上釜 健宏 氏
株式会社Gamaエキスパート 代表取締役
元 TDK株式会社 社長、会長
片山 幹雄 氏
元 シャープ株式会社 社長、会長
江草 俊 氏
株式会社Gamaエキスパート
技術経営エキスパートコンサル
元 株式会社東芝 執行役員常務
(Facilitator:見山謙一郎 本誌編集委員)
*この座談会は気心の知れた方々で行いました。ライブに近い言葉を使用しておりますので予めご了承いただけますようお願いいたします。
INTERVIEW
Gamaエキスパートは、TDKで社長を10年、会長を2年つとめた上釜健宏氏が設立した「企業経営の経験がある技術者」のエキスパート集団である。大企業の経営に携わった技術者が、原点に立ち返り、日本発の技術の社会実装に向けて活動を始めている。
Gamaエキスパートを設立した上釜氏と、エキスパートとして参加する片山幹雄氏(元シャープ社長、会長)、江草俊氏(元東芝常務)に日本の現状と今後進むべき方向性について議論していただいた。
Gamaエキスパートとは?
見山 まず、上釜さんにGamaエキスパートを設立された経緯と、目指していることについて、お話いただければと思います。
上釜 TDKの社長、会長を務めたのち、いろいろと社外取締役をさせていただいていますが、自分自身、まだまだ何かやりたい、というのがありました。私と同じように、60過ぎで定年しても、みんな何かやりたいんんですよ。だったら会社つくって、そこで定年の人たちを集めて、なんかやったら面白いんじゃないかなと思い、上釜(かみがま)の「がま」と、みんなエキスパートだからエキスパートを合わせて会社名にしました。
見山 エキスパートの方々と一緒に、こんなことをしてみたい、というイメージはありますか。
上釜 もし、困っている会社があったら我々の知識や経験が役に立てばいいよね、みたいな感じです。世界初の日本の技術など、まだまだ日本には、可能性のある技術がいっぱいあります。それを早く社会実装するためにも、こうした我々の知識、経験が生かせられるのではないか、と考えています。当初は、ベンチャーのコンサルがいいね、と考えていましたが、今は、大企業からの依頼も来ています。大企業が何を困っているのか、何か変なことになってるな、と思いましたが、大企業からもらったコンサルフィーを、ベンチャーに出資したらいいな、ということになって、今後は、出資もしていきます。いい技術に出資して、それを何とかエキスパートが寄ってたかって社会実装できれば、日本発の世界初ができたらいいねって、という思いで今やっています。
見山 エキスパートは、企業経営の経験がある技術者というのが拘りと伺いましたが。
上釜 そうです。基本的には尖がっていて、まだやる気があるっていうか、ぎらぎらしてるとは言いませんが、まだやる気がある人たち、そういう人たちを活用しない手はないと考えています。
見山 江草さんは、東芝時代は常務としてバッテリーの開発を担当されていましたが、上釜さんから、エキスパートの誘いを受けたとき、どのようなことを思われましたか。
江草 日本の失われた30年、今は40年とも言われかねませんが、そうなった理由は、その間、日本にイノベーションが起きてないからだと思います。正直、今の大企業がイノベーション起こすのは、難しいと思います。ですが、上釜さんがおっしゃったように、新しい技術やアイデアは、日本でも生まれているわけです。ただ大きなイノベーションに持っていく力がないだけです。上釜さんがおっしゃるように企業間を飛び越えてサポートしていけば、GAFAとは言いませんが、それに次ぐぐらいのものはまだ日本は起こせるチャンスがあるのではないか、という期待でGama社に参加し、協力できれば、と思って活動してます。
見山 片山さんは、技術者として、シャープの社長もつとめられましたが、どのような思いを持って、上釜さんと連携していこうとお考えになりましたか。
片山 最初、話を聞いたときに、上釜の「がま」は置いておいて、日本人にとって「Gama」といえば、筑波山のガマの油ですよね。上釜さん、ガマの油を売るのかな、何考えてるのかな、でも、これは面白いぞと、という感じでした。ガマの油というのは、このエキスパートの経験で、その経験を絞り出し、その油を売るという発想が面白いと思いました。ガマの油で世界をひっくり返すことはできないかもしれないけども、ガマの油が潤滑剤になると思っています。ガマの油をちょっと塗るだけで、見えなかったものが見えるようになる、ということは、結構重要になると思います。これは、今の日本の産業界にとっても重要なことだと思っています。
国内に目を向けろ
見山 エキスパートが潤滑油となり、見えなかったものが見えるようになる、というのは、とても興味深いですね。上釜さんも片山さんも江草さんも、それぞれが大企業の技術、イノベーションに携わられ、社会実装という出口まで持っていった経験をされていますが、皆さんは、日本の技術に対して、どのような未来のイメージを持たれていますか。
上釜 今、日本発で世界初の技術があるベンチャー企業4、5社への投資を考えています。その意味でも、日本の技術力は、まだまだ奥深いな、と考えていて、それを本当に社会実装できたら、片山さんがおっしゃるGAFAをひっくり返すようなことはないのかも知れないけど、こうした積み重ねが大事だと私は思います。今、大企業では、CVC(Corporate Venture Capital)が流行っていますが、結局サンノゼとか海外に目を向けているばかりで日本国内には全然、目が向いていません。大企業がかっこつけてサンノゼとか、海外ばかりを見てるなら、こっちは国内を見るぞ、という感じです。実際、国内に目を向けてみると意外と可能性のある技術はいっぱいあるんです。本当にすごいなって。それを埋もれさせてる日本の大企業っていうのは、罪だと私は思います。もっと国内に目を向けろよ、って言いたいですね。
見山 大企業で経営に携わってきた方が、今、そのように思われているということが、大変興味深いです。
片山 私はこの数年、中国企業との付き合いが深いですが、たぶん、日本企業は未だに日本の企業の方が技術的に優れてると勘違いしているように思います。日本にはすごい技術があると言いますが、大企業にそんな技術が本当にあるのかなって。論文の数も引用論文の数も、中国の5分の1ぐらいで、そんな技術先端国はないですよ。論文を書いていない、ではなく、論文を書いてもアクセプトされないような研究しかやっていません。私が敢えて言いたいのは、今や日本は技術後進国だということです。後進国になった瞬間に、やるべきことが見えてきます。明治維新に戻る。Gamaエキスパートこそね、明治維新をやったらいいと思います。維新ですから、若い人もおじさんも含めて、世界に目を向けて、もう一回自分たちは学ぼう、世の中をひっくり返して、もう一回やったらいいんです。これは、上釜さんが話されていることと表裏一体の話です。上釜さんは日本に技術はあると言われていますが、大企業にあるとは言っていない。我々は原点に戻って、小さなことから始めるべき時代が来たということに気付かなければなりません。
見山 江草さんは、いかがですか。
江草 その通りですね。中国は政治体制とかいろいろとありますが、イノベーションは官民挙げて取り組んでいますよね。そうでなかったら、ファーウェイみたいなものも生まれないです。日本の通信業界は、昔はNTTドコモのiモードとかが一時期リードしていましたが、今やガラパゴス化しています。技術の芽はあるけれど、いろいろなものを組み合わすことができていない。オープンイノベーションっていう言葉がありますが、クローズな経営環境がそれを阻害しています。若い人を大企業に縛り付けておくのはかわいそうだと、僕も思います。本当に中国のほうが、すごいことをやっていますが、その一方で、日本のGDPは世界で第3位です。伸びてはいませんが、日本単独で見ても、それは巨大なマーケットです。その日本のマーケットの力を全然使ってないですね。
人と情報を繋ぐ
見山 皆さんの今のお話が本号のテーマの核心部分で、そもそも、「現在地」の認識が全然違うという話ですね。足元を認識できていないから、方向感が出せないのは当たり前ということですね。
上釜 エキスパートが集まれば、エキスパートネットワークでいろんな情報が共有でき、いろいろな組み合わせがイメージできます。結局、大企業は、自分のところだけで情報を抱えてしまい、オープンイノベーションと言いながら、そんなもの実体としてはないわけです。私はそういうところが、まず駄目だと思います。日本の大企業というのは、相変わらず自分のところが一番だと、みんな思っています。片山さんがおっしゃった通り、今こそ、もっと謙虚になって、もう少し目線を下げて、人の意見をよく聞かなければなりません。そうすれば、オープンイノベーションが本当に生まれ、もっと協業ができると思います。新しい技術は旬のうちに取り組まなければなりません。一緒にいろいろこね回さないと、世界に勝てるようなアイデアは出ないわけです。それぞれの大企業が、無駄にお金だけをかけるわけです。協業すれば、多分3分の1とかのお金で済む話なので、本当、ロスのほうが多いですよね。お金もそうですが、人のリソースもそうです。
見山 それだけの機会ロスがあるということですよね。今のお話し、片山さんは、いかがでしょうか。
片山 日本企業の話ですが、ビジネスの基本は、人・物・金・情報という経営資源をどうマネジメントして、そのビジネスを達成するかいうことだと思います。その中で、日本企業が今、決定的に世界に遅れを取ってる一つの原因が、人・物・金・情報の流動性を阻害した社会構造になっていることです。人・物・金・情報の流動性を阻害している原因は、大企業がつぶれず、人・物・金・情報を中途半端な形で、内部蓄積とか内部留保いう形で蓄えてしまっているからだと思います。
見山 内向きに守りを固めている印象は確かにありますね。
片山 今回のGamaエキスパートの取り組みで一番重要なのは、人・物・金・情報の中で、例えばノウハウなど、人と情報が繋がっている、ということです。経験と知識、ナレッジを持ってるのは、おじさんなんですよね。でも、企業はおじさんの活用法が分かっていません。そもそも、人の流動性を阻害する企業にイノベーションを任せたから、今おかしくなっていると思います。ジャック・ウェルチの本も読まなくてもいいと思いましたが、読んでみたら、彼が書いてるのは、人・物・金の流動性の話です。アメリカは、この流動性がつくられていて、モトローラやコンパックがなくなって、そこの人間はAppleでパソコンをやっていたり、Googleに行ったりしています。日本でシャープや東芝の人間が、どこかのベンチャー企業にいるなんて話は、あまり聞きませんよね。だからおかしくなってる。人・物・金の流動性を止めてる。だから、Gamaエキスパートでは、その流動性をガマのエキスをばらまくように、つくっていくイメージです。
上釜 “Gamaエキス”パート、確かに、ガマエキスになってますね。
見山 江草さんは、いかがでしょうか。
江草 以前所属した東芝の研究所は、フラッシュメモリなど、新しい事業をいくつも起こしましたが、いまは東芝規模の大企業であっても、単独ではあの技術を産業に持っていくのは無理です。日本の大企業は、自分たちが抱えている研究所を外に出して、産総研に代わる民間の産総研のような、5,000人規模ぐらいの研究所をつくったら面白いと思います。それだけのパワーが集まれば、ファンド等からお金も集められると思います。大企業は、そういうことができないので、Gamaでは、自分たちが動き回って、技術者を引っ張り出してお見合いをさせ、情報交換させようとしています。でも、本当に日本が勝ちたかったら、本当に研究所をいくつか集めて、5,000人から1万人規模の、昔のベル研みたいなものつくる必要があると思います。それができれば、どんどん新しい産業化っていうのは起こるはずです。もちろん産学連携をもっとがんがんやって、東大や京大などの大学も一緒にやったらいいと思います。そういう発想すらないですよね。
Gamaエキスパートの可能性
見山 今のような時代は、官主導ではなく、民間から変えてかなければならないと、私も思っています。国の委員をいろいろとやっていますが、今こそ民間主導でいろんなことを起こしてく必要性を感じています。ただ、今の企業は守りというか、内向き志向で、オープンイノベーションも結局、うまくいっていない。Gamaエキスパートの取り組みは、今まで企業に囚われていた経営者や技術者が解放され、自由な羽を手にして、これまで繋がらなかったものが繋がっていく、壮大な社会実験のような気がします。今後、Gamaエキスパートの可能性は、どのような方向に向かっていくのでしょうか。
上釜 ベンチャーを立ち上げたいとか、有望なベンチャーを何とかしたいという思いはあります。ベンチャーの善し悪しを判断する基準は、やっぱり技術だと思います。日本で生まれた有望な技術も、投資会社から見れば面白くない、というものもありますが、私はそういうところを何とか掘り起こしていきたいと思っています。少しでもGamaで出資して、Gamaの中にいるエキスパートの方々が経験を生かして、寄ってたかってその技術を社会実装することができたらいいな、と思っています。一つでも二つでも三つでも、そういうのがどんどんできていくと、日本らしいよね、っていう気がします。そんな貢献をしたいなと思っています。
見山 上釜さんに以前伺ったお話で、ベンチャーの経営者は、自分たちの可能性も、課題も本当のところは見えていないんだ、とお話されていたことが印象的でした。中でも、ベンチャー企業の経営者が、上釜さんに「うちの会社の課題は何ですか?」と聞かれたという話が、経営のリアルなんだなって、すごく思いました。
上釜 尖った技術があるから、起業しますよね。でも、尖った技術があっても、それが社会実装されて、世の中に認められるか、というのは別の話です。社会に認められ、社会実装され、こういうところが世の中に役に立つんだという出口まで持っていくには、自分たちだけではできないと思います。金を出せばできるという話でもないですしね。今、こうしてるうちにも、海外企業が来て、日本で生まれた技術を海外に持っていかれる可能性がある、ということに早く気が付かなければなりません。
見山 先ほど片山さんの人・物・金・情報の話にもありましたが、人と情報が繋がっている、というエキスパートの経験知が、ベンチャー企業の経営や技術的な課題に対し、大きな貢献ができそうですね。
片山 Gamaがやるべき仕事というのは、巨大資本を持ってる会社でも何でもないから、ベンチャー企業に不足している人と知識などの足らないものを補うことで、そのことが、資本を誘導することにも繋がると思います。時代遅れになりかかってる日本の大企業にも、本当は優れた経営者がいるんです。ただ、彼らが持ってる人・物・金の資源は、縦割れ組織で風化しかかっています。金の使い方も、人の使い方も、そもそも適材適所じゃない。だからイノベーティブなベンチャーと大企業とのマッチングは、上釜さんのお話を聞いて、とても重要だと感じました。
見山 まさに、そこですね。江草さんは、いかがでしょうか。
江草 全く、その通りです。Gamaの強みはOBがオフラインで動いて情報交換をするとか、分断されている情報を繋いだり、若い人たちが考えていることや、マーケットのニーズと技術と繋ぐことだと思います。僕らはある意味、裏稼業的で、あまり表で目立っちゃいけないんです。
見山 皆さん、それぞれ、大企業で経営まで携わられた方ですが、実はそれが皆さんにとっての準備期間で、いよいよこれからが自分の本当の出番だ、と思われているような気がします。皆さん、今をすごく謳歌されてる感じがしますが。
上釜 ベンチャーとか見てて、技術の話を聞いてると、わくわくしますよね。自分の会社ではないんだけど、って時々思うんですが、これが本当にうまくいって、世の中に出たらいいよねって、思っちゃうわけですよ。
見山 夢を共有してる感じですよね、そういう意味でも。
上釜 だって、これ日本発だよって、こんなものができたらいいよねって。そのお手伝いができたら、いいんじゃないすかね。じじいっていうのは、そういうもんじゃないのかな?そういう、じじいたちが集まってるんだと思います。
見山 一緒に喜びを分かち合いたい人たちですかね。
江草 そういう、じいさんだけを集めてんです。上釜さんが集めてる片山さんとか私とか、みんな、新規事業、大好きですしね。そういうのが大好きな人だけを集めてると思いますね。
見山 なるほど。片山さんがうまくまとめてくださりそうですが。
片山 人・物・金と言いながら事業をやってるのは、結局は人なんですよ。IPOして、六本木ヒルズとかにマンションを借りて優雅な生活してる連中も、僕は別に嫌いじゃないですよ。だけどもそれは、そこで収まってしまうんです、適当にもうかるから。じゃあ大企業にいる人材が、そういった処遇、チャンスをもらえてるのかと言ったら、そんなのはない。シャープだって、僕が入ったときは6,000億円の会社ですよ。最後、僕が社長時代のピーク時では3兆4,000億円でしたが、TDKも東芝も、今は大企業になってるけど昔は違う。右肩上がりの時代は、皆、人がやってるんですよ。では、今の大企業で誰がやる、という話ですが、マネジメントで、四半期決算で四苦八苦をしてる人たちが、自分たちで右肩上がりをやろうとするかというと、やらないですよ。
上釜 やれないね。
片山 その一方で、ベンチャー企業の方々は適当にもうかって、IPOをしたらもっともうかるから、適当に上場して、という制度が狂っているんですよ。適当に上場したらもうかるという仕組みをつくったもんだから、それで満足してしまう。個人で10億円でも手に入ったら、それは左うちわですよね。その社会構造を理解しなきゃいけない。今日のこの座談会で一番重要なのは、「今のままではまずいぞ」という、おっさんズが集まって、こうした議論をしているということです。
現状を直視し、真似て学べ!
見山 いろいろと価値観を含めて変えていかなければならないですね。
片山 結局、何したらいいのかいうと、人の流動性、資本の流動性を担保する中で、大企業を解体してでも、ちっちゃな会社に変えてでも、できるやつ、やれる人に投資をすることです。中小企業の中にも、あるいは定年間際だけども頑張って、すごい技術やってる人もいるんですよ。中国は今、ものすごい頑張ってる。アメリカはもっと先を見て頑張った。そういうのを真似したらいいんですよ。日本は真似しようとしないから、ややこしくなった。明治維新のときにやったように、今こそ、真似をすることです。
上釜 確かに真似をしなくなりましたね。真似するのは恥みたいになっちゃってるけども、変に自信持ってるよね。申し訳ないけど、日本が今やってることは遅れている、まずはそこが分からないとだめですね。そこのところの情報がないってことですね。
片山 中途半端な真似は多いですね。人事制度を真似するとか、マーケティングとかを真似するとか、中途半端な真似はするな、って思います。もっと先人の真似をしろ、Appleの真似、Googleの真似をしたらいいんじゃないかって思います。テスラなんか、日本企業、誰も真似してないんです。そういうところがおかしくなってるから、今こそ、それをやるべきだと思います。
上釜 過去成功したもんだから、変に自信持っちゃってるよね、日本企業は。
片山 僕は失われた30年っていう言葉が、一番嫌いなわけです。僕とか上釜さん、江草さんは、失われてる30年の当事者です、社長もやっていたしね。われわれがこの時代をつくって、つぶれるべき会社をつぶしてないのが悪いんです。だから人・物・金の流動性を止めてしまった。そんな中でも結果的によかったと思うのは、電池で言えば三洋電機が終焉を迎えて電池事業を吐き出し、電池の技術者がパナソニックやTDKに行って電池事業やっていることです。もし、三洋が残っていて、人材を抱え込んでしまっていたら、そうはならなかった。もし、上釜さんが今もTDKにいたり、僕がシャープにいたりしたら、そもそもこんな議論だってできないと思います。
見山 これまでのお話を伺って、未来のことは色々と語られているけれど、そもそも、現在地の認識、把握がちゃんとできていないことが、今の日本の最大の課題だと強く感じました。先ほど片山さんが、真似というお話をされましたが、確かにそうですね。今、バングラデシュでいろいろとプロジェクトを進めているのですが、バングラデシュにウーバーが入ってきた後、現地資本のウーバーもどきが立ち上がって、現地ニーズに合ったサービスを提供することで、市場シェアを獲得していくんです。日本は、外から入ってきたものをありがたく頂戴して、真似るなんてことは考えない。そういうハングリーさに欠けている、というのは感じることがありますね。
江草 そうですね。中国なんてものすごく日本の、真似してますよね。
見山 真似るって、そこから学ぶっていうことですよね。
江草 日本側は批判しますけど、日本を真似して、資本投下して、真似た産業を日本よりも大きくしてるのは中国ですからね。国の保護もありますが、国として勝てばいいわけです。だから逆に今は、中国に学べって言いたいですね。逆に我々が、韓国や中国の真似をし返えせばいいんです。
上釜 江草さんの言う通り、逆輸入すればいいんです。そうすると、結果的にすごくコストが下がっていくんです。逆輸入すると、日本の中でまた素晴らしく受け入れられると思うんだよね。
見山 真似て学ぶというのは、現在地が分かってない日本にとって、とても重要なキーワードだと思います。
江草 特許の精神は、もともと、真似し合うことを前提に特許化して権利を認めているんです。なぜ、特許を公開させるかというと、真似させて新しいもの生み出すためです。単純な話で、秘密化すると、産業の発展がなくなってしまうから、特許という制度ができたわけです。日本企業は、そこのところ取り違えているんですよ、特許は守らなければならない、秘密情報として守らなければならないって思ってるから。でも、それは違うんです。権利を認める代わりにオープンにさせるんです。そうすれば、産業や技術によって社会が発展するという、正のスパイラルの概念が、日本の企業も政治家も、理解も想像もできていないと思います。
上釜 一言でいうと、日本はグローバルじゃないよね。自分のところを守るためだけに、今、必死だよね。昔は違ったんだけど。
江草 実質的に江戸時代の鎖国状態みたいですね。
見山 まさに、現状認識の話ですよね。片山さんが冒頭で、日本は技術後進国だ、という話をされていましたが、今の日本の立ち位置をしっかり把握して学ぶっていう姿勢と、オープンに議論をするという姿勢が重要ということですね。
上釜 学ぶなんて、かっこいいこと言わないほうがいいんじゃない?真似する、でいいと思いますよ。
見山 ではそこは、かっこよく言わないようにしましょう。
片山 ガマの油も、捨てたもんじゃないでしょ。
見山 本日はありがとうございました。
Facilitator:見山謙一郎 本誌編集委員
<Impression>
この対談から、「未来とかを語る前に、まずは足元の現状を直視しろ」という強いメッセージを感じました。上釜さん、片山さん、江草さん、それぞれが大企業の技術者、経営者として一時代を築かれた方ですが、当時からずっと、現場への強い拘りと、技術の出口である社会実装を強く意識されていたことが伝わってきました。一時代を築かれた方々が原点に立ち返り、これまでの経験を助走期間と捉え、次の時代を担うベンチャー企業の経営者や技術者と一緒になって、本気で新しい日本の技術、産業を作っていこうとする姿は本当に爽快で、痛快で、何よりもかっこいい大人たちだと思いました。
上釜 健宏(かみがま たけひろ)
株式会社Gamaエキスパート 代表取締役、
元 TDK株式会社 社長、会長
鹿児島県加世田市(現南さつま市)生まれ。1981年、長崎大学工学部電気工学科卒業後、東京電気化学工業(現TDK)入社。2001年、記録デバイス事業本部技術戦略部長。2002年、執行役員。2003年、常務執行役員。2004年、取締役専務執行役員。2006年、TDK代表取締役社長就任。M&Aにより自動車向け事業等の強化をはかり、また生産拠点の統廃合など構造改革を進めた。2016年、TDK代表取締役会長。2017年、オムロン社外取締役。2018年、ヤマハ発動機社外取締役、ソフトバンク社外取締役。2021年、コクヨ社外取締役、CATL日本法人 Chief Consultant就任。2021年、(株)Gamaエキスパート代表取締役。
片山 幹雄(かたやま みきお)
元 シャープ株式会社 社長、会長
1981年(昭和56年)、シャープ株式会社に入社。1998年、液晶事業部長に就任、液晶事業の立て直しに成功する。2003年、取締役就任。2005年、常務取締役就任。2006年、代表取締役専務取締役に就任。2007年、代表取締役社長に就任。2012年、代表取締役社長を退任し、代表権のない会長職に就任。2014年、日本電産株式会社顧問として就任。10月1日副会長執行役員(最高技術責任者)として就任。2015年、日本電産株式会社代表取締役副会長執行役員に就任。2020年(令和2年)、日本電産株式会社代表取締役副社長執行役員に就任。2020年、日本電産株式会社副社長執行役員、2021年、日本電産株式会社の特別顧問に就任。
江草 俊(えぐさ しゅん)
株式会社Gamaエキスパート 技術経営エキスパートコンサル、
元 株式会社東芝 執行役員常務
1985年、京都大学工学研究科高分子科学専攻の博士課程を終了後、(株)東芝研究開発センターに入社。主に有機エレクトロニクス開発分野での研究開発に従事した。1997年度から研究開発マネジメント職として英国研究所やマルチメディア研究のマネジャーとして活動。2005年度、(株)東芝本社技術企画室グループ長として全社研究開発戦略の策定と管理を行う。2007年度、リチウムイオン電池新規事業推進部へ異動し電池工場長、電池技師長を経て2014年度より電池事業責任者に就任。2020年度に執行役員常務に就任。2022年4月より早稲田大学・研究院客員教授(非常勤)就任。Gamaエキスパート社技術経営エキスパートコンサルとして活動中。