寄稿


Z世代のライフスタイルと行動変容


大規模生活者調査でみるZ世代

by 髙橋 寿夫
株式会社三菱総合研究所 未来共創本部
主席研究員

1.はじめに

 Z世代とは、主として1990年代中盤以降に生まれ2010~2020年代に社会進出する世代を指す。今まで様々な市場を牽引してきた団塊世代が後期高齢者となり購買力が低下してきたこともあり、今後新たな市場開拓者として注目されている世代である。
 三菱総合研究所では、毎年6月に日本在住者を対象に大規模生活者調査である生活者市場予測システム(Market Intelligence & Forecast:以下mifと表記)を実施しているが、本稿ではこの調査結果から見えてくるZ世代の特徴を定量的にひもといていきたい。

2.Z世代の特徴的な
ライフスタイル

 まず最初にZ世代の特徴的なライフスタイルについて述べる。

(1) SNS利用とコト重視

 Z世代は生まれた頃からインターネットがあり、物心つく頃にはスマートフォンをはじめとしてネットにつながる機器が身近にあった世代で、ネットネイティブと呼ばれている。そこで、ネット利用の実態から見ていくこととする(図1)。

 特徴的な点は「気になったことがあれば、なんでも情報を入手する」に対する回答は全世代平均と比較するとZ世代は9ポイント低くなっている一方、「SNSに登録し、情報共有・発信を行う」、「ツイッターで企業アカウントをフォローする」でそれぞれ15ポイント、「尖ったコミュニティに参加する」で13ポイント高くなっている。Z世代はSNSの利用が活発であるとともに、企業行動や自身の興味のある尖った内容についてもSNSを介して情報収集や共有、発信を行っていることがうかがえる。
 また、mifでは、1日の生活時間の使い方についてもデータを収集しているが、このデータを用いて世代別のメディア利用時間をまとめたものが図2である。これによると、団塊ジュニア世代より年長世代では「テレビ(地上波、BS、CS)・ラジオ・新聞・雑誌の閲覧」時間が最も長くなっている一方、ミレニアル世代になると「オンライン上のサイトや配信動画の閲覧」と「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌の閲覧時間」がほぼ拮抗、Z世代になると、さらに「SNS(Facebook、Twitter、Instagram)の利用」の3つがほぼ拮抗、もしくは利用時間が長くなっている。この世代にとって、SNSはメディア利用の中でも大きな比重を占めていることがわかる。

 一方、コト重視の意識も高い(再び図1参照)。「友人・知人とわくわくする体験をしたい」については13ポイント、「おもてなしなど特別なサービスを体験したい」についても12ポイント、全世代平均と比較してZ世代の方が高い比率となっている。コト重視で体験したことはSNSで発信する好材料となることも背景にあろう。

(2)環境や働き方から見える社会貢献意識

 環境や働き方に対する意識にもSNSの影響がみられる。その一方、社会貢献に対する意識が高いこともうかがえる。
 まず環境に対する意識について。「使用していない照明等はこまめに消す」や「冷房は28℃以上、暖房は20℃以下に設定する」といった地道な行動に関しては、全世代平均と比較してそれぞれ20ポイント、7ポイントも低くなっている一方、「普段からエコ活動の重要性をブログ等で発信する」や「日ごろから多少高くても、環境に配慮した商品を購入する」についてはそれぞれ10ポイント、4ポイント高くなっている。こうしたZ世代の方がポイントが高い項目は、SNSを介した情報発信に適したテーマである一方、低い項目である地道な環境行動は、情報発信にあまり適していない、という見方もできよう。一方、「日ごろから多少高くても、環境に配慮した商品を購入する」意識が高いことは、社会貢献意識が高いとみることもできる。
 次に働き方について。まず「外国語を使って仕事をする」が全世代平均と比較してZ世代の方が10ポイント高くなっている。これもSNS利用の影響が大きいのではないか。SNSを通じて容易に海外在住者との交流が可能であるため、外国語でのコミュニケーションに対する抵抗感が少ないことが考えられる。
 また「条件の良い会社があれば、転職する」で5ポイント、「自己の能力向上が図れる仕事をする」で3ポイント、「社会貢献できる仕事をする」で2ポイントと、それぞれ全世代平均より高くなっている。これらについては、2011年から2021年のmifの11年間分の時系列データを用いて、APC(Age-Period-Cohort)分析を行った。APC分析とは、時系列データを加齢効果、コーホート(生年の違いによる効果)効果、時代効果に分解する手法である。結果は「加齢効果」が各年齢における推計値を示し、「コーホート効果」「時代効果」はそれぞれ推計値を何倍にするかで示される(1倍が基準)(図3)。これによると「条件の良い会社があれば転職」は年代では30代前半、世代では新人類でピークとなっており、若い世代ほど意識が低くなっていることがわかる。また、「能力向上がはかれる」に関しては年齢とともに、また世代が若いほど低くなっており、「社会貢献できる」は年齢が高くなるにつれて意識が高くなる一方、世代的に団塊ジュニア世代で底となり若い世代ほど意識が高くなっていることがわかる。Z世代は、前の世代と比較すると「社会貢献」を優先する姿勢が出ており、先の環境配慮商品の購入も併せて、特徴的な点といえよう。

(3)親と似ていると感じている

 ライフスタイルではないが、Z世代は「親と似ている」と考えている人が多いことも特徴である。「父または母と似ている」という質問に対する回答は、「 好きなブランド、ショップ 」で15ポイント、「 趣味・ホビー 」では13ポイント、「ファッションセンス」で9ポイント、全世代平均よりも高くなっている。昨今、昭和レトロブームがいわれており、立役者はZ世代ともいわれているが、この世代は親との関係が強く、親の趣味等を受け継ぐ人が多いことがブームの背景にあるとも考えられる。

3.価値観から見た
Z世代

(1)価値観クラスターの導入

 さて、ここで少々Z世代から離れる。
 mifでは生活者の価値観把握のため、心理学や社会学で広く利用されているSchwartzが提唱した価値観理論に基づき、権力、達成から安全といった10項目と、日本人特有の価値観といわれている帰属意識を合わせた全11項目について22個の質問を行っている(表1)。そしてこの回答結果を統計的に処理し、生活者を価値観の持ち方で7つに分類するクラスターを準備した。表2はクラスターの特徴をまとめたものである。例えば、積極派は「基本的にどの価値意識も高いタイプ」、人情派は「人生を楽しみ、経験をしたい意識があるとともに、絆・奉仕の意識も高く、伝統を重んじ健康で安全な暮らしを求めるタイプ」である。また、無気力あきらめ派は「特に特定の項目が高い/低い傾向は示さず、目立たないことを望むタイプ」であり、回答でみると5段階評価のうちの中位である「どちらともいえない」を選択する傾向が強いグループとなっている。

(2)「積極派」と「無気力あきらめ派」に特徴

 別の構成比率を見たものが図4である。これによると、Z世代は全世代平均と比較して、積極派(全世代平均7%なのに対してZ世代11%で1.5倍)と無気力あきらめ派(全世代平均23%なのに対してZ世代41%で1.8倍)の構成比率が高くなっていることがわかる。全世代平均値より高い場合、「この世代はこんなタイプが多そう」と認識され、その世代の特徴と見なされる。Z世代ではこうしたクラスターが「積極派」と「無気力あきらめ派」である。
 この2つのクラスターは価値観が大きく異なることもあり、ライフスタイルや行動も大きく異なっている。先に示したZ世代の特徴的なライフスタイル項目に関して、クラスター別の比率を示したものが図5である。
例えば、「SNSに登録し、情報共有・発信を行う」は積極派で47%、無気力あきらめ派で22%で25ポイント、「友人・知人とわくわくする体験をしたい」はそれぞれ87%と25%で実に62ポイント、「社会貢献できる仕事をする」ではそれぞれ45%、22%と23ポイント積極派が高くなっている。こうしてみるとZ世代の特徴的な点は、構成比率でみれば11%程度の積極派が主導していることがうかがえる。その一方で無気力あきらめ派はZ世代の多数派であるものの、全世代平均と比較しても先に示した「Z世代の特徴的な点」に対する意識や行動が特別高いわけではなく「積極的になにか実施する」という意識も高くない。Z世代を細分化してみると行動様式が異なることがわかる。

4.どのようにZ世代を
動かすか?

(1)無気力あきらめ派に行動変容を起こしてもらうポイント

 Z世代をターゲットにする場合、積極派は様々な行動を自ら実践してくれることを勘案すれば、自ら動くことが少ない「無気力あきらめ派」にどのように動いてもらうかが課題である。
改めて、無気力あきらめ派の特徴をみてみると「特に特定の項目が高い/低い傾向は示さず、目立たないことを望むタイプ」である。これは「自ら動くことで後悔しない、後悔を最小にしたい」意識がある、ということである。つまり損失回避、「損をすること、リスクにさらされることについて、過大に反応してしまう」志向が高いということが考えられる。
 こうした人に実際に行動してもらうには、行動経済学でも指摘されているような方法も含めていくつかの方策が考えられる。
 まずデフォルトの利用である。デフォルトとは「選んで欲しい選択肢を「初期設定状態」にしておくこと」をいう。利用者は初期状態を変更せずに利用することが多く、この方法が適用できれば効果は大きいが、マーケティングで利用するのはなかなか難しい面もあろう。ウィンザー効果の利用も考えられる。ウィンザー効果とは「商品/サービスの提供者から直接アピールされるよりも、第三者から間接的にそれを聞くと、より強く信じてしまう傾向」である。身近な信頼できる人に一押ししてもらう、という方法は自ら動かない人に対して効果があるのではないか。また、言い訳を準備しておく、という方法も有効であろう。本来後悔したくないのだから「後悔しない理由」つまり言い訳を準備しておく、ということである。

(2)Z世代無気力あきらめ派の行動変容の方策

 こうした点を勘案した上でZ世代の無気力あきらめ派の特徴を見ていきたい。
 まず、Z世代無気力あきらめ派は、社会への関心が高い。mifでは様々な分野の社会問題に関する131テーマ(例えば「低い食料自給率」「大気汚染(NOx、SOx、PM2.5等)の発生 」「再生可能エネルギーの普及停滞」等)について認知度を質問している。世代別に全世代平均よりも認知率が高い項目数をまとめたものが図6である。これによると、Z世代無気力あきらめ派は90個となっており、同世代平均値よりも高くなっている。また他世代の無気力あきらめ派と比較するとさらに傾向は顕著で、例えば新人類世代では23個、団塊ジュニア世代で44個に対しても大きい数字である。今後生活していく上で後悔したくない(損をしたくない)ために、社会へ関心を持ち、万一に備えていることがうかがえる。
 また、ボランティア活動への参加も盛んである。Z世代無気力あきらめ派は「自然環境保護のためのボランティア活動に参加」に関して「あてはまる+ややあてはまる」の回答率が20%(全世代平均で8%、Z世代全体では17%)、ボランティア休暇の取得経験も49%(全世代平均で12%、Z世代全体で32%)となっている。

 寄付に対する意識も高い。mifではいくつかの社会問題について「解決に向けてどの程度寄付をしても良いか」という質問を行っている(図7)。Z世代は全世代平均と比較すると寄付意識は高く、無気力あきらめ派はその中でもさらに高い意向となっていることがわかる。例えば「新規に農業を始める人への支援」について、年間1,000円程度以上の寄付をしても良いという回答は全世代平均では6%、Z世代全体では14 % なのに対して、Z世代無気力あきらめ派では24%と高くなっている。こうしてみると、ボランティアや寄付という「誰か助ける、応援する」ということがZ世代無気力あきらめ派の行動を促す「言い訳」になることが考えられる。

 また、本稿の最初に触れたZ世代の特徴である「親と似ている」という点にも注目したい。同じ質問で、Z世代無気力あきらめ派で「親とあまり似ていない+似ていない」の回答比率をみると「好きなブランド、ショップ」で34%(Z世代全体で43%)、「趣味・ホビー」で31%(Z世代全体で38%)「ファッションセンス」で29%(Z世代全体で39%)となっている。つまり、親と似ていることに否定的な人が少ないようである。よって、身近な存在である親の一言は躊躇する無気力あきらめ派への一押しとして、効果がありそうだ。
 以上、先に示したZ世代無気力あきらめ派に行動を起こしてもらうポイントと彼らの特性を勘案すると、下記のような方向が彼らを動かすきっかけの一つとなりそうである。

<Z世代無気力あきらめ派を動かす方法>
・自社製品/サービスが社会の様々な課題の解となっている、負荷軽減に貢献していることを明示する
・その社会問題解決の応援のために、消費活動やキャンペーンに参加してほしいことを伝える
・親世代にも共感できるメッセージを発信、親からもメッセージを発信してもらう

 こうした方法以外にも様々な方法があろう。いずれにしても、自らあまり動かない彼らの特性を踏まえた対策が有効である。

5.おわりに

 以上、Z世代の特徴をいろいろと見てきた。
 Z世代は生まれたときからネットが身近にあった世代であり、SNS利用が活発で、SNSでの情報発信につながる行動を実施することが多いこと、社会貢献に対する意識が高いこと、このライフスタイルを牽引しているのは「積極派」であること、多数派の「無気力あきらめ派」を動かすには、「応援」的な要素を入れることや親の一押しが有効であることを示した。
なお、今後この世代の特徴を考えていく上で忘れてはならないのが、学校の正規授業をネットで受けた初めての世代、学校でのリアルな生活体験が少ない世代、ということである。今後この影響がどのように出てくるかは現時点では全く不明である。ポストコロナ時代の趨勢とともに、留意していくことが必要であろう。

<生活者市場予測システム(mif) とは>
毎年6月に実施している生活者定点調査(ネット調査)で、約2,000問の調査項目で構成。

 20歳から69歳まで、性・年代別・地域別インターネット利用人口の構成比に合わせ割り付けを行ったベーシック調査(2011年より実施)と、調査項目は同一で70歳~89歳まで約4,000名を対象とした調査(シニア調査)、16歳~19歳約2,000名を対象とした調査(ティーンズ調査)がある。
 本稿の2.は上記3つの調査の合計、3、4はベーシック調査結果を用いている。また、本稿では各世代を上表の生年が該当するものとして集計している。

高橋 寿夫(たかはし ひさお)
株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 主席研究員

1989年三菱総合研究所に入社後、主に公共事業事業性評価や技術起点の新規事業戦略立案業務に従事。
2011年10月より生活者を対象とした大規模調査「生活者市場予測システム(mif)」で収集した定性・定量データを用いた、ライフスタイルや消費行動分析を手がけ、対外発信も多数実施。
2017年10月よりプラチナ社会研究会事務局長を経て現職。