなに準備をしても、予期せぬこと、自分ではどうしようもないことが絶対に起きることを知りました。今は、夢をかなえることが大切ではなく、自分が抗えないような大きな変化が起きたとき、どう適応していくかが大切だと感じています。
上野 私は、大学生は到達点や結果、帰結がわからないまま挑戦しても許される期間だと思っています。1年時はコロナ禍で何も出来なかったですが、2年になって、ファッションプレスのインターンや、何に繋がるかわからないけどミスコンに出たり、同時並行で色々やりました。当初は、よくわからなかったけど、やってみたいことがたくさんできる期間で、その結果、自分が定まったような気がしています。
山本美也 学生は自己責任でいろんなことに挑戦できるので、利便性のある期間かなと思っています。実際、今、色々なことに挑戦していますが、コロナ禍の反動という訳ではなく、もともと興味のあることには、あまり考えずに飛び込んじゃうタイプなので、結果論ですけど、コロナ禍が自分にどう影響したのか、あまりわかっていません。
山本歩 大学時代は、自分のやりたいことができる期間かな、と思っています。コロナ禍もあって、より暇な時間が増えて、やりたいことは何だろうと考えたとき、取りあえず何か思いついたことをやれる時間がありました。なので、友達とビジネスプランコンテストに出てみたり、アパレルブランドを作ってみたり、いろんなことに挑戦しました。失敗しても誰にも責められることはないし、迷惑がかからなければ何をやってもいい4年間をお金で買ったような気がしています。
相談相手について
上野 私よりも4つ下で、経験もすごく浅いですが、まず妹に相談します。わからないからこその視点もあるし、やや悲観的な私に対し、妹はすごく楽観的なので、背中を押してもらっています。
栗林 僕は父親と片平先生ですね。休学については、先に休学していた岩永君に相談しました。自分で話して気づいたのですが、人生経験のある先輩として、同性の年上が多いですね。
山本美也 正直、あまり相談をするタイプではありません。もしかしたら、最近見山先生にお話を聞いていただいていることが、人生初かも知れません。結構、自分の中で考えて決めちゃうタイプかなって思います。
岩永 僕は大学の先生と高校の先生ですね。相談というより話している間に自分で、「あ、違いますよね、すみません」とか言って、「やっぱ、なしで大丈夫です」とか、そういうことも多いんです。アドバイスを求める相手というよりも、話を聞いてもらう相手の方が多いですね。
岡田 私は相談ではなく、多分、全部報告になっていると思います。もしかすると、相談しようと思っていることもあるのかもしれませんが、話し始めると、結果、報告になっているので、アウトプットしているうちに自分の考えが固まるのかなと思っています。
山本歩 自分も全然相談とかしたことがないです。報告というか、話した結果、「こうなんじゃない?」って言われることがあるので、それが新しい考え方になることはあります。
座談会を終えて
見山 人に話をすることで気づくことは多いですよね。今日の対談、同世代の学生の話を聞いて、どんな気づきがありましたか。
岩永 自分は、将来に対しての考え方が、周りの学生とは違うんじゃないかなと思っていました。でも、意外とみんな今のことしか考えていないから、自分が外れているというより、みんなで一緒に外れているんじゃないかなと思いました。みんなが、今、目の前のことに全力で向かっていることが知れて良かったです。
栗林 将来のことを漠然としか考えない、ということは、良くもあり悪くもありかなと思いました。今を大切に生きるのもいいですが、将来のことを真剣に考えて、そこからバックキャストで組み立てていくというのも、絶対に無駄ではないと思うので、そういうのが自分には足りていないのかな、ということに気づきました。
山本歩 みんないろんなことをやっていて、このメンバーで、いろんなことができたらいいな、と思いました。それぞれの挑戦が、どこかで交わったとき、きっと面白い化学反応が起こるんだろうな、と思いました。
上野 今まで就活をしていて、皆、つぶしが利く選択肢に行きがちなのかな、と勝手に想像していましたが、意外とそうでなかったです。今日のメンバーだからかもしれませんが、意外とそうでないということがわかって安心しました。躊躇せずに、また一歩、踏み出せる気がします。
山本美也 ちょうど未来のことで方向転換した時期でもあったので、未来のイメージは、その時々で変わることを実感しました。つぶしが利くとか、一般的にはこういう進路があるよと言われても、結局、社会が敷いたレールではなく、自分が敷きたいレールから外れたくない、と最近すごく思っていたので、皆さんの話を聞いて、気持ちが少し楽になりました。
岡田 未来の話で皆さん、今にフォーカスを当てていましたが、今にフォーカスを当てているバックボーンがそれぞれ違うのがおもしろいなと思いました。同じ時代を生きる同世代でも、それぞれのバックボーンは違います。結果、「今だ」という同じ結論には至っていますが、それぞれが個性的でおもしろいなと思いました。あと、私は漠然とすら未来を考えていなかったので、逆に今日、危機感を覚えました。
見山 皆さん、本日は、ありがうございました。
Facilitator:見山謙一郎 本誌編集委員
<Impression>
一般的に、大人たちは、同世代の学生や若者を一括りにして捉えがちですが、「今」という舞台、“Step”を自らの意志で生きている学生それぞれの背景にあるものを、もっと理解する必要があると感じました。
学生の未来感は、フォアキャストでも、バックキャストでもない、かつてスティーブ・ジョブズが学生に向けた言葉 “Connecting The Dots(点と点を結び付ける)”なんだ、ということにあらためて気づかされた思いがしました。