大坪檀のマーケティング見・聞・録
『マーケティング ホライズン』は、日本マーケティング協会の会員向け情報小誌として、1980年に創刊。皆様のご支援で、小生は本誌に毎号寄稿してきた。当初はアメリカ・マーケティング協会の機関誌からアメリカのマーケティング事情を紹介するものが中心だったが、次元を越えた“見聞録”ものに転換。そして47回目。小生本年96歳、次の新時代に思いを込めて、この寄稿から降りることにした。
読者、編集者の皆さん有難うございました。
誰でも実感していることだが、日本の産業、マーケターを取り巻く環境はここにきてまさに激変。一番は健康長寿化社会と人口減少がもたらす社会変化、生活変化。トランプ政権が打ち出した関税政策がもたらす国際市場の変化、世界各地の紛争、ウクライナ戦争後の大復興市場。IT・AIの登場。我々日本人が経験したことのない環境変化が展開、何やら戦後の日本の大発展期に匹敵するチャンスが再び到来し始めた感がある。産業人が奮い立ちこの環境にチャレンジすれば21世紀はまさに日本の世紀となるのではないか。
識者は失われた30年と嘆くが、今年は2人もノーベル賞受賞者を出した。“いのち輝く未来社会のデザイン”を掲げた大阪・関西万博は2,500万人超の入場者で230億~280億円の利益を予想して閉会。内なる国際化も目に見えて進行、小生が利用する小田原駅の新幹線ホームは大きな旅行鞄を引きずる観光客でいつもあふれている。外国人労働者のいない職場の方が珍しい時代が到来。小生の大学には今年、秋入学制度で厦門大学から50人近くの留学生がやってくる。ベトナム、韓国、モンゴルなどの諸外国からも日本の質の高い教育環境にひかれて留学生が続々やってくる。
アメリカの財界人が“アメリカの伝統的な自動車産業も鉄鋼業も日本にやられた。とうとう野球もだ”とつぶやいたのが耳に残る。アニメは言うに及ばず、文化芸術の世界での発展にも目にみはるものがある。
戦後80年、日本の産業の発展とともにマーケティングの世界も目覚ましい発展を遂げた。日本の経営、マーケティングの手法が世界の経済界で注目されてきた。目の前に展開する新環境に日本の産業人が、そしてマーケターが挑戦するのに何が必要か、経営学者、産業人としての経験・観察から、これを述べて本稿を閉じたい。
まずは目標の再設定だ。経営者が将来に向けて設定する目標がその企業の将来を決める。どのような分野で、どの市場で、どのような貢献をし、どのような業績を上げるのか。そして、これまでのマーケイング手法の徹底的な見直しと手法の創造、挑戦が今不可欠だ。
人口減少と長寿化現象を見据えて国際市場に乗り出す企業は続出する。どの国際市場にどのような形で乗り出すのか。マーケターの新戦略と新戦術が求められる。国際市場はまさに腕の振るいどころだ。ウクライナやガザなど戦後の復興に日本産業は何をどのような役割を果たすのか。どのように貢献するのか腕と心、視点、哲学がまず問われるのではないか。
健康長寿、人口減少の日本の豊かさを支えるには 高付加価値、革新的な新規産業の創出、展開が不可欠。筆者は医療健康産業のシリコンバレーを静岡県東部一帯に展開する一大プロジェクトの推進に関わっているが、未知、未経験の市場でのマーケティングに苦闘している産業人を多数目にしている。画期的な新製品には画期的なマーケティングの誕生が必要と痛感している。
お茶の生産で日本一を誇った静岡が、今苦闘している。作ることに力を入れ、市場の変化を読み違えた。売れるお茶→売り方の視点が弱かった、誤った。人口減少と高齢化の市場で、お茶産業には高度な市場創造型の取り組みが必要だ。伊藤園は大谷選手を起用、飲料としてのお茶製品→ペットボトルでコカコーラに代わる飲料創造を目論み、国際市場に進出しようとしているようだ。
国際市場は広く、大きく、多様な異文化にあふれる。今までにない革新的で創造的な企業の目標設定と革新的なマーケティング努力が求められる。マーケターの活躍無しには新時代の日本の産業人が腕を振るうことはおぼつかない。
世界企業になった会社のブランドは世界の人が口にする。産地名や国よりもその製品、提供企業に対する信頼、イメージが大きな力を振るう。新時代に向けた企業目標の再設定にこの新しいブランド創造、再構築がかせない。日本のマーケターが日本の未来に大きな夢を抱き、未来創造を心にAIなど新兵器を駆使して、21世紀は日本の世紀、日はまた昇ると世界が評価する活躍を望みたい。
Text 大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 特別教授