中島 純一
公益社団法人日本マーケティング協会 客員研究員
Something New
はじめに
「Something New」という言葉をご存じでしょうか? 日本語で“何か新しいもの”という意味合いに加えて、ちょっした思いつきとかアイデアというニュアンスにもなり、英語圏では日常的に使われています。
今回からこのコラムで、「Something New」の連載がスタートします。
現在の私たちを取り巻く環境は、不確実で急速に変動する社会に伴う予測しがたい VUCA の時代を迎えています。このような中では、今まで以上に柔軟な思考や見方が求められています。本コラムではこのような状況を念頭に置きながら、物ごとを見る際の「Something New」、すなわち柔軟な「 新しい見方や考え方」とは何かを、さまざまな手掛かりやヒントから考えてみたいと思います。
Introduction
はじめに自己紹介をさせて頂きます。長く大学において教鞭をとり、コミュニケーション論と社会心理学をベースに、リアル社会やデジタル社会の人と社会の相互作用について研究してきました。日常におけるさまざまなコミュニケーションの心理や、デジタル空間における SNS 利用者の心理、リアル社会における流行心理の研究等をメインにすすめてきました。詳細については、末尾の略歴欄をご参照ください。
研究活動の中でも、特に流行における人々の心理について長年研究をしてきました。ヒット商品を手にしたり、流行りの服などを身につけた時のワクワク感やちょっとした喜びは誰しも感じたことがあるでしょう。いつもとは異なる「 新しい何か」は、わたしたちを一瞬にして異次元の世界へといざなうものがあります。この「 新しい何か」とは見たこともない新商品ばかりではなく、例えば古民家のようなものもフレーミングを変えることにより、おしゃれ感あふれる素敵な空間に生まれ変わります。流行は、古きものも新鮮なものへと感じさせる不思議な力があります。このような流行の力は「 新しい見方」の一つのヒントになりそうです。
目指すもの
“新しい何か”を生みだすアイデア発想力や流行心理のセミナーを開催したことがあります。食品・飲料メーカーや広告業界をはじめとして、さまざまな業界の方たちに受講して頂きました。その中で特に印象に残っているのは、異色ともいえる自動車専門雑誌社と建築業界から参加された方です。この方たちが求めていたのは、いわゆる具体的な新商品の開発やヒット商品づくりを目指すというよりは、「新しい見方や考え方」のフレームワークを理解して、喫緊の問題解決に用いたいというものでした。何か新しいものを生みだすという「新しい見方や考え方」の当初の想定とは異なる捉え方で、そこにまた“ 新たな視点”があることを逆に教えて頂きました。そして同時に多くの業界の方たちが、日常の業務において、イノベーションや現状の改善といったニーズを抱えていることもわかりました。このような経験を踏まえて、新しいアイデアづくりや日常の小さな改善や問題解決のヒントになる、さまざまな柔軟な「新しい見方や考え方」のフレームワークを提示できたらと思っています。
本コラムではこの「新しい見方や考え方」のヒントを求めて、コミュニケーション論、認知心理学、社会心理学、流行理論、映像理論、創造的思考法、医学、哲学、文学など、関連するさまざまなジャンルに目を通してみたいと思います。
これら多方面のジャンルから得られるヒントは、具体的なアイデア創造法を構築するというよりは、その根本的なスタートラインでの新鮮な考え方や見方の大まかな雛形( テンプレート)を提示するものとなるでしょう。そして、このようなテンプレートは単に商品開発や新企画といった領域のみならず、広く世の中の物事やさまざまな現象の「新しい見方や考え方」にもフィードバックでき、マーケティング活動をはじめとした日々の業務にも役立て頂けるのではないかと考えます。
連載内容
連載内容としては、“新しい見方とは何か”という根本的なところからスタートして、「新しい見方や考え方」を生みだすいくつかのクリエイティブな思考法について考えてみます。
従来からある伝統的な創造的思考法を振り返りながら、ラテラルシンキングなどやわらかな思考法に繋がる視点等を見てみます。そして今日の目まぐるしい VUCA の時代に欠かせない相対的視点と創造性を生みだす手掛かりとなる「アフォーダンスの考え方」、「流行現象における人々の二重心理」といった、従来見られなかった新たな複合的視点からのフレームワークを取り上げていきます。それと同時にひらめきやアイデアを生みだす心理学、脳科学、映像理論等からの知見なども、随時紹介していきたいと思います。読者の皆さまと一緒に、Something New とは何かを考えてみましょう!