大坪檀のマーケティング見・聞・録
マーケティングはメディアなしには成立しない。メディアの変遷とともにマーケティング活動は変遷してきた。新聞、雑誌、TV、ラジオは今大変容を迫られており、消滅を迫られているものも少なくない。しかしどっこい生きているものも多々ある。
地域の創生、活性化に取り組んでいるマーケターには参考になる地域メディアの例を紹介しよう。
この年になって25年余静岡のSBSラジオの土曜番組「ラジオイースト」のコメンテーターとして番組開設の当初から月一回継続して出演している。ラジオ番組は世間では人気のない、マーケターに見捨てられた消滅メディアとも考えられがちだがこの番組は息の長い健康長寿番組なのだ。聴取率は低いのだが、静岡のタクシーの運転手に「あなたの声、ラジオで聞いたことがある」とか、学生から「先生のラジオ、畑仕事をしているおばあちゃんが聴いてる」と言われたり、北海道のリスナーからコメントが寄せられたりでメディアとしての存在感を感じているものだ。このラジオ番組の健康長寿の秘訣は何か。
1 サンフロント21懇話会と称する地元の行政、産業界で構成する団体の存在がある。地元出身の国会、県会、市町村などの議員、市町村のトップや幹部、企業の経営者、経済団体の幹部、地域の有力者などで構成され静岡県の東部地域の発展のため色々な提言や戦略を推進する強力な推進機構である。事務局は地元の静岡新聞社東部総局。この懇話会が中心となり地域の魅力を発信すべくラジオ番組をサポートしてきた。25年余、週一回、地域の情報を2時間近くにわたり毎土曜日に発信。景気、不景気に関係なく番組に必要な資金を懇話会が用意し、懇話会のメンバーが広告スポンサーとなり番組を支える。25年余も継続しているこのような地域に根付いた長寿番組、あまり例がないのではないか。この懇話会はラジオ番組だけではない。新聞の一面を買切り、毎月一回20数年継続し地域の情報発信、提言発表を行っている。筆者も年一回は知事との鼎談に参加している。
2 ラジオ番組の中身は徹底した地域の情報発信で、地元の観光スポット、温泉地や地元イベント、地元企業や新製品、キャンペーン、特産品、名物の紹介など、いわばご当地自慢情報、自慢ニュースであふれている。地元の交通情報から天気予報、健康情報や地元のアパート経営の仕方までも登場する。
3 視聴者や番組スポンサー、地元のニュース提供者の参画、双方型の視聴形式は今では珍しくないが、番組開設当初からリスナーがメールやファックスで番組に参加している。予告されたテーマに従い自分の持つ情報や意見を事前に寄せたり、放送中にメールやファックス、電話で参加してくる。いつの間にか県外、遠くは九州や北海道のリスナーも参加してくるようになり、25年という年月の間にこの番組が自分のもののように思っているリスナーが多々誕生した。
この欄で前にも紹介した静岡県東部の長泉町に20数年前に県立静岡がんセンターが誕生、がんセンターを核に医療産業地域を構築しようと「ファルマバレープロジェクト」がスタートしたが、このプロジェクトの誕生、推進に大きく関わったのもサンフロント21懇話会で、その広報活動、全国的情報発信に今も大きな役割を果たしている。この長泉町には世帯所得年収1,000万円以上が続出、富裕層の多い、福祉の充実した奇跡の町と自称するほど豊かな地域となった。
この30年、多くの地方都市の創生、活性化プロジェクトに関係して、地域の創生、発展に質の高い地域メディアの存在と地域の活性化に取り組む地域人の地域愛と団結、推進の仕組み、とりわけマーケティング志向の地域メディアの活用意識が不可欠だと痛感している。
メディアには不思議な力がある。信頼度が高く、地元が支えるメディアで自分たちの行動、活動が記事となり報道され、評価されることに強い関心があり、喜びを感じ、誇りを持ち、自分の活動に自信を持ち、自ら活動の推進力ともなるということだ。メディアに取り上げられた商品、観光地に人が押し寄せる。
青森の女性経営者から電話の一声「先生、『銀座百点』誌に私の俳句がのりました」。その声は誇りと喜びに満ちていた。『銀座百点』は歴史ある日本の銀座商店会が支える著名雑誌、印刷媒体だがその存在感は群を抜いて大きい。創刊は1955年1月。これからのマーケティング活動ではこのような地域メディアの存在にも注目してよいのではないか。
Text 大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 所長