第27回
大変化は発展の絶好のチャンス

大坪檀のマーケティング見・聞・録

この春、日本マーケティング協会の機関誌『マーケティングホライズン』では編集委員が一新されるとともにウェブ版が新たに登場。紙媒体はそのまま存続するがウェブ版の同誌を誰でも無料で読むことができることとなった。

 アメリカマーケティング協会(AMA)は日本マーケティング協会と親密な連携関係にあり、30年近く国際会議や情報、意見の交換会、講師の派遣交流などを行ってきた。AMAは機関誌『Marketing News』誌を毎月発行していたが、現在はウェブ化されていて会員以外でも無料で限定的であるが主要論文、情報記事を読むことができる。
 およそ25年前、ホライズン誌に筆者が囲み記事を毎号執筆することになったのは当時紙媒体で発行されていたこの『Marketing News』誌記載の主要論文や情報記事の中から筆者の独断と偏見で日本のマーケターに参考となるものを選んで紹介することにあった。その後、同誌は前述のとおりウェブ化され、日本のマーケターの中にはウェブ版を読まれる方も増えたので、筆者は時に応じてウェブ版の中から注目記事論文を紹介することとし、筆者の囲み記事も変容し今日に至っている。今後も時に応じてこの紹介を継続するつもりだが、日本のマーケターの方にはAMAのホームページで直接記事に目を通されることを勧めたい。「American Marketing Association」で検索すればすぐホームページ(web site)に接することができトレンディな記事がすぐ目に入る。
 このようなことを勧めると、「英語で読むのですか」といったつぶやきが耳に入ってくるが、マーケティング活動はもはやグローバル化しておりマーケティングの分野でも英語は国際語、マーケティング関連の記事、論文、情報に接するには英語は不可欠。日本のビジネス活動はますますグローバル化し、国際的に活躍できるマーケターの需要は一層高まる。プロのマーケターには英語の習得は必須の時代という自己認識が必要だ。筆者の経験から言えば、マーケティングの基本を体得していれば英語でマーケティングの記事、論文、情報はちょっとした努力で読むことができる。日本では英会話能力を強調する傾向がみられるが、英語の読み書き能力がプロのマーケターには求められるのだ。AMAの『Marketing News』誌をウェブ版で読んでみると自分の英語能力を知ることもできるし、自分のマーケティング英語力を伸ばすよい機会にもなる。
 異文化圏のマーケティングの知識、情報を増やそうとするならば、アメリカ以外の英語圏の国のマーケティング協会のウェブページに接し、その国のマーケティング協会が掲載している記事、情報を読む手もある。インターネットのおかげで我々は今や世界中のありとあらゆる情報に接することができるようになった。
 コロナ禍でアメリカのマーケターが直面した課題にどう対応するか論じる記事に、「マーケターは目前の問題にどう対処するかが大事だがコロナ禍が収束する先を洞察するために経済誌に目を通せ、ウォール・ストリート・ジャーナルを読め」というアドバイスが目に付いた。自分の業界のニュースばかりに目を向けていると将来の対策を誤るという論調だった。
 業界紙と呼ばれるメディアはものすごい数で多種多様、多分野に及ぶ。筆者は昔、タイヤ業界にいたので今でもタイヤの業界紙に目を通す。現在は大学人なので教育関係の業界紙、広告団体の業界紙にも目を通す。
 市町村の出す広報誌も宝の山だ。高齢者問題や人口減少の課題がよく見える。多くの会社が出している社内報も社会の動きを知る上で優れた情報源だ。会社の動向、未来、会社員社会の細かな動きに接することもできる。行政機関には色々なデータの鉱山がある。
 紙媒体に加えて、インターネットで入手できる情報で色々な業界が直面している課題、現況などを知りうる範囲が拡大し、これらの異分野情報から自分たちが関係する分野の問題を紐解く鍵を手にすることもできる。
 日本の産業界がコロナ後に直面する世界は不確実な大変化の一字。大変化は発展の絶好のチャンス。ウクライナ戦争後の日本は人口減少、急速に展開する高齢化社会に突入。複雑なサプライチェーン、急速なグローバル化経済の進展、エネルギー問題の中で次なる課題を読み解き、発展策を見つけ腕を振るう新たなチャンスがマーケターにやってきた。今こそマーケターが情報意識をフル活動させ、情報の山から発展の新たなカギを掘り起こすときだ。

Text  大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 所長